開店休業のラヤ、走りまくるギョケレス。アーセナルの「労働格差問題」は今後どうなる?
直近の公式戦5試合でシュートに触ったのは、わずか1回。クリスタル・パレス戦のエンケティアのヘディングは、弱小高校でGKをやっていた私でさえもさばけそうな(そんなことはないか)、真正面のシュートでした。サリバやガブリエウがときどきパスを出してくるので、長短のフィードはそれなりに忙しいようですが、最少だったフラム戦のボールタッチは29回です。
3分に1回ほど扱いやすいボールが転がってくるので、足で止めるなり拾い上げるなりして、空いている人に「ホレ!」と渡せばOK。このお仕事は、プレミアリーグのスターたちを間近で見られるのも魅力のひとつで、誰かがゴールを決めたときにガッツポーズすれば世界中のテレビに映ります。お給料もつい先日、週給10万ポンドから12万ポンドに上がったようです。
数日前に、とあるSNSを眺めていたら、「ラヤよりヴィカーリオのほうが上」というポストを見かけました。どうやら最近のアーセナルをご覧になっていないようです。ボールがこないのに、上も下もないでしょう。「ビッグセーブゼロでゴールデングローブを獲得してしまい、アワードでコメントを求められたときの微妙な気持ちを想像してあげてください」と諫めたくなります。
すみません。いじりすぎました。彼の名誉のために、「セーブ率84.2%はルーフス、ヴィカーリオ、ドンナルンマを上回るリーグTOP」という事実も添えておきましょう。これをもって「ヴィカーリオよりラヤが上だろう。わはは」と胸を張るか、隠ぺいするかは、それぞれの立場とご都合で決めていただければと存じます。
さて、ここからは、重労働にあえぐプロレタリアートを紹介します。いつもラヤから最も遠いところにいるヴィクトル・ギョケレス。10月の頭に、プレミアリーグの公式サイトと「Opta Analyst」がほぼ同時に配信していたレポートを見て、絶句しました。ポルトガルからやってきたマジメなストライカーは、開幕からのプレミアリーグ7試合で71.7kmも走破していたそうです。
もちろん、センターフォワードではリーグTOP。ファイナルサードでのプレス169回、スプリント148回、オフボールラン79回も1位です。プレミアリーグで10試合4ゴールのギョケレスは、決めた相手がリーズ、ノッティンガム・フォレスト、バーンリーと下位チームばかりで、現地のメディアには「今のところは期待外れ」といっている記者もいます。
しかし、あらためてスタッツや映像を見ると、「スポルティングCPの2シーズンで102試合97ゴール28アシスト」からペースダウンした理由は、アルテタ戦術にありそうです。実は私は、「ポルトガルとプレミアリーグのレベル差」を気にしていました。ギョケレスのこれまでのパフォーマンスは、割引が必要なのではないかと思っていたのです。根拠は、いくらでも出せます。
2021-22シーズンのベンフィカで、プリメイラ・リーガ28試合26ゴールのダルウィン・ヌニェスは、リヴァプールで過ごした3シーズンで95試合で25ゴール。ベンフィカといえば、2019‐20シーズンに18ゴールを決めたカルロス・ヴィニシウスは、スパーズとフラムの4シーズンをすべて足してもリーグ戦で8ゴールに留まっています。
スポルティングCPに目を向けると、2015-16シーズンに33試合27ゴールだったイスラム・スリマニは、レスターとニューカッスルで40試合8ゴール。成功といえるのはブルーノ・フェルナンデスぐらいで、2023-24シーズンのポルトで27試合13ゴールのエヴァニウソンは、ボーンマスの初年度に31試合10ゴールとまずまずの結果を出しています。
かつてブライトンで輝かなかったギョケレスも、プレミアリーグのハードなチェックに苦しむ可能性があると見ていたのです。しかし彼の場合は、アルテタのコンセプトにフィットしたために、ゴールに向かうパワーを失っているようです。ポルトガルでも、よく走る選手と評されていたのですが、優秀なスタッツは攻撃面に集中していました。
スポルティングCPでのラストシーズンは、52試合54ゴール13アシスト。ドリブルの本数とロングプログレッシブキャリーがTOP3で、ファイナルサードでのボール奪取は1位でした。アーセナルでは、持てる力をプレスとポジショニングにシフトしているようで、下位チームとの試合で決められるのは「敵陣にいる時間が長く、上下動が少ないから」かもしれません。
昨シーズンは1試合あたりのシュートが4.2本で、今季は1.6本。チーム戦術へのフィット感が高まった今後は、ゴールゲッターとしての力を発揮するのでしょうか。あるいは過剰適応でプレス、プレス、プレスか。カイ・ハヴェルツとギョケレスとミケル・メリノをアルテタの鍋に入れてかき混ぜると、全員ミケル・メリノになってしまう気もするのですが…。
以上、本日は「アーセナルの労働格差問題」に関する中間報告でした。最強の4バックに支えられたダヴィド・ラヤの無失点記録はどこまで伸びるのか。ギョケレスは覚醒するのか。自らの強みを発揮すればOKの守護神に対して、ストライカーは戦術的な成功とグーナーが望む結果のジレンマに悩まされそうです。年が明けた頃に次回調査を実施しましょうか。両者の健闘を祈ります。
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