18歳のルイス・スケリーと32歳のダン・バーン、それぞれのイングランド代表デビューまでの軌跡。

左サイドの候補として、アンソニー・ゴードンとエゼもいたのですが、久々に選ばれたラシュフォードは気合いが入っていたのでしょう。調子がいいときの彼は、トレーニングでも味方を驚愕させるプレイを見せるとマンチェスター・ユナイテッドの選手たちが証言しています。トゥヘル監督は、ヴィラで元気になったアタッカーのスピードに期待したのだと思われます。
問題は、最終ラインです。今回の23人をひと目見たときの予想は、リース・ジェームズ、グエイ、コルウィル、リヴラメントだったのですが、ウェンブリーのピッチに立った4人は全員ハズレでした。右のフルバックはカイル・ウォーカー。ミランでレギュラーポジションを得ていたとはいえ、既に34歳です。さらに中央のコンサとダン・バーンも、想定外のコンビでした。
パウ・トーレスが復帰してからも、ヴィラのセンターに君臨しているコンサと、ボトマンの長期離脱でCBにまわったダン・バーンの調子がいいのは確かです。しかしコンサの代表デビューはちょうど1年前のブラジル戦で、ダン・バーンは32歳にして初選出です。プレミアリーグのパフォーマンスと実績を掛け合わせるなら、なおさらグエイは外せないでしょう。新監督は、大胆です。
左サイドも、白いシャツを初めて纏うマイルス・ルイス=スケリー。カラバオカップでモー・サラーを封じたリヴラメントを差し置いての登場です。ユーロ2024のファイナリストとFIFAランキング65位の一戦は、圧勝が期待されたのですが、2-0という微妙な結末でした。「BBC」のフィル・マクナルティ記者は、「トゥヘルの4-2-3-1は大成功とはならなかった」と評しています。
2度の決定機をビッグセーブに阻まれたベリンガムと、きわどいシュートを連発しながら1ゴールに終わったハリー・ケインがもっとチャンスを活かしていれば、試合の全体的な印象は変わっていたでしょう。メディアの注目を集めたのは絶対的エースとプレーメイカーではなく、代表デビューを果たした2人のDFでした。
ベリンガムの美しいスルーパスが、ラインの裏に出たのは20分。10番がターンして前を向いた瞬間、左のラシュフォードは脇でパスを要求しており、前線に選手がいるようには見えませんでした。GKの前に飛び出したのはルイス・スケリー!ストラコシャの股間を抜いたクレバーなSBは18歳175日で、イングランド代表のデビュー戦最年少ゴールの記録を更新しました。
アーセナルでのトップリーグデビューは、ちょうど半年前の9月22日。冨安健洋のリタイアがなければ、18歳をいきなりマンチェスター・シティ戦で抜擢というチョイスはなかったはずです。初めてのピッチに立つ直前に、ダヴィド・ラヤに指揮官のオーダーを届けにいってイエローという稀有な記録を残したSBは、ドリブルとパスワークを武器として一気に駆け上がりました。
プレミアリーグの初先発は、12月のエヴァートン戦。1月のウルヴス戦で理不尽なレッドカードを喰らった直後、マン・シティとのホームゲームで初ゴールをゲットし、デビュー戦で「オマエ誰だよ?」といってきたハーランドのセレブレーションをいじって話題になりました。さらに2試合後、ウェストハム戦で2度めのレッド。その足跡は、激動の半年という言葉がぴったりです。
1-0の前半終了間際、右からのCKがファーに上がると、中央から左に流れたダン・バーンは空中でフリーでした。201cmの長身からのヘッドは、カラバオカップ決勝の先制ゴールを左右反転させたような決定的な一撃でしたが、ボールはクロスバーに当たってデビュー戦ゴールとはなりませんでした。林さん風にいうと、バーンがバーにバーンです。
実況がスルーしたら、もう一度いうでしょう。「バーンがバーにバーンでしたね」。それはさておき、ルイス・スケリーより14歳年上のCBは、アマチュアからスタートの叩き上げで、ここまで来るのに16年かかっています。子どもの頃からニューカッスルのファンだったのに、11歳でユースチームから落とされ、スーパーでバイトしながら地元のチームを転々としていたそうです。
ニュー・ハートリー、ブライス・タウン、ブライス・スパルタンズ。18歳の頃は、身の丈に合わない巨大なスタジアムを建設して破産寸前だったダーリントンに所属しており、入団初年度にカンファレンスリーグに降格という憂き目に遭っています。ノースロンドンの名門でプレミアリーグデビューのルイス=スケリーとは別世界です。
初めてプレミアリーグでプレイしたのは、2013-14シーズンのフラムでしたが、こちらも翌シーズンにチャンピオンシップに降格。2016年に入団したウィガンも、2年めにリーグ1(3部相当)に転落しています。降格、降格、降格の後、ブライトンに拾われたダン・バーンは、27歳だった2019-20シーズンにようやくプレミアリーグでフルシーズンを過ごしています。
憧れだったニューカッスルに復帰したのは、2022年の冬。最初の半年はCBだったのですが、2023年からはボトマンの加入によって左のフルバックにまわされていました。あのままサイドにいたら長身は武器にならず、イングランド代表には縁がないまま、キャリアを終えていたでしょう。アルバニア戦のスタッツは、雑草の本気度が伝わってくるような数字が並んでいます。
137本のパスのうち、135本を通して成功率は99%。スリーライオンズのデビュー戦で100本以上を記録した初の選手となりました。クリア7回、タックル成功2回、空中戦勝利4回は、すべてチームNo.1。後半は疲れてしまい、アルマンド・ブロヤに苦しめられましたが、ワールドカップが視野に入る上々のスタートでした。
出会いと巡り合わせと実力と。ワールドクラスといわれる選手でも、監督との相性やチームのシステム、クロスバー&ポスト、負傷などといった運が作用する要素からは逃れられません。18歳の新鋭と32歳のベテランは、2026年の夏のステージに立てるのでしょうか。今はただ、彼らを抜擢した指揮官とともに無事に辿り着いてほしいとしかいえません。
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