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偏愛的プレミアリーグ見聞録

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【MAN.UTD×Swansea】 さよならファーギー、そしてスコールズ。ふたりに捧ぐホーム最後の勝利

66分、大きな歓声と拍手に包まれて、小柄なMFがピッチを後にします。ポール・スコールズ。今度こそ、二度とユニフォームを着ることはないでしょう。2011年に一度、引退を表明したものの半年後に復帰。ダレン・フレッチャーが戦列を離れ、トム・クレバリーやフィル・ジョーンズらの若い選手では不安定だったマンチェスター・ユナイテッドの中盤センターを、その視野の広さと正確で速いパスワークで立て直し、1年半に渡ってチームに貢献しました。そして先週、サー・アレックス・ファーガソン監督の引退を見届けて安心したかのように、自身の引退を発表。2013年5月12日は、偉大な監督とセンターMFをオールドトラフォードで観ることができる、最後の機会となったのでした。

この日、スタメンにスコールズの名前があり、タイムアップのときにはライアン・ギグスがピッチに立っていたのは、サー・アレックス・ファーガソン監督が、自分の最後の場はこうありたいと望んだことだったのでしょう。相手のスウォンジーが降格やヨーロッパカップ出場権争いにまったく関係なかったこともあって、前半はゆっくりした展開になりました。観ていて不思議な気分になるような、リラックスした雰囲気。マンチェスター・ユナイテッドの選手は、確かにサッカーを楽しんでいます。ワンツーがうまく決まらなかったとき、柔らかい笑顔を見せるスコールズを初めて観ました。

香川真司は右サイドで先発しましたが、左のウェルベックとポジションを変えたり、後ろに下がってビルドアップに参加したり、中央に入ったりと縦横無尽に動きます。いつになくワンツーやショートパスが多いサッカー。負けられない試合なら出ないであろうパスが、前線にポジションをとる香川に何度もフィードされます。スコールズがいて、チチャリートがいて、香川がいて、ルーニーがいない。39分にスウォンジーDFのミスを拾ったチチャリートが先制シュートを決めますが、現実感がありません。夢を観ているような、永遠に終わらないかのような時間を打ち切る前半終了の笛が、最後の瞬間まで残すところ45分であることを告げます。1-0、マンチェスター・ユナイテッド、リード。

後半開始直後、前半は淡々とプレイしていたスウォンジーが猛攻を仕掛け、マンチェスター・ユナイテッドのDF陣をゴール前に釘づけにします。49分、波状攻撃からミチュが同点ゴールを決めると、勢いづいたのはアウェイチーム。「サー・アレックス最後のホームゲームは絶対に勝たないといけない」ことに今さら気付いてしまったかのように、堅くなりぎくしゃくし始めるプレミアリーグ王者。ルートリッジに左から突破されてあわやのシュートを打たれるなど、勝利どころか逆転されるのではないかという時間が続きます。

ファーガソン監督は、ウェルベックとスコールズを下げ、アンデルソンとバレンシアを投入しますが、これも勝つための采配というよりは、最後のゲームだから、といった交代に見えます。もしかしたら、アンデルソンにとっても、今夜がオールドトラフォードでのラストゲームになるのではないでしょうか。この選手起用は状況を変えるに至らず、アンデルソンは1本、惜しい左足ミドルを打っただけにとどまります。75分にはチチャリートが下がり、いよいよ真打ち登場、ライアン・ギグス。舞台は整いました。足りないのは、勝利のためのゴールだけ。

オールドトラフォードにいた多くのサポーターが待ち望んだ勝ち越しゴールが生まれたのは、87分でした。決めたのは、リオ・ファーディナンド。右からのCKのこぼれ球を強烈なボレー。プレミアリーグでは5年ぶりとなるベテランが決めた、台本があったかのような一発で、そのまま試合終了。マンチェスター・ユナイテッドは、ふたりの功労者にホームでの勝利をプレゼントしました。最後のゴールが決まった瞬間の笑顔は、今まで何度となくゴールシーンで見せた子どものような笑顔。タイムアップの瞬間まで、いつもと同じように噛み続けたガム。サー・アレックス・ファーガソン監督、最後のホームゲームが、ついに終わりました。さよなら、ファーギー。そして、スコールズ。

プレミアリーグの優勝セレモニーの前のスピーチでは、気遣いの人らしく、スコールズを称え、病気で長期離脱中のフレッチャーを励まし、ファンやスタッフに感謝の意を表し、新監督を支えてくれるように求めたファーガソン監督。スピーチが終わると、柔和な顔になってピッチを後にします。優勝セレモニーが始まると、選手たちが入場し、トロフィーを高々と掲げて「カンピオーネ!」の大合唱。ファーガソン監督はピッチに戻ってきてその輪のなかに入り、選手たちと喜びを分かち合います。今まで、何度となく見た光景。いつもなら、ただただうれしいだけの景色。しかし、今夜だけは違うのです。強く寂しさが湧きあがってきます。TV画面をじっと見ながら、その寂しさを打ち消すように、心のなかでつぶやきます。ありがとう、ありがとう、ありがとう…。

サー・アレックス・ファーガソン監督のマンチェスター・ユナイテッドでの1499試合めは、スウォンジーに2-1で勝利しました。5月19日、キャリア最後のゲームは、WBAとのアウェイ戦。通算1500試合めとなります。

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