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偏愛的プレミアリーグ見聞録

マンチェスター・ユナイテッドファンですが、アーセナル、チェルシー、トッテナム、リヴァプール、エヴァートンなどなど何でも見てしまう雑食系プレミアリーグファンです。プレミアリーグ観戦記、スタジアム、チーム情報からロンドンやリヴァプールのカルチャーまで、幅広く紹介しています。

失敗だった戦い方を修正せず…ビジャレアル戦でミケル・アルテタに抱いた3つの疑問。

「He’s nobody, I’m the champ」。1975年6月、クアラルンプールでジョー・バグナーと世界ヘビー級タイトルマッチを戦う王者モハメド・アリが、試合前の公開練習に姿を現したジョー・フレイジャーに投げつけた言葉です。その4年前に、31戦全勝だったアリが初めて敗れた宿敵は、1973年1月にジョージ・フォアマンに惨敗してチャンピオンの座を失っており、アリがバグナーに勝てば1勝1敗からの決着をつける3度めのバトルが実現すると噂されていました。

「ヤツは何者でもない。俺はチャンプだ」。今季のアーセナルの苦闘を見るたびに、ボクシング史上に残る稀代の王者あるいはトリックスターの言葉が脳裏をよぎります。プレミアリーグ13勝7分13敗、TOP4にいたのは4節まで。33節のうち、23節の順位テーブルで10位以下だった不振のチームは、ヨーロッパリーグで準決勝に進出し、5年ぶりのCL出場権を賭けて戦っています。彼らはELのchampとしてフットボールの歴史に名を残すのでしょうか。あるいは25年ぶりに欧州へのチケットを手離し、 nobodyとしてシーズンを終えるのでしょうか。

ウナイ・エメリ率いるビジャレアルとのアウェイゲームは、最大のパフォーマンスを発揮するべき一戦だったはずです。試合前の最注目ポイントは、アルテタ監督のフォーメーション。ラカゼットは欠場、オーバメヤンは病み上がりで頭から使えず、プレミアリーグのエヴァートン戦で先発させたエンケティアを信頼するのは難しい状況でした。指揮官の答えは、スミス・ロウの偽トップ。この起用には大いに疑問がありました。プレミアリーグで未だノーゴールのプレーメイカーを最前線に配するのは妥当なのか?

戦い方に問題があるとわかるまでに必要な時間は、たった5分でした。ジャカがドリブルを嫌うと知っていたガナーズの元指揮官は、SBに入っていたフォイスとチュクウェゼに仕掛けさせました。左にスミス・ロウ、トップ下にウーデゴーア、右がサカという戦い慣れた2列めの前に、プレミアリーグ5ゴールのニコラ・ペペを置く布陣なら、本職はCBのフォイスをあれほど自由にはさせなかったでしょう。

ジャカの守備を懸念するなら、サカを左にまわすという手もありました。「スミス・ロウとウーデゴーアを中央で使いたい」「サカのカットインは捨てがたい」…消去法でニコラ・ペペを左に配したようにみえる指揮官の采配は、FIFA21ならうまくいったかもしれません。

「守備が緩慢で、攻撃もほとんど計画性がなく、ウナイ・エメリにとっては見慣れたアーセナルのパフォーマンスだった」。前半の混乱を伝えた「テレグラフ」のサム・ディーン記者の表現は、決して大げさではありませんでした。アルテタ監督は、なぜ前半のうちに修正を施さなかったのでしょうか。明らかに問題があったチームは、オンターゲットをひとつも記録できないまま、セントラルMFがレッドカードを喰らうという最悪の状況に突入しました。

「2点を追うアーセナルがダニ・セバージョスの退場で10人になったとき、エメリはありえない成功を得ようとする希望に終止符を打とうとしているかのようだった。ヨーロッパリーグの巨匠は、ビジャレアルでなくても、こういったノックアウト方式の試合で勝利を収めるコツを知っている」

「しかし、欧州フットボールのドラマチックな美しさは、このような2試合勝負のなかで、ほんの数回、極めて重要な瞬間に起こる揺らぎにある。スペインにおけるミケル・アルテタのチームは、常に悲惨と壊滅の間を行き来していたが、プアなスタートを切った同じ試合のなかで、何もなかったところから決定的なアウェイゴールを決めたのだった」(サム・ディーン/テレグラフ)

チームを救ってくれたのは、ブカヨ・サカでした。トリゲロスに足を引っかけられて得たPKは、試合後にエメリが抗議したきわどいジャッジ。ニコラ・ペペのキックが初めてのオンターゲットだったという事実が、戦術の失敗と選手たちの混乱を物語っています。トリゲロス、チュクウェゼ、モレノが3点めをゲットするチャンスを活かしていたら、マンチェスター・ユナイテッドに6-2で敗れたローマよりも厳しい条件でノースロンドンに帰還することになったかもしれません。

微妙なフォーメーション、早々の失点、戦術修正の遅れ、レッドカード、再三のピンチ…いいところがなかったアウェイチームは、2-1という希望がつながるスコアでタイムアップを迎えました。アルテタ監督に対する3つめの疑問は、試合後のネガティブな発言です。「ハーフタイムにダニ・セバージョスに注意しろといった」「彼を代えるつもりだったけど、ガビ(=マルティネッリ)が準備している間にそれは起こり、退場となってしまった」。ラフプレーやトラブルではなく、走っている際にパレホの足を踏んでしまったMFに対する言葉としては厳しく聞こえました。

セカンドレグに向けて、テンションを高めなくてはならないのに、なぜ選手を批判するようなニュアンスの言葉を残したのでしょうか。プレスの前で、選手の責任を問うような発言をした監督とチームがどうなるかは、ジョゼ・モウリーニョを見ていればわかります。致命的なミスの連続による惨敗への道をクレバーなヤングスターが止めてくれた今、指揮官が成すべきは、チームをフレッシュでポジティブな状態に導いて決戦を迎えることです。

バグナーを倒した4か月後の1975年10月、「スリラー・イン・マニラ」と題されたジョー・フレイジャーとの激戦で疲労困憊したモハメド・アリは、14ラウンド終了後に続行不可能とつぶやいたそうです。次のゴングが鳴る前に、視界を失った宿敵がリタイアして勝利が決まると、アリは右手を高々と上げた後、リングに倒れ込んで動かなくなりました。

トレーナーのアンジェロ・ダンディさんが先にタオルを投げていれば、アリはchampからnobodyに転落していたのです。ミケル・アルテタは、選手たちの力を100%引き出し、ヨーロッパリーグチャンピオンの称号を得ることができるでしょうか。現地では、エメリとの再戦で敗れたらシーズン終了をもってnobodyになるというゴシップが広がっています。


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