偏愛的プレミアリーグ見聞録

昨シーズンは、プレミアリーグ29試合1ゴール。カイセドとラヴィアを獲り逃したリヴァプールに、遠藤航は必要な存在でした。しかし今季は、リーグ2試合とCL1試合で出場時間はわずか3分。ユルゲン・クロップの信頼を得た日本代表のアンカーは、アルネ・スロットのチームではベンチが定位置となっています。

情熱的なレッズサポーターのなかには、遠藤航の冷遇に異を唱える向きもあるようです。しかし現状は、「新指揮官は適切な判断をしている」と見るのが妥当でしょう。遠藤の2週間後に入団したライアン・フラーフェンベルフが、首位快走の原動力となる素晴らしいパフォーマンスを披露しているからです。

昨季の遠藤と今季のフラーフェンベルフを比べると、スロット監督がアンカーを代えたのは同郷だからではないことがわかります。最大の違いは、対人プレーの強度です。遠藤のデュエルの勝率は44.1％で、空中戦が53.4％だったのに対して、フラーフェンデルフは64.1％と77.8％。日本代表は42分に1回、ドリブルで抜かれているのですが、オランダ代表は157分に1回です。

遠藤のドリブル成功は、フルシーズンで10回。フラーフェンデルフは既に7回。相手を背負った状態から、振り向きざまに抜き去る「フラーフェンベルフ・ターン」は、直線的なアタックに厚みを持たせる強力な武器です。インターセプト12回とリカバリー42回は、いずれも今季プレミアリーグのMFの3位で、推進力と守備力の両立によってスロット監督の信頼を得ています。

セントラルMFの下克上は、クロップとスロットのコンセプトや選手に対する評価の違いより、22歳の新鋭の変化によるところが大きいのではないでしょうか。「最初の1年は、バイエルン時代より出場機会を増やすのが目標だった」と語るMFは、2年めのゴールを「より多くのトロフィーを勝ち取ること」に引き上げています。

「プレミアリーグの最初のシーズンとしては、まずまずの出来だったと思う。アップダウンはあったけど、最終的にはリヴァプールの初年度をいい感触をもって振り返ることができる。プレミアリーグは、ドイツのフットボールよりスピードがある。ポゼッションを取ったときも、プレスをかけているときも、より激しい」

「カウンターアタックは速い。ブンデスリーガでは、ボールを持っていれば時間をもらえる。こちらにフィットしなければならないけど、どれほど早く適応できるかは人による。選手はそれぞれ違う。正直にいえば、慣れるまで一定の期間がほしかった。ここに来るまでプレミアリーグでプレイしたことがなかったので、適応する時間が必要だった」

マック・アリスターやショボスライとの連携がスムーズになり、「今は自分たちのプレースタイルを楽しんでいる」と語るフラーフェンベルフは、まだまだ伸びしろがありそうです。その一方で、これまでは出番に恵まれなかった遠藤航も、スケジュールがタイトになる年末年始は出場機会が増えるのではないかと思われます。

フラーフェンベルフの移籍金は3500万ポンド、遠藤航は1600万ポンド。リヴァプールの昨夏の中盤強化は大成功といえるでしょう。クロップのレガシーをうまく引き継ぎ、自らのカラーを加えたスロット監督は、初年度からトロフィーを獲得できるのか。フラーフェンベルフ、エリオット、ブラッドリー、クアンサーら若手のパフォーマンスが、成否を分けるカギになりそうです。