偏愛的プレミアリーグ見聞録

リアム・デラップとジョアン・ペドロは即断即決でした。複数の選択肢がありながら、クラブワールドカップに出場できるチャンスを逃さず、入団から1ヵ月で世界王者の一員となりました。ヴィクトル・ギョケレスは初志貫徹でした。アーセナルからのオファーに歓喜したストライカーは、トレーニングへの合流を拒否するというリスクを冒して、唯一の希望を実現させました。

ベンヤミン・シェシュコは用意周到でした。アーセナル、ニューカッスル、マンチェスター・ユナイテッドのオファーを吟味するだけでなく、ライプツィヒの意向も勘案して結論を出しました。ウーゴ・エキティケは冷静沈着でした。アルネ・スロットの人柄に惹かれ、リヴァプールへの移籍を決断した後、クラブとの関係を重視してディールが成立するのを待ち続けました。

この夏のトランスファーマーケットで、意中のクラブに移籍したストライカーのインサイドストーリーに目を通してみると、そのプロセスは実に多様です。ここに並べた5人のうち4人に共通しているのは、声をかけてくれたクラブの話に耳を傾け、フラットな視点で結論を出す姿勢と、今までプレイしてきたクラブへの適切な対応です。

唯一クラブと揉めたのは、ギョケレスでした。フレデリコ・ヴァランダス会長との正面衝突は、ほめられるやり方ではありません。ひとたび契約書にサインしたら、クラブの方針やスケジュールに従うべきです。ただし彼には、1年前に交わした紳士協定という言い分がありました。「退団の条件をクリアしているではないか」と言い張れるアーセナルのオファーが後ろ盾でした。

ヴァランダス会長は当時、「紳士協定では、移籍金の額までは握っていない」と否定しています。両者の行き違いが事を複雑にしたようですが、これを前例としたくないクラブとしては、ゴリ押しをまるごと許容するわけにはいきません。話をまとめるためには、選手を煽った代理人のハサン・チェティンカヤのマージン放棄という「見せしめ」が必要でした。

プレミアリーグのトランスファーマーケットで話題になった6人めのストライカー、アレクサンデル・イサクは、ギョケレスより厳しい状況のなかにいます。ニューカッスルが彼を手離す条件は、たったひとつ。「移籍金1億5000万ポンドを手に入れたうえで、チームのニーズに合うストライカーを2人獲得する」。現状は、これをクリアする可能性は低くなっています。

エキティケかシェシュコを獲得できれば、イサクの将来もクリアになっていたのかもしれません。「テレグラフ」のルーク・エドワーズ記者によると、シェシュコの争奪戦でマンチェスター・ユナイテッドに敗れたニューカッスルは「移籍はありえない」と通告。イサクは激怒したようで、代理人が「このクラブではもうプレイしない」と反撃したと報じられています。

この件は、「イサクと代理人がアウト」でしょう。契約は3年も残っており、ギョケレスのような紳士協定はなく、レアル・ソシエダでのトレーニングにクラブの承諾はありません。何よりも重要なのは、「リヴァプールは1億1000万ポンドを拒否された後、交渉を継続していない」という事実です。オファーが存在しないのに、認めろといわれても、クラブは何もできません。

「テレグラフ」の記者は、「選手の態度や行動に問題があるのは明らかだが、クラブは罰金を科していない」「イサクを責めるのではなく、選手の意に反して売却を強要しようとする代理人を非難している」とレポート。タインサイドのサポーターたちは、「この3年間、マグパイズとエディ・ハウ監督が与えてくれたことに対する敬意がない」と激怒しているようです。

「アスレティック」のジョージ・コールキン記者は、指揮官の言葉を伝えています。イサクの状況を注視していたエディ・ハウ監督は、「今の彼は、チームでプレイできる状態ではない」と判断し、個別のトレーニングを指示しました。クラブと代理人の関係がシビアになればなるほど、選手は戻りづらくなります。

「もちろん、グループ全体の雰囲気は乱れている。選手がひとりでもこのような状況に陥ると、チームに不安が蔓延する。私がここに来てから、こんなことはなかった。チームの調和と一体感は最高潮に達していた。当然ながら、この件は話題にならざるを得ず、選手たちの気を散らす要因となっている」（エディ・ハウ）

ニューカッスルとしては、リヴァプールから1億5000万ポンドのオファーがあったとしても、すんなり呑んで終わりにはできないでしょう。マージーサイドが「ここまでこじれるなら手を引こう」と判断し、他の選手にターゲットを変えたら、イサクはどうするのでしょうか。自身のネガティブなコメントが世に出ていないのは、唯一の救いですが…。

クラブOBのアラン・シアラーや評論家のポール・マーソンは、一連の騒動について「70年ぶりのタイトル獲得を実現したヒーローは、汚れたレジェンドになってしまった」と非難しています。交渉の主導権を握れそうなリヴァプールは、ぎりぎりまで引っ張って移籍金の値下げを迫るのでしょうか。ニューカッスルとエディ・ハウはむしろ親切かつ丁寧で、落ち度は見当たりません。