アーノルドはハンドか否か…改正ルールを確認しつつ、マイケル・オリバーのジャッジを再現!
自らが応援しているクラブと選手を支持したい熱きサポーターと、フットボール絡みの論争にはとにかくモノ申したいOB、評論家、元選手、マニアが入り混じり、ああでもないこうでもないと舌戦が繰り広げられるのは「プレミアリーグあるある」のひとつです。最近はここにVARの是非論や運用に関する見解が喰い込み、話を複雑にします。ベルナルド・シウヴァはハンドか?アーノルドはどうか?レッズボールのFKか、マン・シティのPKか、ファビーニョのゴールか?さまざまな意見を目にするなかで、6月にIFABが導入したハンドの改正ルールを知らずに声を挙げている方が少なくないことに気づきました。
この機会に、あらためてハンドに関する現行ルールを紹介しつつ、主審のマイケル・オリバーさんの主張を想像してみようというのが本稿の趣旨であります。まずは、レッズの先制ゴールのシーンを振り返ってみましょう。右サイドからデブライネが上がり、ベルナルド・シウヴァが浮き球を送ったところからリプレイスタート。バウンドしたボールに対応したファン・ダイクがヘッドで競り勝つと、狙っていたベルナルド・シウヴァがこぼれ球をさらい、一気にボックス右に侵入します。
やや強引だったドリブルはデヤン・ロブレンがカットし、浮いたボールがベルナルド・シウヴァの腕にヒット…これが第1の論点。マン・シティのプレーメイカーの腕で跳ねたこぼれ球はまっすぐ中央に向かい、アレクサンダー・アーノルドの右腕に当たりました。アグエロとデブライネが一斉に手を挙げ、ハンドをアピールしたこのシーンが、第2の論点となります。
当たった瞬間、ファールを回避しようとしたSBは反射的に手を引っ込め、ボールを拾ったファン・ダイクが外にいたロバートソンにつなぎました。縦パスをもらったマネがドリブルで上がり、ボックス左に持ち込むと、サラーめがけてグラウンダーをフィード。カットされたボールをギュンドアンが何とか掻き出しますが、これがファビーニョの足元に転がってしまいます。ワントラップしたアンカーのシュートは、ニアを抑えきれなかったロドリの脇を抜けて、ニアポストすれすれに突き刺さりました。
さて、ここで6月より施行されたハンドの新しいルールを紹介しましょう。IFABは変更の趣旨について、「ハンドはより明確にする必要がある」「選手が手や腕でボールをキープまたはコントロールして、大きなアドバンテージを得た場合に処分する」と説明しています。
■反則
・手や腕をボールの方向に動かしたり、手や腕で意図的にボールに触る
・手や腕でボールを触れた後、ボールをキープしたりコントロールすることで、ゴールあるいは決定機となる
・(偶然であっても)手や腕に当たったボールがそのまま相手のゴールに入る
■通常はハンドを取られる
・選手の体を不自然に大きく見せた手や腕にボールが当たる
・肩よりも上にある手や腕にボールが当たる
■通常はハンドではない
・自らの頭や体に触れたボールが、そのまま手や腕に当たる
・近くにいる相手選手の頭や体、足から、そのまま手や腕に当たる
・手や腕が体の近くにあり、不自然に体を大きく見せていない状態
・倒れている状態で、体を支えるための手や腕がグラウンドと体との間にある
(日本サッカー協会「サッカー競技規則2019/20」より構成)
よくある誤解が、「選手の腕が体から離れていたらハンド」「偶然でも当たったらハンド」ですが、ルールにはそのような記述はありません。腕の位置に関するIFABの説明はこうです。「肩の高さを越えた手や腕が自然な位置であることは、まずありえない」。偶然性については、攻撃側は意図しなくても当たったボールが決定機やゴールになればファールとされるのに対して、守備の選手は「ボールの方向に手や腕を動かしたり、不自然な位置に手や腕を持っていかなければ、偶然のヒットはハンドではない」とされています。
あのとき、マイケル・オリバーさんはルールに忠実に仕切ったのではないかと思われます。ベルナルド・シウヴァに当たったボールはまっすぐアーノルドのほうに飛んでおり、アドバンテージはないのでハンドは取らず。アーノルドは両手を下に向けて開いており、マン・シティのMFに当たったボールを手を動かさずに受けているのでこちらもセーフ。いずれかをファールと見做したのであれば、マネに縦パスが出た時点で止めているでしょう。「VARはアレクサンダー・アーノルドのプレイをチェックし、ハンドには該当しないというピッチ上のジャッジを確認した」としたプレミアリーグの発表とも符合します。
ルールがデジタルなら、話はこれで終わりですが、第1の論点では「決定機かどうか」、第2には「不自然かどうか」といったあたりにレフェリーの主観が介在するので、議論になるのは必至です。それでも、マイケル・オリバーさんのジャッジは妥当だったのではないでしょうか。「最も正しいと思われるジャッジをした」ということではなく、「いくつかの可能性のなかで、妥当性のあるひとつの選択肢を取った」という意味合いです。83分にスターリングの蹴ったボールがアーノルドの手に触れたシーンもまた、ルールに照らし合わせればセーフでしょう。アーノルドが下げていた手はボールに向かって動いておらず、タッチを避けられない状況でした。
先制ゴールのシーンは、ファン・ダイクの判断力とファビーニョの素晴らしい一撃に拍手を送りたいと思います。アーノルドのすぐ近くでボールを確認し、アグエロやデブライネが叫ぶのを聞いていたCBは、こぼれ球を外に蹴り出してベルナルド・シウヴァのハンドをアピールし返してもおかしくありませんでした。あそこで冷静にロバートソンにつないだからこそ、その直後にゴールが決まったのです。白黒が明確な定義ができない以上、レフェリングに関する議論をゼロにすることはできないだろうなと思いつつ、今もなお、リヴァプールの選手たちの的確な判断とプレイに心が震えるのであります。「これがプレミアリーグで無敗の選手たちだ、やっぱり凄い!」と。
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非常に参考になる記事をありがとうございます。
新ルールについてこれまで理解が不十分で、恥ずかしながらこれまで試合を見て自分の感覚で「ハンドだ!!」などと画面の前で叫んでおりました…
当方どちらのファンでもないのですが、本件については上記のように無知ゆえにリバプール側に2度のハンドがあったものかと思い込んでおりましたが、なるほどこうして見ると妥当性がありそうですね。
ただ未だに以前の基準でハンドがとられてしまっているケースもあるように思えるのですが、(CLのチェルシー×アヤックスとか違うでしょうか…?)その点においてシティ側が今回の判定を不満に思うかもしれませんね。
新ルールの浸透、VARの運用などまだまだ制度やジャッジする側も今後成熟が必要と感じます。
チェルシー×アヤックスのハンドは「手に当たった直後に得点やチャンスが生まれる」に該当したからですね
リヴァプールの1点目は直前ではないので反則にはならないと
ハンドっぽいって書き込んだ後に改めて新ルールを確認してなるほどなとなりました。
と同時に思ったのですが、今まではDF側の選手はエリア内で手を後ろに組んだりしてましたが、「自然に」下ろしていればハンドはとられないならばもう手を組む必要はないわけで、そういう意味ではDF有利なルール改定だったんですね。
>2さん
なるほど、確かにチェルシー×アヤックスにおける5点目の取り消しはその通りですね!
ご指摘ありがとうございます。
自分も贔屓のチームの試合ではつい判定に文句を言ったりしがちですが、改めて審判の大変さについて考えさせられる機会になりました。
とても参考になりました。
主観の違いはあるでしょうがまず審判団が統一した見解で判定して頂きたいなと思いました。
ファービーニョのゴールの後に、アーノルドのハンドで、ゴール取り消しなんてことに、なっていたら、それこそ、大紛糾だったのでは・・・、せっかくのフットボールが、面白くなくなる。一瞬の判断で前に進まないと・・・
盛大なゴールセレブレーションの後に、オフサイドで、ノーゴール。
こうなると、ゴールセレブレーションも、来年あたりから、なくなるのでは。
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1つ目のシーン、アーノルドはボールが飛んできてから手を広げてますけどね
審判団も人間ですし、あのスピードの中でパーフェクトを求めるのは酷ですが、ビッグマッチになるほど誤審で試合が台無しになると、たとえ自分の応援するクラブが有利なジャッジを受けようと、やはり残念な気持ちになってしまいます。
そういう気持ちを払拭してくれる分かりやすい解析の記事、あと試合記事のコメント欄で現行ハンドルールを教えてくださった方ありがとうございます。
ありがとうございます。勉強になります。
腑に落ちました。
素晴らしい記事をありがとうございます。
個人的には妥当がどうかの判断が出来ていなかったのですが、気になったのはシティの選手たちがビッグチャンスであるにも関わらずハンドアピールしてプレーを止めてしまった事です。その後、ファビーニョのゴールに至るまで集中力を欠いていた印象がありました。
「リヴァプールの選手たちの的確な判断とプレイに心が震えるのであります。」
この一文で、もやもやが吹っ飛びました。あの状況で集中力を切らさなかったリヴァプールが上手でしたね。
>1つ目のシーン、アーノルドはボールが飛んできてから手を広げてますけどね
主観的にそう見えてしまったのかもしれませんが、冷静に考えると、敵陣で手でコントロールしてからシュートするならともかく、自陣で飛んできたボールをわざわざ意図して手にあてにはいかないのではないでしょうか。
そのままならゴールに入ってしまうようなボールならともかく。
連続腕ヒットの後、アグエロは足下に来たボールを無視してハンドアピールしていましたが、無視せずにシュートなりスターリングに出すなり決定機にしていたら、今度はシウバによる腕ヒットが攻撃側の無条件ハンドになりそうです(ただ、リバポのゴールにもいえるのですが、決定機に至る攻撃側ハンドに関して、どこまでさかのぼれるのかは正直よくわかりません。それこそ一連のプレー=アタッキングポゼッションフェーズでみるのか、直前のワンプレーまでなのか、その中間か。)。ですが、完全にプレーを放棄するのではなく最低限のブロックなりキープなりをする必要は当然ありましたね。
それとハンドの意図の見極めに関して、今回は使われませんでしたが、VAR発動時の主審オンフィールドレビューの際の注意事項として「スロー映像をもとにハンド意図をジャッジしちゃダメ。意図については通常速のリプレーを使え」的なものがありますが、そりゃスローになった選手を見ながら一緒に思考をスローにして同調させることなど人間には出来ないですからね。一般の視聴者はついついやっちゃいますが。
多くのカメラやVAR、そしてネット上での批判の声が日常茶飯事な最近のフットボール。
多くのレフェリーが自分の判定に絶対的な自信が無いように見えるなか(権力が分散されている良い兆候なのだろうけど)、今回 マイケルオリバーの判定のジェスチャーからは一瞬では何が起こったのかわからない画面越しからでも、ハンドではないんだなと伝わってくる自信に満ちたものでした。
誤審を無くすことは難しいにしても、しっかり覚悟と自信をもって正確にジャッジしようとする審判にはそれなりにリスペクトを返さなくてはと感じましたね。わかりやすい記事ありがとうございました。