2021.03.18 チームの話題(全体・他クラブ)
オーナーとの確執、明確な戦力不足…功労者クリス・ワイルダーを絶望させたシェフィールド・ユナイテッドの舞台裏。
シェフィールド・ユナイテッドのクリス・ワイルダー辞任の報に触れた瞬間、半年前にボーンマスに別れを告げたエディ・ハウの顔が脳裏に浮かびました。情熱的なサポーターに、プレミアリーグ昇格という最高の歓喜をもたらした功労者でも、降格となるとクラブを去らざるをえなくなるのか…。深夜枠で人気が高まってゴールデンタイムに移った番組が、視聴率を上げられずに打ち切りとなるのを見ているようです。
ディレクターを代えず、もう1度深夜に戻って盛り上がるという選択肢はなかったのか。個性的なフットボールでプレミアリーグを盛り上げてくれた2人の絶頂期の記憶を呼び起こすと、苦い思いがこみ上げてきました。クリス・ワイルダーもまた、エディ・ハウと同様に不振の責任を取るべくチームを離れたのだと思い込んでいたのです。そのレポートを、読むまでは。
2008年の夏、リーグ2(4部相当)に降格したボーンマスは、30歳だった若き指揮官に再建を託しました。2年めにクラブをリーグ1に昇格させたエディ・ハウは、2011-12シーズンにバーンリーで指揮を執った後、プレーヤーとして10シーズンを過ごした古巣に復帰。2012-13シーズンにチャンピオンシップに上がると、2014-15シーズンを首位で終え、クラブ創設以来125年で初のプレミアリーグ昇格を実現させました。
美しいパスサッカーで、4シーズン連続のプレミアリーグ残留を成し遂げたマネージャーは、クラブに莫大なキャッシュを残しました。2019-20シーズンのプレミアリーグで降格の憂き目に遭ったのは、大量の負傷者が発生したからで、アストン・ヴィラに1ポイント差の18位は大健闘といっていいでしょう。エディ・ハウは、次のシーズンも当たり前に指揮を執るものと信じていたのですが…。後任のジェイソン・ティンダルを2月に解任し、ジョナサン・ウッドゲートを招聘したボーンマスは、プレーオフ出場圏内に2ポイント差の7位という微妙なポジションでチャンピオンシップを戦っています。
2016年5月にシェフィールド・ユナイテッドと契約を結んだクリス・ワイルダーも、クラブをプレミアリーグに導いた功労者です。初年度を首位で駆け抜け、チャンピオンシップ昇格後2年めとなる2018-19シーズンは2位フィニッシュ。就任から3年で、選手時代にも体験していないトップリーグへのチケットを手に入れました。プレミアリーグでデッドヒートを繰り広げたペップ・グアルディオラとユルゲン・クロップを差し置いてのリーグ最優秀監督受賞は、3バックの左右がサイドをスプリントする「オーバーラッピングCB」というアイデアがいかに鮮烈だったかを物語っています。
2019-20シーズンのプレミアリーグは、14勝12分12敗という素晴らしい戦績でTOP10フィニッシュ。トッテナム、アーセナル、チェルシーとのホーム&アウェイをすべて1勝1分で終えたチームにサポーターは熱狂し、多くの評論家が独創的な戦術を絶賛しました。オコネルとベイシャムは、ビッグ6と対峙しても果敢にサイドを疾走。GK、3バック、WBと中盤のノーウッドは全員先発30試合以上で、クリス・ワイルダーの采配がなければ残留すら成し遂げられなかったはずです。
14年ぶりのトップリーグ復帰初年度を9位で終えたチームは、なぜ不振に陥ってしまったのでしょうか。「BBC」のアリステア・マクワン記者が、監督辞任までのプロセスをレポートしています。さらなるジャンプアップが期待された2シーズンめは、開幕前から不穏な空気が漂っていたそうです。2013年に資金を注入したサウジアラビア王室のプリンス・アブドラは、共同オーナーだったケヴィン・マッケイブとの20ヵ月に及ぶ株式売買を巡る訴訟に勝ち、2019年9月にクラブを支配。クリス・ワイルダーは、マッケイブが連れてきた監督でした。
2020年の夏にスカッドをアップグレードしたかったワイルダーに対して、プリンスは独断で補強を敢行。指揮官がほしがっていた左SBとMFは得られず、長期離脱のオコネルの穴も埋まりませんでした。前年にプリンスが引き入れたマクバーニー、リス・ムセ、ベルゲ、ジャギエルカなど9人のなかで、2020-21シーズンにゴールを決めたのは、1ゴールに留まっているベルゲのみ。昨夏に2350万ポンドを支払ったリアム・ブリュースターは、未だノーゴールと期待を裏切り続けています。
17節まで2分15敗でわずか8ゴールという記録的なスランプが続き、現在は4勝2分23敗で最下位。17位と14ポイント差は降格当確です。残留をめざして目いっぱい手を打つなら、前半戦で指揮官を代えて1月に補強すべきでした。冬のマーケットをスルーし、2月までは指揮官を代える気配もなかったので、来季のチャンピオンシップをワイルダー体制で戦おうとしているのだと思っていました。突然の辞任はとにかく不可解だったのですが、「BBC」のレポートを読んで納得しました。チームを率いて5シーズンめの功労者が絶望したのだ、と。エディ・ハウとは異なる理由で去ると決めたのだ、と…。サポーターたちは、あまりのショックで言葉を失っているのではないでしょうか。
「Being manager of Sheffield United has been a special journey and one I’ll never forget(シェフィールド・ユナイテッドのマネージャーになることは特別な旅であり、決して忘れない)」。クラブとサポーターに対する短いメッセージだけを残し、何もいわずに去っていった男気溢れる指揮官に、何もいわずにひたすら拍手を送りたいと思います。52歳で初めてチャレンジしたトップリーグで、まともに勝負したのは、たった1年。しかしそれは、ビッグクラブの名将たちを震撼させた実りある1年。最後に、あの人の惜別の言葉を紹介して、この稿を締めることとしましょう。(クリス・ワイルダー 写真著作者/Oxford United)
「もし彼がここ(=マンチェスター・シティ)にいたら、タイトルを争っていただろう。私がシェフ・ユナイテッドを率いていても、降格回避のファイトをしていただろう」(ペップ・グアルディオラ)
ディレクターを代えず、もう1度深夜に戻って盛り上がるという選択肢はなかったのか。個性的なフットボールでプレミアリーグを盛り上げてくれた2人の絶頂期の記憶を呼び起こすと、苦い思いがこみ上げてきました。クリス・ワイルダーもまた、エディ・ハウと同様に不振の責任を取るべくチームを離れたのだと思い込んでいたのです。そのレポートを、読むまでは。
2008年の夏、リーグ2(4部相当)に降格したボーンマスは、30歳だった若き指揮官に再建を託しました。2年めにクラブをリーグ1に昇格させたエディ・ハウは、2011-12シーズンにバーンリーで指揮を執った後、プレーヤーとして10シーズンを過ごした古巣に復帰。2012-13シーズンにチャンピオンシップに上がると、2014-15シーズンを首位で終え、クラブ創設以来125年で初のプレミアリーグ昇格を実現させました。
美しいパスサッカーで、4シーズン連続のプレミアリーグ残留を成し遂げたマネージャーは、クラブに莫大なキャッシュを残しました。2019-20シーズンのプレミアリーグで降格の憂き目に遭ったのは、大量の負傷者が発生したからで、アストン・ヴィラに1ポイント差の18位は大健闘といっていいでしょう。エディ・ハウは、次のシーズンも当たり前に指揮を執るものと信じていたのですが…。後任のジェイソン・ティンダルを2月に解任し、ジョナサン・ウッドゲートを招聘したボーンマスは、プレーオフ出場圏内に2ポイント差の7位という微妙なポジションでチャンピオンシップを戦っています。
2016年5月にシェフィールド・ユナイテッドと契約を結んだクリス・ワイルダーも、クラブをプレミアリーグに導いた功労者です。初年度を首位で駆け抜け、チャンピオンシップ昇格後2年めとなる2018-19シーズンは2位フィニッシュ。就任から3年で、選手時代にも体験していないトップリーグへのチケットを手に入れました。プレミアリーグでデッドヒートを繰り広げたペップ・グアルディオラとユルゲン・クロップを差し置いてのリーグ最優秀監督受賞は、3バックの左右がサイドをスプリントする「オーバーラッピングCB」というアイデアがいかに鮮烈だったかを物語っています。
2019-20シーズンのプレミアリーグは、14勝12分12敗という素晴らしい戦績でTOP10フィニッシュ。トッテナム、アーセナル、チェルシーとのホーム&アウェイをすべて1勝1分で終えたチームにサポーターは熱狂し、多くの評論家が独創的な戦術を絶賛しました。オコネルとベイシャムは、ビッグ6と対峙しても果敢にサイドを疾走。GK、3バック、WBと中盤のノーウッドは全員先発30試合以上で、クリス・ワイルダーの采配がなければ残留すら成し遂げられなかったはずです。
14年ぶりのトップリーグ復帰初年度を9位で終えたチームは、なぜ不振に陥ってしまったのでしょうか。「BBC」のアリステア・マクワン記者が、監督辞任までのプロセスをレポートしています。さらなるジャンプアップが期待された2シーズンめは、開幕前から不穏な空気が漂っていたそうです。2013年に資金を注入したサウジアラビア王室のプリンス・アブドラは、共同オーナーだったケヴィン・マッケイブとの20ヵ月に及ぶ株式売買を巡る訴訟に勝ち、2019年9月にクラブを支配。クリス・ワイルダーは、マッケイブが連れてきた監督でした。
2020年の夏にスカッドをアップグレードしたかったワイルダーに対して、プリンスは独断で補強を敢行。指揮官がほしがっていた左SBとMFは得られず、長期離脱のオコネルの穴も埋まりませんでした。前年にプリンスが引き入れたマクバーニー、リス・ムセ、ベルゲ、ジャギエルカなど9人のなかで、2020-21シーズンにゴールを決めたのは、1ゴールに留まっているベルゲのみ。昨夏に2350万ポンドを支払ったリアム・ブリュースターは、未だノーゴールと期待を裏切り続けています。
17節まで2分15敗でわずか8ゴールという記録的なスランプが続き、現在は4勝2分23敗で最下位。17位と14ポイント差は降格当確です。残留をめざして目いっぱい手を打つなら、前半戦で指揮官を代えて1月に補強すべきでした。冬のマーケットをスルーし、2月までは指揮官を代える気配もなかったので、来季のチャンピオンシップをワイルダー体制で戦おうとしているのだと思っていました。突然の辞任はとにかく不可解だったのですが、「BBC」のレポートを読んで納得しました。チームを率いて5シーズンめの功労者が絶望したのだ、と。エディ・ハウとは異なる理由で去ると決めたのだ、と…。サポーターたちは、あまりのショックで言葉を失っているのではないでしょうか。
「Being manager of Sheffield United has been a special journey and one I’ll never forget(シェフィールド・ユナイテッドのマネージャーになることは特別な旅であり、決して忘れない)」。クラブとサポーターに対する短いメッセージだけを残し、何もいわずに去っていった男気溢れる指揮官に、何もいわずにひたすら拍手を送りたいと思います。52歳で初めてチャレンジしたトップリーグで、まともに勝負したのは、たった1年。しかしそれは、ビッグクラブの名将たちを震撼させた実りある1年。最後に、あの人の惜別の言葉を紹介して、この稿を締めることとしましょう。(クリス・ワイルダー 写真著作者/Oxford United)
「もし彼がここ(=マンチェスター・シティ)にいたら、タイトルを争っていただろう。私がシェフ・ユナイテッドを率いていても、降格回避のファイトをしていただろう」(ペップ・グアルディオラ)
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うーん。。。
ペップの一言に痺れますね。。。
僕がワイルダーだったら額縁にいれて家の目立つところに飾りたいです。
願わくば、その額縁の横に、いつか大きいトロフィーが飾られる日を願っています。
更新ご苦労様です。
シェフィールド・ユナイテッドというチームをこよなく愛していたと思います。残念な終わり方ですが、いつしか戻ってくることを期待したいと思います。