偏愛的プレミアリーグ見聞録

ケガで休んでいる間にポジションを奪われる…プロのフットボールプレーヤーにはよくある話です。2021年の夏にアーセナルに移籍した冨安健洋は、絶対的なレギュラーとして最初の4ヵ月を過ごした後、3度も負傷に見舞われ、消化不良でシーズンを終えました。

最初の2回はふくらはぎで、3度めはハムストリング。オフシーズンを治療に費やしたフルバックは、プレミアリーグ開幕節のクリスタル・パレス戦に間に合いませんでした。右サイドにはベン・ホワイト。定位置だったCBをウィリアム・サリバに明け渡したイングランド代表は、デュエルの強さと的確なタックルで指揮官の期待に応えました。

プレミアリーグと欧州を両立させたいビッグクラブは、負傷が多い選手のポジションにはレギュラークラスを補強します。チルウェルが長期離脱となったチェルシーは、ブライトンのマルク・ククレジャ。コンディション不良が多いルーク・ショーは、タイレル・マラシアにポジションを奪われかけています。

アーセナルは、ウィリアム・サリバの復帰が右サイドの強化にもなっています。冨安健洋のバックアッパーがセドリクなら、復帰すれば即スタメンですが、ベン・ホワイトはやっかいなライバルです。

チームの状態がいいときはメンバーを固定するアルテタ監督は、昨季のレギュラーCBを当然のように右で起用し続けています。レスター戦は今ひとつだった4番は、ボーンマス戦でパス成功率95%という数字を残しました。

フラム戦もアストン・ヴィラ戦も、的確なパスワークで勝利に貢献。中央のカバーを強いられるシーンが多かったマンチェスター・ユナイテッド戦も、それ自体が出番を失う理由にはならないでしょう。

2節のレスター戦で15分プレイした冨安健洋は、その後も途中出場が続き、プレミアリーグの出場は5試合67分に留まっています。ようやく巡ってきた今季最初のチャンスは、ヨーロッパリーグのチューリヒ戦でした。

最後まで右サイドを落ち着かせ、パス成功率95%、デュエル＆タックル6戦全勝、ロングフィード6本の成功率100%、ファイナルサードへのパス24本という圧巻のパフォーマンス。現地メディアと熱いグーナーから、冨安待望論が沸き起こっています。

26分の出場だったアストン・ヴィラ戦とELを見ると、攻撃においては冨安のほうがベン・ホワイトより機能しそうです。ヴィラ戦の決勝ゴールは、マルティネッリのパスをボックス右手前で受けた冨安が仕掛け人となりました。

SBが外にいたサカに預け、ファーに浮いたボールをマルティネッリがハーフボレー。あの位置にフリーでいてくれると、ティアニーやマルティネッリは迷わず高速グラウンダーを中央に送れます。ベン・ホワイトの後方からのフィードも魅力ですが、前線でのポジショニングとオーバーラップはやはり冨安。クロスの精度が上がれば、再び絶対的なレギュラーでしょう。

エヴァートン戦とPSV戦が中止となり、次戦は週末のブレントフォード。ターンオーバーを必要としなくなったアルテタ監督は、ベストメンバーを揃えるのではないでしょうか。右サイドはベン・ホワイトか、冨安か。指揮官の選択に注目しましょう。