偏愛的プレミアリーグ見聞録

プレミアリーグを、そしてイングランド代表をずっと見続けてきたファンは、その瞬間、ウェイン・ルーニーがいつものゴールシーンと違う表情を浮かべているのを見て取ったでしょう。 仲間からの祝福を受け、宙を見上げるルーニーは、自らがイングランド代表で記録した数々のゴールを反芻しているような、感極まった表情を浮かべていました。あらためて、イングランド代表歴代単独1位となる50ゴール達成、おめでとうございます。2003年2月、17歳で代表デビュー。その年の9月に初ゴール。代表通算107試合め、最初のゴールから12年2日を経て到達した大記録は、ご本人も述べていたとおり、30歳になる直前に達成したスピーディな記録でした。長きに渡り、大きなケガなくコンスタントに結果を出し続けてきたこと自体が、既に素晴らしいのだと思います。イギリスメディア「BBC」は、プレミアリーグが誇るストライカーのコメントを紹介しています。

「素晴らしい気分だ。この何試合かで記録に近づき、ついに夢がかなった。代表選手として数多くの試合に出場してきたけれど、これが最後のゴールにならないことを願っている。僕と家族にとって特別な夜になったね。この瞬間を生涯、忘れることはないだろう。PKを蹴るときはすごく緊張していた。僕僕のサッカー人生にとって大きな意味を持つ瞬間だとわかっていたからね。サポーターが撮影する携帯のフラッシュが光って、コンサートのようだったと後でチームメイトが教えてくれた」（ウェイン・ルーニー）

22歳のハリー・ケインや20歳のスターリングなど若手が自分の記録を破ってくれたらいいと思う、と語るほど、ルーニーは大人の選手になりました。マンチェスター・ユナイテッドのサポーターとして、プレミアリーグでその姿を観続けてきた選手がここまで凄い選手になったことに、格別の喜びを感じます。記録を塗り替えられた77歳のサー・ボビー・チャールトンも、率直に悔しさを表明しながらも、半ばはマン・ユナイテッドのサポーターとして代表の史上最多ゴールスコアラーを祝福しています。

「ウェインを祝福したい。自分が記録保持者でなくなったことにがっかりしていることは否定しないが、私の愛するクラブと代表でキャプテンを務める選手が、新しい記録を作ったことを喜ばしく思っている」（ボビー・チャールトン）

さて、当事者のコメントを紹介させていただいたところで、ここからは、ルーニーに対するさまざまな方からの祝福の声をピックアップしてまいりましょう。まずは、イングランド代表の指揮官とキャプテンとして、強い信頼関係で結ばれたロイ・ホジソン監督です。

「代表のゲームは1年で10試合ほどあるが、ユーロ2016で勝ち進めばさらに試合数は増える。ルーニーが2018年のワールドカップまでプレイするとすれば、20から30のゲームに出場することが可能だ。ここからさらに10～15ゴールを挙げられるだろう。歴代最多得点選手というのは素晴らしい記録だが、サー・ボビー・チャールトンのために、ひとこと付け加えたい。彼はレジェンドであり、最高の選手のひとりだ。記録が破られたからといって、彼の評価が下がったり、貶められることはない。サーとウェインというイングランドにおいて最も優れた選手2人について語っているわけだが、そのうちの1人を監督として起用することができるとは、私は非常に幸運だね」（ロイ・ホジソン）

さすがの気遣い。数字もリアル。ホジソン監督はオトナです。美しすぎるコメントが続いたので、ここでひとつ、天然キャラを放り込んでみましょう。イングランド代表のキャプテンとしても、マンチェスター・ユナイテッドの忘れえぬプレイヤーとしても先輩のこの方です。

「ルーニーは、あと5年はイングランド代表でプレイできるだろう。素晴らしいタレントだから、そうなることを願っている。彼がどれだけの価値がある選手なのかは誰もが知っているね。イングランドにタイトルをもたらすことができたら、これ以上素晴らしいことはないだろう」（デヴィッド・ベッカム）

ええと、その通りだと思いますが、若干夢見がちですね。タイトル…。ホジソン監督のコメントの後にこんなことを書くのも何ですが、イングランド代表にとっては、ユーロのベスト4に残れば大成功でしょう。勝負強さに欠けるベルギーや、スケールの大きい選手が減ったイタリアは食えるかもしれませんが、スペイン、ドイツ、フランスに勝てるイメージはありません。5年というと、2020年のユーロ、33歳ですか。そこまでルーニーがエースだとしたら、むしろハリー・ケインやスタリッジが結果を出せていないのではないかと心配です。と、ここでもうひとり、記念すべき試合でキャプテンとともにゴールを挙げた後継者の声も紹介いたします。「スカイスポーツ」より、どうぞ。

「ルーニーが代表でゴールを決めるのを見て、僕は成長してきたんだ。記録を達成したときに同じピッチに立っていられたのは、僕にとっても特別な瞬間だった。彼が実現したことを誇りに思う。これからもイングランドに、多くのものをもたらしてくれるだろうね」（ハリー・ケイン）

昨季は後半戦のラッシュでプレミアリーグ得点王まであと一歩に迫り、代表では4試合出場で既に3ゴール。イングランドの次世代を担うのがハリー・ケインであることは、多くのプレミアリーグファンが予感しているでしょう。大先輩同様に、ケガで大事な大会を棒に振ることなく、ゴールを量産し続けていただければと期待しています。最後に、オチ要員というわけではないのですが、あまりに生真面目な性格をときどきいじられているこの方が、ゴールが決まった瞬間駆け寄ってビミョーなジョークを飛ばしたという「デイリー・ミラー」の報告で締めたいと思います。ジェームズ・ミルナーさん、そのジョークは、マンチェスター・ユナイテッドのサポーターとしては「今、その話はやめて！」といいたくなるのですが…。

“Congratulations, record goalscorer. Now get in midfield with me”
（おめでとう、最多ゴール・スコアラー！よし、これから僕と一緒にミッドフィールドに入ってプレイしようよ）

…何度読み返してもビミョーですが、ルーニーにはウケたそうです。以上、イングランド代表においてアンタッチャブルだった記録を自らのものにしたストライカーに対する数々の言葉を紹介させていただきました。やはり、締めの言葉はミルナーのジョークよりも、「ご本人が語る自身の未来について」のほうがよさそうです。「BBC」「スカイスポーツ」より。

「自分が代表招集に応じる用意がなくなることはないと思う。僕がどうというより、監督のチョイス次第だろう。僕にとって、イングランド代表でプレイするのは大変な名誉なのだから。（2018年ワールドカップの）ロシアに行くことはできると思う。それから先は、現実を見極めてとなるだろうね。続けられると思えればトライするけど、イングランドや自分のために代表でプレイするのは適切ではないと感じたら、決断を下さなければいけない。監督から次の大会では構想外だといわれたら、予選もプレイしない方がいい。本大会に出られないならね」（ウェイン・ルーニー）