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偏愛的プレミアリーグ見聞録

マンチェスター・ユナイテッドファンですが、アーセナル、チェルシー、トッテナム、リヴァプール、エヴァートンなどなど何でも見てしまう雑食系プレミアリーグファンです。プレミアリーグ観戦記、スタジアム、チーム情報からロンドンやリヴァプールのカルチャーまで、幅広く紹介しています。

実力とタイミングと、相性と運と…ムドリクとトロサールが辿ったそれぞれのロンドンの軌跡。

プレミアリーグ7節、ノッティンガム・フォレスト戦の95分、ミハイロ・ムドリクのスピードとクロスに目を奪われました。ロベルト・サンチェスのビッグセーブで左に流れたボールをククレジャがキープし、外にいたムドリクにパスが通ると、自陣の深い位置から始まったドリブルは絶品でした。

ボールタッチは自らのスピードを落とさない的確な長さで、タッチラインを出そうで出ない完璧なコース取り。スタンフォード・ブリッジは、直線を走り抜ける本命馬に魅入られたような絶叫に包まれています。ボックスの左脇まで持ち込んだウインガーは、トップスピードのままで完璧なクロスを中央へ。エンクンクのダイビングヘッドが決まっていれば、ヒーローでした。

ジョアン・フェリックス、サンチョ、ペドロ・ネトら続々とライバルが加わり、出番が激減するといわれているムドリクは、少ないチャンスを活かしてポテンシャルの高さを見せつけています。カラバオカップのバロー戦では、ボックス右からの丁寧なクロスでレナト・ヴェイガの初ゴールをアシスト。調子はよさそうですが、レギュラー奪取までの道のりは険しそうです。

チェルシーへの入団が発表されたのは、2023年1月15日。直前までアーセナルに移籍濃厚と伝えられていたのですが、エドゥSDが提示した条件にシャフタール・ドネツクのセルゲイ・パルキンCEOが難色を示し、総額8500万ポンド超といわれるハイジャックが成立しました。アーセナルに行きたかったムドリクは、空港に向かう車のなかで涙を流したと伝えられています。

エドゥSDとアルテタ監督のセカンドチョイスは、ロベルト・デ・ゼルビ監督との確執で居場所を失ったと報じられていたレアンドロ・トロサール。ブライトンに支払った移籍金は、総額2700万ポンドといわれています。ウクライナのクラブを納得させたチェルシーのインターセプトをきっかけに、ロンドンに降り立った2人のアタッカ―は、その後の1年半で明暗が分かれました

グレアム・ポッターの下で試行錯誤していたチェルシーで、ムドリクはくすぶっていました。入団当時、ウクライナプレミアリーグはウインターブレイクに入っており、いきなりの本番は難しかったのでしょう。語学力もネックで、戦争が続く故郷に募る不安や内向的な性格も、新たな環境になじむのに時間がかかった理由といわれています。

片やトロサールは、ブライトンの前線でプレミアリーグ16戦7ゴール3アシストと絶好調でした。明らかにモチベーションが高く、戦術が明確だったアルテタのチームにすんなりフィットしています。アーセナルの最初の半年は、左右のウイングとCFでプレミアリーグ20戦1ゴール10アシスト。マルティネッリの調子が上がらなかった2年めは、モデルチェンジに成功しています。

左サイドと最前線を主戦場として、チャンスメーカーからフィニッシャーへ。公式戦46戦17ゴール2アシスト、プレミアリーグ34戦12ゴール1アシストで、負傷が多かったジェズスの穴も埋めています。チャンピオンズリーグではポルト戦とバイエルン戦で連発し、チェルシーとのダービーは2戦2発。3トップに加えて、インサイドMFでもプレイできるユーティリティも高評価です。

アーセナルで77試合20ゴール13アシストのトロサールに対して、ムドリクはチェルシーで66試合7ゴール7アシスト。ベルギーメディアの取材に「アーセナルでの2年で、安定してパフォーマンスを発揮できている。チームも好調で、快適だね。自分に満足している。ピッチを見ていればわかるだろう」と答えたトロサールに対して、ムドリクは不穏なゴシップが続出しています。

「フットボールロンドン」のマーク・ウェイクフィールド記者は、「市場価値が急落」と見出しを立て、「Transfermarkt」の評価額は2500万ポンドとレポート。「エクスプレス」は、「ディサシ、バディアシル、チルウェルとともに売却候補となっている」と伝えています。公式戦8試合ノーゴールとなれば、インターナショナルブレイクの読み物のネタにされるのもやむなしです。

しかしまだ、チェルシーでのチャレンジが終わったわけではありません。急激に厳しくなったポジション争いに勝たなければなりませんが、巻き返しの可能性は残されています。ポッター、ランパード、ポチェッティーノと監督が変わり、苦しんだ季節の記憶をリセットして、希望が見えてきたクラブとともに持てる力を発揮していただければと思います。

ムドリクがアーセナルに入団していたら…。語学の問題や母国の状況が彼の集中力やモチベーションに影響を与えたのなら、同じように苦しんだかもしれません。今いえるのは「アーセナルとトロサールは、いい出会いだった」というだけです。とはいえ、彼も現在進行形でスターリングやマルティネッリとの戦いを続けており、輝かしい未来は自らの力で創らなければなりません。

実力とタイミングと、相性と運と。アレクシス・サンチェスのマンチェスター・ユナイテッドへの移籍が、準備期間が得られる夏だったら。モー・サラーがチェルシーに移籍したタイミングでリヴァプールに入団していたら。それぞれ、現実とは別なストーリーを描いていたでしょう。厳しい状況に陥っている選手を見るたびに、戦うステージの選択はいかに難しいことかと思います。

少しだけ光が差してきたように見えるムドリクに、素晴らしい未来が待ち受けていることを願っています。まずは目に見える結果…すなわち、ゴシップを笑い飛ばすようなゴールを。


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“実力とタイミングと、相性と運と…ムドリクとトロサールが辿ったそれぞれのロンドンの軌跡。” への1件のコメント

  1. minus zero より:

    タラレバでいうと、もしあのタイミングでムドリクがアーセナルに来ていたら、あの時点ではチーム事情として、はっきり必要とされていたポジションだったため、以降しばらくは継続的に使われていただろうこと。さらには、同郷のジンチェンコがスカッドにいることが、ピッチ内外で何らかの助けになったのではないかと想像されます。

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