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偏愛的プレミアリーグ見聞録

マンチェスター・ユナイテッドファンですが、アーセナル、チェルシー、トッテナム、リヴァプール、エヴァートンなどなど何でも見てしまう雑食系プレミアリーグファンです。プレミアリーグ観戦記、スタジアム、チーム情報からロンドンやリヴァプールのカルチャーまで、幅広く紹介しています。

過去の業績分析、PDCA、ROIで判断するなら…アブラモヴィッチ目線のランパード解任論。

トーマス・トゥヘル監督のプレミアリーグデビューは、スコアレスドローというほろ苦い結果に終わりました。前半のパス433本は、データ集計が始まった2003年以降、プレミアリーグ史上最多本数。最終的には820本のパスを通し、ポゼッション率78.9%を記録しましたが、こちらは監督のデビュー戦として最高の数字だそうです。現地メディアは、ドイツ人指揮官の就任による大きな変化を報じるとともに、フランク・ランパードの1年半の総括を続けています。

チェルシーの対応については、批判的な意見も多いようです。ハリー・レドナップさんのコメントが、代表的な声なのではないでしょうか。「どんな監督にも時間が必要だ。クロップ、アルテタ、スールシャールも、時間をかけて状況を好転させてきた。4つか5つ負けても、いい監督が悪くなることなどない。もっと信頼すべきだ」。初年度をプレミアリーグ4位で終え、混戦の2年めもTOP4の背中を捉えている監督を切るのはあまりにも非情。時間をかけて強化を進めれば、レジェンドとアカデミー出身の選手たちがトロフィーを掲げる待望のドラマが実現する可能性があるのに…と抗議したいサポーターも多いのではないでしょうか。

レドナップの意見も、ランパードを支持するサポーターの気持ちも、とてもよくわかります。先にゴシップの主役となったミケル・アルテタの記事を読み耽っていた時は、私も同様の気分に支配されていました。偉大なボス、アーセン・ヴェンゲルの薫陶を受けたクラブOBが、サカやスミス・ロウ、ウィロック、ネルソンといった若手を育てながら結果を出そうと苦しんでいる。いずれ花が咲くと信じて、その奮闘を見守るべきではないか…。われわれは、勝敗やテクニックだけでなく、成功に至るまでのストーリーや夢も共有しているのだと思います。

ランパードについても、「タミー・アブラハムやメイソン・マウントがトロフィーを手にするまで、続けさせてあげてほしい」と考えていた時期がありました。解任のニュースは無念のひとこと。その後も、現地発のニュースや日本の記者の声をチェックしていたのですが、粕谷秀樹氏の「チェルシーの悪しき伝統」という見出しを目撃した瞬間、ふと冷静になったのです。ランパードに肩入れすればするほど、ロマン・アブラモヴィッチという監督に厳しいオーナーが悪魔に見えますが、果たして彼のジャッジは間違っているのでしょうか?

ここからは、アブラモヴィッチ目線に立って、このたびの解任劇を語ってみたいと思います。前提として、はっきりさせておきたいのは、プレミアリーグにおいて彼とチェルシーは成功者であるということです。ロシアの大富豪がオーナーに君臨した2003年以降、プレミアリーグ優勝5回、FAカップ制覇5回、リーグカップ3回。彼ら以上といえるのは、プレミアリーグ5回に加えてチャンピオンズリーグ2回とクラブワールドカップ制覇があるマンチェスター・ユナイテッドだけです。

解任は非情という声に対しては、「微妙な戦績に留まった指揮官の首を切った直後に、5回ビッグタイトルを獲得していますが何か?」という切り返しトークを用意できます。フェリペ・スコラーリの翌年、アンチェロッティがプレミアリーグ制覇。ヴィラス・ボアスが去った直後に、ディ・マッテオがクラブ初のビッグイヤーを獲得しています。その翌年、ディ・マッテオは怪しいと見るやベニテスに切り替え、ヨーロッパリーグ制覇。ジョゼ・モウリーニョに出ていってもらった翌年は、アントニオ・コンテを招聘して前年10位から優勝という離れ業を見せています。

コンテがCL出場権獲得に失敗すると、マウリツィオ・サッリを連れてきて2度めのEL。これまでの成功と失敗について、PDCAをあてはめるなら、「監督解任は、次の人選を間違えなければプラスに作用する」となります。ランパードに対する評価については、解任を伝えるステートメントにおける「最近の結果とチームのパフォーマンスは期待を下回るものであり、この状況を乗り越えるための改善が見られなかった」という言葉が重要なのではないかと思われます。

レジェンド解任の理由を探る記事を多数配信している「ミラー」は、指揮官のサインが入った12項目の罰金リストの写真を掲載。ジムトレーニングに遅刻すると2500ポンド(約35万円)、全員で行うトレーニングセッションに遅刻すると2万ポンド(約280万円)など厳しいルールが敷かれており、あまりのハードマネジメントに反発した選手との衝突を報じるメディアも複数存在します。

ジョゼ・モウリーニョ時代にも指揮官と主力の確執が報じられ、負け続けるようになってからは状況が好転する兆しはありませんでした。過去の失敗経験を経営に活かすなら、不振に陥ってから5週間経っても改善策がない指揮官はアウト。夏に投じた移籍金2億2000万ポンド(約314億円)のROI(投資対効果)を早期に改善するという観点で見ても、高額をかけて呼び寄せた社員の士気が低く、パフォーマンスが下がる一方の組織は、マネージャーを代えるべきという結論になります。

アブラモヴィッチさんは、ビジネスにおける考え方をチェルシーにも適用させているだけなのではないでしょうか。「この状況を乗り越えるための改善が見られなかった」。オーナーとしては、クラブに多大な貢献をしてくれたレジェンドを守りたいという情に流されず、直近のチーム状況をしっかり分析し、過去の取り組みとその成果を振り返って明快なジャッジを下したと説明したいのではないかと思います。経営的に正しいことと、プレミアリーグファンにとって喜ばしいことが、ときどきぶつかるのが悩ましいのですが…。

ランパード監督が、優勝するにはハードマネジメントは必須と主張し、ほしい選手を要求し続けたいなら、勝利を積み上げながらアピールしなければならなかったのです。プレミアリーグで最高の指揮官が、彼の解任について見解を問われ、こんなコメントを残しています。「多くの人々がプロジェクトやアイデアの話をしたがるけど、そんなものは存在しないといっていい。ただひたすら、勝たなければならない。それができなければ、解任されるまでだ」(ペップ・グアルディオラ)。


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“過去の業績分析、PDCA、ROIで判断するなら…アブラモヴィッチ目線のランパード解任論。” への2件のフィードバック

  1. Tアリ より:

    色々思うところがある記事で非常に面白かったです 正直、面白かったと言えるほど落ち着いて今回の件を振り返れているわけではないですが、他に適当な言葉が見当たらず…

    サポーターとしてはランパードクラスのレジェンドが今回のような解任に至るのはもちろん悲しいのですが、もはや『こういうクラブである』と割り切っている部分もあります
    クラブ首脳陣の運営が完璧とはとても思いませんが、それでも現オーナーを悪く思うサポーターはあまりいないのではないでしょうか
    モウリーニョ一期政権から、『ドラマもやり方も置いといて、周りにどう言われようがとにかく勝つのが第一』という在り方でしたし、それを他クラブに揶揄されようと応援し続けてきた身です

    クラブに関わりの長い監督を長い目で見て浮き沈みをともにしたり、あくまで美しいサッカーを追求するという姿勢のクラブも素晴らしいと思いますし、あまりそう言うのに縁がないクラブのサポーターとしては少なからず憧れに似た気持ちもありましたが、とにかく勝つことを優先してきたクラブなので、やはりこれからもその姿勢を含めて支持していきます

    一度好きになったクラブです
    応援し続けるしかありません

  2. n より:

    勝てない試合が続き、観るのも記事を読むのも辛くなり、ついに解任。初年度の健闘虚しく、おっしゃるように勝てなくなったからチェンジ、無常ではありますが、これがプレミアですね。昨季後半を牽引したジルーの起用やウィリアンがいてくれたらと、たらればの思いはありますが、開幕しばらくはかなり順調だっただけに、短期間でリカバリー出来なかった事が悔やまれます。たしかにランパードには戦術や対応された後の引き出しが少なく、膠着状態を打破できないシーンが多かったと思いますし、ゴールまであと数センチの運も、結果的に足りませんでした。今後マウント&エイブラハム&ジェームスはじめ、チルドレンの流出がないことを祈ります。いずれテリー監督の日も来そうですし、また第二期政権を楽しみに待ちます。
    補強に関しては、どこまでがランパードの希望だったのでしょうかね?

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