偏愛的プレミアリーグ見聞録

プレミアリーグ28節は、エミレーツでブレントフォード。所属クラブとのゲームに出られないダヴィド・ラヤに代わって、アーロン・ラムズデールがゴールマウスに立つはずです。25歳のイングランド代表GKが最後に出番を得たのは、FAカップ3回戦のリヴァプールとのホームゲーム。キヴィオルのオウンゴールとルイス・ディアスの1発で、0-2で敗れた一戦です。

2ヵ月ぶりのスタメンは、アーセナルにおけるラストマッチとなるのでしょうか。今季公式戦の出場は10試合。プレミアリーグはラヤが来るまでの4試合と、11月のブレントフォード戦のみです。5試合で4失点は無難な戦績ですが、セーブ率は60％。プレミアリーグのレギュラーGKで、彼を下回る数字を持つ者はひとりもいません。

昨季プレミアリーグで38試合にフル出場し、クラブのTOP4復帰に貢献したラムズデールは、夏までは順風満帆でした。2022-23シーズンが終わるとすぐに、2028年までの新たな長期契約を締結。「家族のような雰囲気がある。ここ以外にホームがあるとは思えない」と語っていた守護神は、20年ぶりとなるプレミアリーグのトロフィーとユーロ2024を視界に捉えていたはずです。

「みなさんが歓迎してくれたことを、光栄に思う。スタッフが残留を望んでくれたのも光栄なことだ。自分の将来をアーセナルに託すのは、世界で最も簡単な決断だった。クラブとして前進を続けて、もっと特別な思い出を作りたい」

彼の人生を変える出来事が起こったのは、開幕戦でノッティンガム・フォレストを2-1で下した直後でした。ダヴィド・ラヤのレンタルフィーは300万ポンドで、2700万ポンドの買い取りオプション付きと報じられました。GKが代わったのは、5節のエヴァートン戦。プレスルームでラヤを起用した理由を聞かれたアルテタ監督は、こんなコメントを残しています。

「いくつか、後悔したことがある。そのうちのひとつは、60分や85分にGKを代えようかと考えた2試合だ。結局、そうはしなかった。勇気もなかった。リードをキープするためにウィングやストライカーをCBに代えることはあるのに。われわれはその2試合をドローで終えた。とても不満だった。不可解といわれるかもしれないけど、GKを交代して流れを変えるのはダメなのか？」

この話をすんなり受け入れた記者がいたら、ぜひお目にかかりたいものです。フィールドプレーヤーのターンオーバーですら積極的ではない監督が、GKを試合中に代える気がないのは明らかでした。ラヤとラムズデールを同等と考えているなら、イングランド代表GKのチャンピオンズリーグ出場は、消化試合となったPSV戦だけにはならないでしょう。

「わずか半年で、ラムズデールほど突然かつ劇的にフットボールプレーヤーの軌跡が変わることはめったにない」。現状をレポートした「テレグラフ」のサム・ディーン記者は、「フットボーラーの人生が、どれほど早く変化するか。とりわけゴールキーパーにとって、フットボールはどれほど残酷なスポーツたりえるか」と、活躍の場を奪われた男の境遇を嘆いています。

アーセナルに別れを告げるとしたら、彼はどこにいくのでしょうか。リヴァプールのアリソンと、マン・シティのエデルソンはアンタッチャブル。マンチェスター・ユナイテッドのオナナは自分のスタイルを取り戻しており、トッテナムでビッグセーブ連発のヴィカーリオは、今やリーグ屈指のショットストッパーです。

ロベルト・サンチェスとペトロヴィッチを抱えるチェルシーは、前線と最終ラインの強化を優先するでしょう。ニューカッスルも、ポープを売ってラムズデールに投資する可能性は低く、ウェストハムはアレオラとガチンコ勝負です。ヴィラにはエミ・マルティネスが君臨。ブライトンのデ・ゼルビが去れば、パスワーク重視だったGKの評価基準がかわるかもしれません。

プレミアリーグのビッグクラブがGKで困っていないなら、海外で勝負か。先行き不透明なラムズデールですが、はっきりいえることが3つあります。ひとつは、未来が見えない状態が5月まで続くということ。もうひとつは、アーセナルにとってはラヤとラムズデールを選べる今がベストだということ。3つめは、久々の出番となる今日の試合が楽しみだということです。