イングランドのプレミアリーグ(ときどきチャンピオンズリーグ)専門ブログ。マンチェスター・ユナイテッド、アーセナル、リヴァプールetc.

偏愛的プレミアリーグ見聞録

マンチェスター・ユナイテッドファンですが、アーセナル、チェルシー、トッテナム、リヴァプール、エヴァートンなどなど何でも見てしまう雑食系プレミアリーグファンです。プレミアリーグ観戦記、スタジアム、チーム情報からロンドンやリヴァプールのカルチャーまで、幅広く紹介しています。

おめでとうレスター!プレミアリーグの19クラブが彼らに勝てなかった理由。

「82分、ジェイミー・ヴァーディに代わって控えMFのエンゴロ・カンテ」「両SBにはデラートとシュラップ」「岡崎慎司はフル出場」…プレミアリーグ2015-16シーズンの開幕戦、サンダーランドに4-2で勝ったレスターは、今とは別なチームでした。「戦いながら熟成度を上げ、強くなっていったチーム」といわれれば、2013-14シーズンにSASが大暴れしたリヴァプールを思い出しますが、コンセプトに一貫性はありながらもシーズン途中からスタイルを変え、しかもプレミアリーグ優勝まで成し遂げてしまったチームをレスターのほかに知りません。開幕から12試合で25ゴールを挙げながら、20失点を喫していたレスターは、当初は「殴り合いに持ち込んで競り勝つチーム」でした。

序盤戦のクリーンシートは、ラニエリ監督が「達成したらピザをおごる」と宣言してから1ヵ月以上を経た10節のクリスタル・パレス戦のみ。アーセナルには本拠地キングパワーで2-5とボコボコにされ、アストン・ヴィラ戦、ストーク戦、サウサンプトン戦は、相手に引かれていたら、2点のビハインドを取り返せなかった負け試合です。13節には8勝4分1敗で首位だったものの、「優勝したらパンツ1枚で『マッチ・オブ・ザ・デイ』に出演する」とつぶやいたOBのガリー・リネカー氏をはじめ、多くの評論家が「優勝はないだろう」と語っていたのは当然でした。

ラニエリ監督が素晴らしかったのは、勝っていたのにチームを変え、強くなってからはチームを変えなかったことです。エンゴロ・カンテがアンディ・キングに代わって中盤に定着したのは6節のストーク戦以降。フクスとシンプソンの今季プレミアリーグ初登場は8節のノリッジ戦でした。イタリア人指揮官は、選手を入れ替えるだけでなく、戦術的な変更も施しています。シュラップのオーバーラップが目立っていたレスターのSBは、上がらなくなりました。サイドの守備が安定したことで、ウェズ・モーガンとフートが引っ張り出されるシーンがなくなり、CBはクロスをさばくことに集中します。横からの攻撃に対する強度を増したレスターは、同時にバイタルエリアをカンテとドリンクウォーターでカバーし、中央突破やミドルシュートへの対応も強化しました。1位と2位の対決だった14節のマンチェスター・ユナイテッド戦をドローでしのぎ、手ごたえを得たチームは、12月にはチェルシーとエヴァートンを連破。13節から年末までの7試合を失点5に抑えたラニエリ監督は、以降スタメンをいじることはありませんでした。プレミアリーグ後半戦の17試合を、わずか9失点。今季のラニエリ監督がいちばん誇れる数字は、これでしょう。

前半戦の結果をみて、レスターを研究できたはずの他クラブは、なぜ後半戦で彼らに勝てなかったのでしょうか。いちばんの理由は、「守備が強固になったレスターから先制点を奪えず、追いかけさせる展開に持ち込めなかったから」でしょう。レスター相手に先制したのはWBAとマンチェスター・ユナイテッドのみ。早い時間に1-0としたこの2チームも、20分以内に同点にされ、再度リードを奪えずに終わりました。年明け以降のゲームでレスターがビハインドを背負っていた時間は、たったの37分です。引き分けでもいいと諦めているかのように、同点の時間帯ではラインを低く保つレスターに対して、裏に抜け出してシュマイケルとの1対1に持ち込んだのは、サウサンプトン戦の前半のマネぐらいでしょう。ヴァーディ、マフレズ、セットプレー、ときどき岡崎慎司&ウジョアと、ゴールを奪う術が限られていたチームが勝ち続けたのは、相手が無理な攻撃を仕掛けてきたところを中盤で確実につぶし、カウンターからアタッカーとDFが1対1の勝負になる態勢を創れていたからです。

では、どうすればレスターを攻略できたのでしょうか。その答えは、唯一レスター相手にダブルを達成したヴェンゲル監督ではなく、ユルゲン・クロップ監督に聞くのがいいでしょう。戦術的な意図をもって「強いレスター」を崩したのは、年末のアンフィールドで24本のシュートを浴びせ、1-0で完勝したリヴァプールだけです。この試合のクロップ監督は、レスターにカウンターをさせないための2つの戦術を駆使していました。ひとつは、「縦のボールを効果的に使う」。岡崎慎司、カンテ、ドリンクウォーターのところでボールを奪われるとカウンターで一気にゴール前まで持っていかれますが、中盤の2人を無力化して最終ラインの手前に入れたボールをウェズ・モーガンとフートに獲られても、そこからヴァーディにつながるまでには時間がかかります。

さらにもうひとつ、あの日のレッズは「奪われた直後にプレッシャーをかけてカウンターを遅らせる」ことを徹底しており、レスターがショートカウンターを喰らうシーンが目立ちました。決勝点は、3人を引きつけたフィルミーノからのラストパスをベンテケがボレー。長いクロスには強いレスターも、フィルミーノとエムレ・ジャンのパス交換による崩しに守備陣が引っ張られ、ベンテケへの対応が遅れました。コウチーニョのミドルシュートも効果的で、他クラブにとってはいいお手本だったと思います。

しかし、この後、レッズに続けとレスター対策を仕掛けてくるチームはほとんどありませんでした。比較的うまくやっていたのはマンチェスター・ユナイテッド、ウェストハム、WBAのドロー決着組。彼らに共通していたのは、フェライニ、サロモン・ロンドン、キャロルといったフィジカルが強い長身の選手に高いボールを集め、落としを狙いにいっていたことです。レスターからリードを奪った「貴重な37分」を過ごした3クラブと、勝ち点3を奪ったリヴァプールの成功体験から、わかりやすく「レスター崩し5か条」をまとめてみましょう。

【レスター崩し5ヵ条】
1.カンテとドリンクウォーターに奪われるな。彼らの後ろを狙え
2.モーガンやフートと競って獲ろうと思うな、競った後のボールを狙え
3.サイドからのロングクロスは効果なし。横からいくなら数的優位でマフレズとシンプソンを崩せ
4.低いラインと厚い中央に手こずるのは、バルサもレスターも一緒。先に獲って引け
5.セットプレーは、フートとモーガンに気をつけろ

…すみません。せっかくの歴史的な日に、岡崎慎司がほとんど登場しないレスターの記事を書いてしまいました。彼をはじめ、自らの役割に徹してブレずに戦い続けた選手たちと、コペンハーゲン旅行や1週間休暇などで固定されたスタメンをリフレッシュし、大きな負傷者やスランプの選手を出さずに戦い抜いたラニエリ監督をあらためてリスペクトしたいと思います。最後に、ジェイミー・ヴァーディ宅で催された「チェルシーVSトッテナム観戦パーティー」におけるプレミアリーグ優勝決定の瞬間の動画をどうぞ。強かったです。おめでとう、レスター!

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“おめでとうレスター!プレミアリーグの19クラブが彼らに勝てなかった理由。” への10件のフィードバック

  1. だしまる より:

    更新お疲れ様です。レスターの一年間をこうして振り返ってもらえると、あれだけ点を取られていたチームが守備の堅さでタイトルを取れたことがびっくりです。ラニエリ監督がスパイクにかけた魔法はシーズン終了までとけず、選手たちは真のプリンセスに成長しました。

    私もいつか失速すると思っていた一人ながら、ご免なさい&いつのまにかレスターを応援しておりました。個性的な面々の愛嬌あふれる顔を忘れることが出来ません。

    レスターシティ 誠におめでとうございます!

  2. シティズン より:

    レスターの優勝、心からおめでとうございます!適格な補強とチームメンタルを常に高め、進化し続けたカウンターサッカーは称賛に値すると思います。ジャイアントキリングを次々に起こした前半戦、ぶれることなく自分達のサッカーでチーム一丸となって戦った後半戦含め、本当に見事でした。是非、来期はチャンピオンリーグでもレスター旋風を巻き起こして欲しいです!

    レスター対策にもう一点加えるとすればドリブルでの仕掛け等によりファールを増やさせることが有効かと思います。年明けのガナーズ戦後半、中盤からの強引な仕掛けに対し、ファールによるカードが増えたことにより明らかにプレスが弱まり、組みやすくなりました。実際、レスターはボール奪取力が高くチームとしてのファール数が少ないことも特徴の一つでした。

    今期、レスターが躍進したもう一つの理由に、プレミアリーグ全体にヴァーディーやマフレズのようなスピードスターを抑え込めるセンターバックが少なくなってきていることも挙げられるかと思います。テリー、コンパニ、ジャギエルカ等、プレミアを牽引してきたセンターバックが高齢化し、テクニックとスピード、フィジカルを併せ持ったワールドクラスのセンターバックが少なくなってきています。

    来期、レスターや攻撃スピードがとにかく速いトッテナムをとめるには、各チーム共、センターバックの補強、育成が鍵になるのではないかと思います!

    —–
    レスターおめでとう

  3. リバサポ より:

    レスターおめでとう。
    長いシーズンでした。チェルシーの不調から始まり、レスターの好調、ユナイテッド、アーセナル、シティの浮き沈み、トッテナムの堅実さと久々にトピックスの多いシーズンでした。我々としてもロジャース解任、クロップ就任と大きなニュースが続き、来シーズンはコンテ、ペップの参入と。今からついていけるか不安になります…動乱の今シーズン、ここぞという時に強かったレスターはやっぱりチャンピオンだなと思うばかりです。

  4. サージェントペパーズ より:

    お疲れ様です。
    レスター優勝おめでとう!サポーターではないのにこんな幸せな気分になれるのはなんでなのか!岡崎がいるからなのか、成り上りのチームだからなのか、知らないうちにレスターの虜になっていたのだと思います。
    シーズン前半まで、いって4位以内、後半調子を落として6位くらいかなぁと思ってたのですが…こんなことが起きるんですね
    。不可能を可能にしたチーム!自分も勇気をもらいました!

  5. Macki より:

    更新ご苦労様です。
    レスター優勝本当におめでとう!昨シーズン終盤のミラクルも凄かったですが、今シーズンの優勝は更に上をいく凄さです。彼らはチームとしてまとまっており、最後まで諦めない姿勢が観ていて気持ちよかったです。レッズサポの私としては、キングパワースタジアムでのバーディのスーパーゴールを決められた時このチームには今シーズン勝てないと思いました。
    そんなチームの核として得点こそ少ないとはいえチームのために懸命にプレーをしている岡崎を誇りに思います。是非ホームでのエヴァートン戦にも勝利し気持ち良く優勝を祝って欲しいですね。

  6. makoto より:

    だしまるさん>
    戦いながらチームを強化していくのは、口でいうのは簡単ですが、非常に勇気のいることですよね。調子を落とせば、以前の「ティンカーマン」などといわれかねないわけで。ラニエリ監督、素晴らしいです。

    ヤンガナ大好きさん>
    前の選手に投資するクラブが多い中で、後ろの補強が後手にまわった感があるクラブがあるのは確かですね。マン・シティのオタメンディには期待していたのですが、コンパニがいないとどうも安定しないようで…。

    シティズンさん>
    素晴らしいですよね!

    リバサポさん>
    本当にいろいろなことがあったシーズンでしたね。年末年始の短期間しか不調がなかったレスターが勝ったのは、納得です。

    サージェントペパーズさん>
    キャラが立ったクラブだったことと、選手たちから懸命さが伝わってくるクラブだったこと、シンデレラストーリーであることなどが重なるんでしょうね。私も結局、全試合見てしまいました。

  7. nyonsuke より:

    更新お疲れ様です。
    レスター・シティ優勝おめでとうございます。
    こんなことが起こるからサッカーはおもしろいですね。
    私としては13-14シーズンの我がレッズの無念を晴らしてくれたような気分です。
    このようなシーズンを見せてくれたレスターに心からおめでとうと言いたいです。

  8. モトキチ より:

    いつも楽しく読ませて頂いております!はじめてコメントさせて頂きます。

    私はヨーロッパサッカーはカルチョ好きで昔からいわゆるプロビエンチャが戦術で活躍するのが好きなのですが、やはりなかなか優勝までするケースはなかなか無く、特に近年ビッグマネーが支配するようになってきてからは正直スモールクラブの優勝は諦めておりました。

    その中でレスターの優勝は本当に価値があると思います!
    ラニエリさんがついに優勝監督となったのもなによりです!
    (正直、戦術家としてはグイドリン、モウリーニョあたりよりは落ちると思っていましたが(^^; )

    サッカーの良さを本当に堪能させて頂いた一年でした。

    あとはシメオネを最後の楽しみにさせて頂き、
    ユーロ、来年の"おとぎ話の続き"を待ちたいです。

    長文恐れいります。

    今後もブログ楽しみにさせて頂きますので、よろしくお願いします!

  9. K より:

    レスター崩し5か条は本当その通り!と思いましたが実現出来るチームがありませんでしたね。
    プレミアはビッグクラブが4-2-3-1という守備的なフォーメーション組む事が多くなってペナルティエリア内に5人入る場面が世界の3強に比べて少ないです。なので5か条その2が出来るチームが殆ど居なかったように思います。
    大陸と戦う為のカウンター戦術として4-2-3-1を高めようとしてたのかもしれないですが、ポゼッション時の4-2-3-1は1に求められるものが大きくケインとアグエロ擁するスパーズ・シティ以外の攻撃は停滞する事が多かったと思います。

    守備時には4-2-3-1から攻撃時には4-2-2-2と前線に駆け上がった岡崎さんは本当にマフレズとヴァーディの黒子として欠かせない仕事をしていたのも凄く印象的でした。
    出てくる選手全てが役割をこなしたレスターはやはり優勝に相応しかったと思いますし、試合数減らしてマネジメントした監督も素晴らしい仕事をしたと思います。あっぱれ!

  10. makoto より:

    nyonsukeさん>
    この後、「昨季の1位・2位がCL出場権を落とす!?」という、もうひとつのサプライズがあるかもしれません。今季はホントにわからないですね。

    モトキチさん>
    投稿ありがとうございます。中田英寿の時代にペルージャにはまった経験があるので、気分はわかります。私も、ラニエリ監督の戦術家としての評価は高くなかったのですが、奇跡的にうまくはまりましたね。今後とも、よろしくお願いいたします。

    Kさん>
    ゴール前に厚さが感じられたのは、運動量で優っていたトッテナムぐらいでしたね。アーセナルのように守備時には4-4-2で構えるチームや、自在性が高いマンチェスター・ユナイテッドのようなチームもあるので、「前でボールを奪いショートカウンター」「中盤の長身の選手を時折前線に上げる(フェライニのように)」みたいなオプションもかませれば、さらにおもしろくなるのにと思いました。

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