偏愛的プレミアリーグ見聞録

ユーロ2024が開催されているこの夏は、中小クラブが先行して新戦力を獲得しており、上位をめざすクラブのターゲットの大半は最初のオファーまでに留まっているようです。トランスファーマーケットがオープンになってから、決まりといわれているのは、チェルシーのトシン・アダラビオヨとエステヴァン・ウィリアン、ヴィラが獲得合意と報じられたマートセンぐらいです。

それでもアーセナルやリヴァプールは、意中のタレントにアプローチしており、ポールポジションと報じられた選手が何人かいます。対して、完全に出遅れといわれているのはマンチェスター・ユナイテッド。現在、メディアが伝えている獲得候補は、ことごとくライバルに先行されているようです。

ホイルンド頼みの最前線は、ボローニャのジョシュア・ザークツィーを狙っていると伝えられていますが、現在のトップランナーはACミラン。ファブリツィオ・ロマーノさんは、「ミランは個人条件合意に到達し、3400万ポンドのバイアウト条項もクリアする意向だが、代理人の報酬を巡って交渉はストップしている」とレポートしています。

対してマンチェスター・ユナイテッドは、クラブ間の協議を始めたばかりと報じられており、選手と代理人の承諾がなければテーブルに着くことすらできないようです。今はただ、ミランがそのまま止まっていることを願うしかありません。リールのCBレニー・ヨロの意中のクラブはレアル・マドリードで、獲得できる可能性はほとんどなしといっていいでしょう。

リールといえば、カナダ代表FWジョナサン・デイヴィッドもターゲットのひとりですが、リシャルリソンの去就が不透明なトッテナムとのバトルになりそうです。公式戦47試合26ゴール9アシストのストライカーは契約が残り1年で、2500万ポンドの格安案件。しかしこちらもアドバンテージはなく、いかにスピーディーにアプローチできるかが問われています。

ニースのジャン＝クレール・トディボは、「オーナーが同一のクラブが両方ともヨーロッパリーグに出場する場合、選手の取引を禁ずる」というUEFAのルールに抵触。エヴァートンのブランズウェイトは、3500万ポンドにオプション800万ポンドというオファーに対して7000万ポンドを要求されており、ここしばらくは膠着状態です。

「最初のトランスファーウインドウで、すべての問題を解決できる自信はない。時間がかかるだろう。オマル、ダン、ジェイソンはスポーツサイドにおける重要な柱だが、まだジェイソンしかいない。少しハンディがある。よりよい状態にするためには、2～3回のサマーウィンドウが必要になるだろう」

サー・ラトクリフのこの言葉が、マンチェスター・ユナイテッドが出遅れた理由を如実に物語っています。スポーツディレクターに就任する予定のダン・アシュワースは、所属していたニューカッスルに支払う補償金の額で揉めており、未だガーデニング休暇中。マン・シティから招聘したオマール・ベラダCEOも到着が遅れており、既に動いているのはウィルコックスTDだけです。

経営ボードのキーマンが揃わなければ、チーム強化のスピードは上がらないでしょう。そんななかでも、ポジティブな要素が3つあります。ひとつは、テン・ハフ留任によって継続性が担保されていること。トーマス・トゥヘルをグレアム・ポッターにスイッチしたチェルシーの混乱をトレースすることなく、前に進めるでしょう。

2つめは、余剰戦力の売却は順調であること。マルシアル、ヴァラン、ブランドン・ウィリアムズが去り、グリーンウッドにはラツィオなど複数のクラブからオファーありと伝えられています。リンデロフはフェネルバフチェ、サンチョはユーヴェから声がかかっており、ワン＝ビサカはガラタサライから4年契約を提示される見通しです。

3つめは、ユーロの存在です。欧州最大のビッグイベントが終わるまでは、ライバルもスピードが上がらないでしょう。今はまだ6月。余剰戦力の整理を先に進め、投資できる枠を広げたうえで、最適な人材を引き入れていただければと思います。冴えない話が多いのは事実ですが、いつも通り一喜一憂しながら、いずれ届くであろう朗報を待ちましょう。（ジョシュア・ザークツィー　写真著作者/Sven Mandel）