「スペースを創造する魔術師」マルティン・ズビメンディがもたらしたアーセナルの進化。

これまでのゴールシーンと決定機を見ると、夏に加わったタレントたちは前任の補完ではなく、新たなアプローチを生み出していることがわかります。リーズ戦で初ゴールを決めたギョケレスは、左サイドに流れてカラフィオーリの浮き球を引き出しており、CLのオリンピアコス戦の先制シーンでも、ウーデゴーアの縦のスルーパスでラインの裏に抜けてGKと1対1になりました。
とりわけ目を引くのは、最終ラインの背後を取る長短のボールが増えたことです。ノッティンガム・フォレスト戦の2点めはカラフィオーリからエゼ、マンチェスター・シティ戦はエゼからマルティネッリ。ウェストハム戦は、ズビメンディがエゼとティンバーに出した縦のボールがゴールにつながっています。
こう書くと、「ギョケレスやエゼを獲得したのは正解だった」という話に見えます。カイ・ハヴェルツやミケル・メリノにはできないラインブレイクを得意とするストライカーや、意外性のあるパスで中央からも崩せる10番の加入が、アーセナルの攻撃の幅を広げているのは間違いありません。しかし、今季の進化の本質を語るなら、彼らの後方にいる黒幕に目を向けるべきです。
トーマス・パーティーの後を継いだマルティン・ズビメンディ。プロレス風にひとことで表現するなら、「スペースを創造する魔術師」でしょうか。中盤の底で左右に散らすトーマスには、上下の概念がなかったのですが、ズビメンディは縦に動くことでスペースを創り、味方をフリーにしてロングフィードを生み出しています。
指揮官と同じバスク出身のプレーメイカーがもたらした流動性は、これまでにはなかったスピーディーなチャンスメイクを可能にしています。代表的なシーンを3つ紹介しましょう。ひとつめは、ノッティンガム・フォレスト戦の鮮やかな速攻。ラヤがモスケラに預けたとき、ボールをもらうために下がったズビメンディは、ヌワネリに縦パスが出たのを見て作戦を変更しました。
ギブス=ホワイトを引き連れて上がることで、ヌワネリからパスをもらったカラフィオーリの前に広大なスペースが生まれました。前線の動きを見る余裕があった偽SBは、左サイドでサボーナの裏に出ようとしていたたエゼを発見し、DFの頭上を越すロングフィードを足元に届けました。2つめは、マン・シティ戦の93分。マルティネッリの劇的なゴールシーンです。
サヴィーニョのドリブルをカラフィオーリがスライディングでカットし、左に出ていたサカがキープ。この瞬間、ズビメンディは前線に上がり、5バックとベルナルド・シウヴァの間のスペースでボールを呼び込もうとしていました。この動きを気にしたグヴァルディオルは、右から飛び出したマルティネッリへの対応が遅れてしまいました。
3つめは、ウェストハムとのロンドンダービー。前線を操る黒幕は、リプレイを見て「アイツが仕掛け人だった!」と気づかされることが多いのですが、ティンバーがPKを獲得したシーンでは主犯でした。カラフィオーリが中央にいたため、右に出たズビメンディは、サリバからパスを受けて前を向くと、ディウフの頭上をぎりぎりで越える絶妙なボールをSBの足元に落としました。
どのシーンを見ても、アーセナルの中盤に入って2ヵ月も経っていない選手とは思えません。自由すぎるカラフィオーリ、ギョケレスの脇に出るチャンスを常に窺っているティンバー、最終ラインと中盤の間を狙うエゼは、縦の概念を持ち込んでスペースを創ろうとするズビメンディの意図を汲んで動いているのでしょう。
ウーデゴーアの欠場が多い今は、オプションの熟成を進めている最中で、まだまだ発展途上です。キャプテンがトップフォームを取り戻し、前線が勝負できるパスが増えたら、攻撃力はさらに高まるはずです。今や最大の悩みは、「ズビメンディの代わりだけはいない」ことではないでしょうか。ときどき安心して休んでもらえるように、ノアゴーアにがんばってもらいましょう。
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