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「ピッチに自国の選手を!」ホーム・グロウンルール変更を提案するFAの危機感と覚悟

FA(イングランドサッカー協会)が、大胆な改革に着手しようとしているようです。2022年のワールドカップ制覇を目標に掲げている会長のグレッグ・ダイクさんは、イングランドの若手選手を育成・強化し、プレミアリーグを繁栄させるために、ホーム・グロウン(自国育成選手)に関するルール変更を提案。これについて、「BBC」をはじめとするイギリスメディアが大々的に報じています。

ダイク会長の提案は4点。ひとつめは、「ホーム・グロウンの対象年齢の引き下げ」。21歳の誕生日を迎えるまでの3年間を国内クラブでプレイしなければならないという現行の条件を、18歳までの3年間に引き下げるとしています。これについては、一方でFIFAの移籍条項第19条が「18歳未満(EU、EEA内は16歳未満)の国際移籍禁止」と規定しており、昨年、バルセロナが違反を問われて補強禁止のペナルティを受けています。FAが15歳から3年、イングランドとウェールズのクラブにいなければならないと年齢を引き下げれば、国内の選手とイギリス在住の外国籍選手のみ(条件付き特例あり)がホームグロウンの対象となり、より本来の趣旨に近づくことになります。

2つめは、「ホーム・グロウン選手の最低登録数増加」。現在は、プレミアリーグの最大登録人数25名のうち、8名をホーム・グロウン選手にしないといけないとしていますが、これを約半数の12名に増やすというお話です。これについては、2016年からの4年間で段階的に実施するとのこと。さらに、3つめのルールとして、「そのうち2名は自クラブ育成選手でなければならない」としています。トップクラブがリストの質を落としたくなければ、常に2人は自前の選手をトップチームに入れられるぐらいの育成強化をしなさい、ということですね。あるシーズンオフの移籍市場最終日に、突然2人が移籍してしまったらどうなるのでしょう。クラブは、力のある自前選手をいつでもレンタル先から呼び戻せるようにしておかないとリスキーです。いや、すみません。各論は、正式に決まってからにしましょう。

そして4つめは、「EU外選手の労働許可証発行基準の厳格化」。現在は、EU外の選手がプレミアリーグやチャンピオンシップなどへの移籍を認める基準として、「過去2年のFIFAランキングの平均が70位以内の国・地域」「期間内の代表戦の75%以上に出場」という縛りがあります。今回の変更案は、ランキングの順位を50位までに絞るとともに、「1-10位は30%以上、11-20位は45%、21-30位は60%、31-50位は75%」という形で順位による傾斜をかけるとしています。「プレミアリーグには、イングランド人選手と世界のベストプレイヤーがいればよい」、言い換えれば、「イングランド人の平均的な選手と同等レベルの外国人選手に、国内選手が職場を脅かされるべきではない」という趣旨でしょう。こちらについては、さっそくこの5月から施行されるそうで、今まで移籍が認められてきた128人の選手のうち、約3分の1となる41人はアウトになります。

このお話の論点は、「ルール変更でイングランドは強くなるのか」「プレミアリーグは、イングランドやウェールズのみなさんにとって、おもしろくなるのか」でしょう。最初の3つについては、成功すれば地元のサポーターにとってはより愛せるチームになる可能性が高く、取り組む意義のあるルールだと思います。ただし、労働許可証の発行基準は微妙です。原理主義的ないい方かもしれませんが、市場自体はより開かれているほうがいいのではないかと思います。「弱小国出身ではあるもののトップレベル」の選手の入り口を閉ざすことなく、「30位以下は一律、代表戦出場75%」でもいいように思いますが、どうなのでしょうか。サー・アレックス・ファーガソンさんは現場にいた頃、この基準の緩和を求めておりましたが、「ルールで縛ることによって状況を変える」のか、「マーケットが価値と相場観を決める」と市場原理に委ねるのか、どちらを取るかですね。

さて、ここまでの話を読んだ方のなかには、「レベルの低いイングランド人選手が増えたら、トップクラブをはじめプレミアリーグ全体が弱くなるのではないか」「下位クラブの外国人選手が減ると、他国よりもコンペティティブである今のおもしろさが損なわれるのではないか」と思われる方もいらっしゃるでしょう。私も、その可能性は充分にあると思います。「上位と下位の実力差が激しい」といわれるスペインにおいて、現在降格ゾーンにいるコルドバ、グラナダ、レバンテで、今季のリーガ・エスパニニョーラに出場した経験のある外国人選手は37人。でこぼこはあるものの、1チーム平均で12~13人なので、この状態になるということです。スペイン人選手よりもレベルが低いイングランド人中心のチームが、プレミアリーグの中位以下を占めることを想像すると、一瞬、息を呑んでしまいます。

ただし、これらの懸念は「イングランド人選手のレベルが上がらなければ」です。FAは、もう片側で、イングランド人選手の質を向上させる取り組みに着手しています。2010年以降、代表強化の一環として、9歳~16歳までの選手を指導する時間をドイツやオランダよりも長い週15~20時間に増加させ、プログラム開発にも着手。昨年10月には、2020年までの6年間で設備の充実化、優秀な人材育成のために2億3000万ポンド(約400億円)の投資を行うと発表しました。こちらには、イングランド30都市に150ヵ所のサッカーの拠点を作ることが盛り込まれており、「3Gピッチ」といわれる最新技術による人口芝グラウンドの導入、ユースアカデミーの強化、コーチの層の拡大などが進められるそうです。

「2014-15シーズンのチャンピオンズリーグに出場したイングランド人選手はたった23名。スペインは78名、ドイツは55名、ブラジルでも51名いる。この数字は悪くなる一方だ」と語るダイク会長とFAは、相当の危機感でもって、イングランドの改革を推進する意向のようです。「レベルが上がらなかったらどうする?」ではなく、「何としてもレベルを上げて成功させる」。そのために、大胆なホーム・グロウンルールの変更は絶対に必要と覚悟を決めた、と理解しました。

「プレミアリーグには、もっともっとハリー・ケインがいなければならない」という意志をもって国を挙げての強化策を推進することとセットで、ホーム・グロウンルールを厳しくするのであれば、その意気やよし。2010年に9歳だった選手は、2020年には19歳。この前後の世代から、若き日のウェイン・ルーニーやマイケル・オーウェン、現在21歳のハリー・ケインのような若手スターがゴロゴロ出てきて、プレミアリーグがよりエキサイティングなリーグになっていることに期待したいと思います。

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“「ピッチに自国の選手を!」ホーム・グロウンルール変更を提案するFAの危機感と覚悟” への8件のフィードバック

  1. にわかスパーズファン より:

    更新お疲れ様です。
    個人的にFAは思い切ったと思います。
    ようやく重い腰が上がったかという感じです。

    私が思う懸念材料に今でさえイングランド人選手は移籍金が高騰しているのに、これからどうなるんだ?というところです。
    そして、国内選手が海外でプレーする機会がどんどん失われていくように思います。
    外国で違うフットボールに触れることで代表にも幅が出るように思うのですが。
    ドイツのようにどんどん若くいい選手が出てくると、そんな懸念も吹っ飛ぶのかもしれませんが。

  2. Macki より:

    更新ご苦労様です。
    W杯の惨敗、CLとELでの凋落と現実を目の当たりにしては当然の動きかと思います。
    ファンとしての願いは、リーグの質を落として欲しくないですね。
    自国がフットボール発祥の地という自負もあるのでしょう。確かに今のイングランドはかつての強さを感じないのも事実。
    制度ばかりに縛られて、変な方向に行かなければいいなと思います。

  3. makoto より:

    にわかスパーズファンさん>
    「ホーム・グロウンの人数が増えたことでトップクラブが育成により力をいれ、いいイングランド人選手が多くなって”高い選手なら無理して獲らない”と値段は落ち着く」という可能性もありますね。現在は、いい選手が少ないから高くふっかけるという「大間のマグロ」的な状況もあるように思います。

    Mackiさん>
    おっしゃるとおり、いちばん思うのは「リーグの質を落として欲しくない」ですね。

  4. 黒猫ゲーテ より:

    やってみなければ、どうなるかはわかりませんが、
    プレミアリーグおよびナショナルチームにとっていい結果になればと思います。

    ただ、気になるのは、もし決定した場合
    強豪チームが下位チームの優秀な自国選手の獲得に走り
    「上位との格差がひらく」かつ「新たに自国選手を入れなければ」という
    下位チームにとっては厳しい結果にならないかが心配です。

  5. より:

    そもそも昔から年俸安くなってもイングランド選手をラテン系のスペインやイタリアが獲得する可能性は低いと思いますよ。
    基本的に欲しがらない。
    プレミアリーグはもっとイングランド選手を増やした方が良い。

  6. ゆうま より:

    ルールどうこうよりも育成システムの質だと思いますね。

    —–
    更新ご苦労様です。

    まだ決定ではないと思いますが確実に各クラブの監督達は猛反発するでしょう。短期的には
    プレミアリーグ全体の競争力が落ちるでしょうからね。ベンゲル辺りは国籍と能力は別だと
    明確に反対するでしょう。本当はトップクラブでプレー出来ないレベルの選手にも関わらず
    イングランド人だからプレーできるという環境はフェアではないとか言いそうです。

    私はホームグロウンの対象年齢引き下げは有意義だと思います。プレミアの下部組織ならば
    何よりもまず自国の有望株がその才能を伸ばす場にすべきですよ。しかし同時に下部組織に
    所属する選手を強豪クラブの強引な引き抜きから守る厳しいルールも必要でしょう。全ての
    クラブに万遍なく有望な若手が存在し出場機会を得た上で本物の逸材だけが強豪クラブへと
    巣立っていく環境が私は理想だと思います。スペインはそんな感じですよね。

    ホームグロウンの最低登録枠拡大を目指すなら異常に高額なイングランド人選手の移籍金に
    しっかりと対策を取らなくてはいけないでしょうね。同レベルの選手がイングランド人より
    明らかに割安の移籍金で手に入るのだとすれば各クラブはどうするでしょうか?この問題に
    有効な解決策を開示しない限り登録枠の拡大は現実的には難しいだろうと私は思います。
    FAのルール改正によってCLに多くのイングランド人を出場させたいのなら強豪クラブに
    トップクラスのイングランド人が集まりやすい環境をFAが作ることもまた必要でしょう。

    私は元々EU圏外の選手に対する労働許可証発行の厳しさには疑問でした。そうするよりも
    他国リーグと同様に単純に登録人数に制限を掛けた方がいいように思いますね。選手個々の
    レベルにFIFAランキングは何か関係ありますか?代表監督からなぜか評価されていない
    選手にはプレミアでプレーするチャンスは与えられないのでしょうか?おかしいですよ。

    問題や壁はあるでしょうけどイングランド人プレーヤーがCLやW杯で躍動している姿には
    純粋に楽しみでもあります。いい形で軌道に乗ってくれることを期待しています。

    —–
    私個人としてはブンデスリーガのドイツ人枠に倣った制度を導入すべきと
    考えていましたので、混乱を回避するためにもっと猶予期間を取るべきだとは思いますが
    今回の制度は概ね賛成です。

    プレミアは”分不相応”にお金が入るので、限られた予算・与えられた戦力を
    知恵と努力で最大限活かそうとい努力を怠り、お金で解決しようとうする傾向が強いので
    ユース選手という手持ち戦力を最大限活用することに努力をする必要に迫られるというのは
    悪いことではないと思います(笑)

  7. makoto より:

    黒猫ゲーテさん>
    上位と下位の差は開きそうですね。下位の生きる道は、セインツ式に育成をどこまでがんばれるかだと思います。

    あ さん>
    イングランド人選手の海外移籍は、失敗は結構ありますが、成功事例は少ないですよね。

    プレミアリーグ大好き!さん>
    FAの危機感は、ルールで縛るぐらいのことをしないと、ドラスティックに変わらないという危機感でしょう。善し悪しは別として。

    tomoさん>
    下部は、むしろ引き抜いてほしいのではないでしょうか。クラブの大事な収益源ですから。選手を売れなくなったから泣く泣く育成予算を削減した、という話が結構出てますので。労働許可証は、私も全撤廃でもいいと思いますが、何らか基準を作ってイングランド人選手を守りたいのでしょうね。自国選手の移籍金高騰化の問題も含めて、いいイングランド人選手が増えれば解決する問題も多いのだと思います。うまく軌道に乗ってもらいたいですね。

    ゆうまさん>
    FAの狙いも、ゆうまさんがおっしゃるように「必要に迫られる状態を作る」ことなのだと思います。

  8. eboue より:

    昔はスペインも無敵艦隊と嫌味言われるほど国際試合では勝てない時代もあったり
    レアルもどれだけスペイン人を減らせるかが勝つポイントだと言われてた時代もあったように思います。
    リーガはあまり詳しくないですがその後なにか育成方法を変えたのでしょうか?
    個人的にはペップバルサとアラゴネス代表あたりで変わった気がしますが。
    イングランドでも育成うまくいくといいですよね。

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