偏愛的プレミアリーグ見聞録

「4人のキャプテンを失ったために、ドレッシングルームは別なものになってしまった」。ウナイ・エメリの嘆きに触れて、ふと思い出したのはフランク・ランパードの姿でした。補強禁止とアザールの移籍というビハインドを背負って、プレミアリーグでの初采配にチャレンジした若き指揮官は、タミー・アブラハム、メイソン・マウント、リース・ジェームズ、フィカヨ・トモリ、ビリー・ギルモアといったアカデミー出身の選手を次々に抜擢。マウリツィオ・サッリのサッカーが思い出せなくなるぐらいのモデルチェンジを図りながら、ジルー、ウィリアン、アスピリクエタ、ペドロ、カバジェロといったベテランもうまく活用していました。

低調な滑り出しの後、7節からプレミアリーグ6連勝、しかしマンチェスター・シティに止められた後は2勝5敗と絶不調。彼ほど忙しく、エキサイティングな日々を過ごした監督が何人いたでしょうか。マンチェスター・ユナイテッドの追撃を受けながらも何とか3ポイント差をキープし、突然の中断を迎えたチェルシーは、再開を待つ間にベテランの退団が報じられるようになりました。

3年契約を請うたウィリアンは、クラブとの溝を埋められずに移籍を決意。出場機会を求めて、1月に移籍寸前まで漕ぎ付けたジルーも、「インテルと個人合意」「クラブが1年の契約延長オプションを行使」と、さまざまな情報が飛び交っています。マルコス・アロンソにも退団の噂があり、カバジェロも最後のシーズンになる可能性があります。プレミアリーグの経験豊富な選手たちが一気に抜ければ、ランパード監督もまた、2年めにエメリと同じ苦さを味わうのではないかと懸念したのです。

「ガーディアン」のシド・ロウ特派員が試みたインタビューによると、昨年の夏にラムジー、コシールニー、モンレアル、チェフを失ったガナーズの元監督は、経営ボードに対して無力だったようです。プレミアリーグを知るウィルフリード・ザハは高額で手が届かず、次善策だったイングランド初体験のニコラ・ペペを獲得。精神的支柱も知見も手離したガナーズは、混迷の季節に突入しました。1年遅れで2回めのシーズンを迎えるランパード監督は、前に進めるのか。エメリと同様に、CL出場権を逃す5位で初年度を終えれば、チルウェルやヴェルナー、ムサ・デンベレ、デクラン・ライスらを連れてくるのは難しくなるかもしれません。

「ランパードは、プレミアリーグを理解している」「老獪なペドロとキャプテンシーがあるアスピリクエタが健在」…ベテランの離脱が囁かれているなかで、「エメリにはなく、ランパードにはある」エッセンスをついつい数えてしまいます。いや、おそらく大丈夫でしょう。現役時代はジョン・テリーとともに、窮地に陥ったチームを何度も束ねてきた男です。「スカイスポーツ」で最近のコメントに触れて、確信しました。彼はやるべきことを自覚し、選手たちに働きかけようとしています。来季のチェルシーは、さらなる進化を遂げて、ペップやクロップを苦しめるはずです。

「リヴァプールやマンチェスター・Cがやってきたことははっきりしている。優秀な指揮官とトップクラスの選手を引き入れて、ハードワークを積んできた。彼らとのギャップを焦って埋めようとするのは愚かだ。われわれは、適切なプロセスで強化を進めなければならない。自分たちに合った方法でやるだけだ。彼らをコピーするつもりはない」

「コミュニケーションをアップグレードしなければいけないね。選手たちが何をすべきか、自ら決められるように」「私の仕事のなかで重要なのは、プレーヤーへの多大な共感だと考えている。誰も何もわからない状況に直面している今、”この道を進め”とだけ言い放つことはできない。選手たちはストライキをしたり、トレーニングを嫌がったりしたわけではない。それぞれが、他の選手たちと話し合うことが、チーム全員と家族にいい影響を及ぼすのだと思う」