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偏愛的プレミアリーグ見聞録

マンチェスター・ユナイテッドファンですが、アーセナル、チェルシー、トッテナム、リヴァプール、エヴァートンなどなど何でも見てしまう雑食系プレミアリーグファンです。プレミアリーグ観戦記、スタジアム、チーム情報からロンドンやリヴァプールのカルチャーまで、幅広く紹介しています。

美しさより速さ、強さ…プレミアリーグのゴールランキングは正統派のストライカーが減少中?

いきなり余談ですが、最近のプレミアリーグを見ていると、何かゴツゴツしていると思いませんか?「豪快」「強烈」と表現したくなるゴールシーンが目立っており、きれいなパスワークで守備を崩して決める美しいゴールが減った感があります。ゴールランキングを見ると、3ゴール以上はターミネーター、ファイター、スピードスターと表現したくなる選手ばかりです。

ランキングTOPのアーリング・ハーランドは、フィニッシュの形が多様なオールラウンダー。しかし、10ゴールのうち4つはロングフィードからの独走で、2つは左足のハンマーシュートです。ゴール前でパスをもらったフィニッシュも2つあるのですが、いずれもミスパスを拾ってねじ込んでいます。彼のゴールシーンで素晴らしいラストパスといえるのは、カウンターでラインの裏に出たボールのみです。

5戦5発で2位のルイス・ディアスは、疲れ知らずのファイターで、ロングカウンターから2発、ショートカウンターからサラーのクロスで2発。残るひとつは、コナテのロングフィードを最前線で受け、ボックスから飛び出したGKケパをかわして決めています。5ゴールのうち4つは、敵陣で相手のミスに乗じてフリーになっており、美しいといいたくなるフィニッシュはありません。

4ゴールで3位のニコラス・ジャクソンとジョン・デュランは、裏抜け系と超人系です。チェルシーのストライカーのゴールはカウンターが2発、CKから1発と、カイセドのスルーパスで裏に抜けてGKと1対1。引いた相手をきれいに崩したゴールがないのは、上位の2人と同じです。ジョン・デュランは驚異のストライカーで、2023-24シーズンからのプレミアリーグの9発中、8発が途中出場です。

昨季の90分あたりのゴール数0.97は、ハーランドを上回るプレミアリーグNo.1。今季の2.75は、2.26のハーランドと1.25のルイス・ディアスを大きく引き離しています。彼のゴールをチェックしてみると…エヴァートン戦のロングシュートは、今季のゴール・オブ・ザ・シーズンの候補になりそうなスーパーショットですが、他の3つは左からのサイドアタックでした。

ウェストハム戦はジェイコブ・ラムジーのグラウンダーで、レスター戦のヘッダーはディーニュのクロス。ウルヴス戦は、モーガン・ロジャースが中央に転がした優しいラストパスを無人のゴールに流し込んでいます。存在自体はモンスターのジョン・デュランは、決め方は正統派のワンタッチゴーラー。「ターミネーターとファイターばかり」は、いいすぎだったかもしれません。

ブラントフォードの躍進を支える4ゴールのエンベウモと3ゴールのウィサは、リーグ屈指のカウンターコンビです。マン・シティ戦は開始23秒のサイドアタックから、ウィサのヘッダーで先制。トッテナム戦も、キックオフから22秒でエンベウモがスーパーボレーを決めています。いずれも逆転負けで、「出オチ」となった感がありますが、他の5ゴールは勝利に直結しています。

その内訳を調べてみると、長短のカウンターで3発、セットピースとアーリークロスからのこぼれ球がひとつずつ。やはりスピード&パワーという印象です。3ゴールといえば、ウルヴス戦のノニ・マドゥエケのハットトリックは、3つとも中央のコール・パルマ―から右にラストパスが出た直線的なアタックでした。

3戦連続ゴールを決めたニューカッスルのハーヴィー・バーンズは、左からのクロスをボレーで叩き込んだ後、強烈なミドルとカウンター。開幕から3連発のモー・サラーは、ラインの裏に出たこぼれ球と、ショートカウンター2発です。サイドアタックや中央のパスワークで守備を崩したゴールの比率が高いのは、オリー・アトキンスとジョン・デュランのヴィラコンビだけです。

美しさ、巧みさより強さ、速さ。この傾向が高まったのは、プレミアリーグの近年の変化によるものでしょう。ペップが持ち込んだポゼッションサッカーと、ユルゲン・クロップのゲーゲンプレッシングはさまざまな解釈が重ねられ、ここ数年は中堅クラブや小規模クラブでも、ビルドアップ、ハイプレス、スピーディーなトランジションは当たり前になっています。

何よりも、監督が代わりました。アストン・ヴィラのウナイ・エメリ、フラムのマルコ・シウヴァ、ボーンマスのアンドニ・イラオラ、クリスタル・パレスのオリヴァー・グラスナー、ブレントフォードのトニー・フランク。スペイン、ドイツ、オランダの監督が増え、現在の14位以上でイングランド人は、ニューカッスルのエディ・ハウだけです。

ブライトンでデ・ゼルビの後を継いだヒュルツェラーも、後方でのハイテンポなビルドアップから一気にスピードアップする戦い方を志向しています。モイーズに慣れたチームを改革中のフレン・ロペテギは、時間がかかるかもしれません。昇格クラブを見ても、イプスウィッチのキーラン・マッケンナとサウサンプトンのラッセル・マーティンは、こちらの世界の住人です。

マイボールの際は後ろで組み立て、スペースにボールを運ぶと手数をかけずにシュートレンジへ。相手に持たれたら、できるだけ前で奪ってショートカウンターを仕掛けています。ゴールに速く迫るためには、右利きの左ウイングと右サイドのレフティは必須アイテム。どのチームでも、モー・サラーの後継者が続々と活躍しています。

今季のゴールとアシストのランキングを見ても、ルイス・ディアス、モー・サラー、ハーヴィー・バーンズ、ノニ・マドゥエケ、ブカヨ・サカが名を連ねています。ウイングとともに、SBもプレイのバリエーションを求められるようになり、ティアニーやチルウェルのように縦のオーバーラップを武器とするクラシックなタイプが居場所を失い始めています。

GKに求める要素も、ハイレベルになったといえるでしょう。ペップがジョー・ハートをブラボに代えたときは、足元の技術とパスワークが必要といわれておりましたが、オナナ、ラヤ、エデルソン、アリソンは、ハイプレスをかいくぐる中長距離のキックの精度も要求されています。そしてもうひとつ、近年のトレンドとして挙げたいのは、「セットピース専門コーチ」の存在です。

守備の機能性が高まり、ポゼッションを取ってじっくり崩すのが難しくなったため、セットピースの戦術の質を向上させるクラブが増えています。この分野ではリーグNo.1のアーセナルは、サカとデクラン・ライスのキックとガブリエウのヘディング、GKを押さえるマルティネッリやベン・ホワイトの連動性がなければ、スパーズとマン・シティから4ポイントをゲットできなかったはずです。

プレミアリーグから美しいゴールが減った…いや、美しさの質が変わったというべきでしょうか。後方から組み立てる普通のアタックでは、スペースも時間も与えられなくなったストライカーたちは、強さ、速さ、一瞬の判断力を求められています。必要最小限のアクションでケパをかわして決めたルイス・ディアスのようなゴールこそが、今風の美しさなのかもしれません。

ところでもうひとつ、余談なのですが、主に中小クラブでビルドアップのミスからの失点が増えているような気がしております。まずは事実確認と思ったのですが、まだ5節とはいえ、すべてのゴールシーンをひとりでチェックするとなると…。「アスレティック」「スカイスポーツ」あたりの優秀なリサーチャーの方々が、何か出してくれればいいのですが。この話は、近いうちに。


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