偏愛的プレミアリーグ見聞録

2015年9月1日、デッドラインデーのサプライズ移籍。19歳だったアントニー・マルシアルの3600万ポンドは、10代の選手に対する移籍金ではフットボール史上最高額でした。ファン・ハールの下で戦った初年度は、プレミアリーグ31試合11ゴール4アシストとまずまずのスタッツ。ジョゼ・モウリーニョに冷遇された2016-17シーズンは25試合4ゴール6アシストと数字を落とし、翌シーズンは30試合9ゴール5アシストと持ち直したものの、成長著しいといえるパフォーマンスではありませんでした。

ひと皮剥けたのは、オーレ・グンナー・スールシャールと出会ってからです。2018-19シーズンのプレミアリーグは27試合10ゴール3アシスト。センターでプレイする機会が増えた2019-20シーズンは、32試合17ゴール7アシストとキャリアハイとなるパフォーマンスを披露しています。パンデミックが落ち着いた6月以降の延期9試合で6ゴール4アシスト。彼の活躍がなければ、レジェンドが率いるチームはチャンピオンズリーグ出場権を得られなかったでしょう。

前途洋々という言葉がぴったりだったアタッカーは、その1年後に放出候補と目される選手に変身してしまいました。2020-21シーズンは、プレミアリーグ22試合4ゴール6試合と停滞。鋭いドリブルと巧みなフィニッシュは影を潜め、PKをもらいにいく姿しか印象に残らない1年でした。ジェイドン・サンチョが獲得寸前と報じられるなか、「ESPN」は「アントニー・マルシアルとドニー・ファン・デ・ベークは、適正なオファーがあれば売却される可能性がある」と指摘しています。

マンチェスター・ユナイテッドでのプレイを希望しているオランダ人は、プレミアリーグへのフィット感を高めれば出番を増やすことができるでしょう。問題は、マルシアルです。前線とウイングのレギュラー候補は、ラシュフォード、カバーニ、ジェイドン・サンチョ、グリーンウッド。マルシアルが復活するためには、ダニエル・ジェームズ、ファン・マタ、ジェス・リンガードとの争いに勝たなければなりません。

トランスファーマーケットの動向に詳しいジャーナリスト、ディーン・ジョーンズさんは、「マルシアルは明らかに高いクオリティを持つ選手だけど、クラブの方向性にフィットしていない。今年はおそらく、マルシアルが去る年になるはずだが、最大の難しさは彼らが望む価値を手に入れられるクラブを見つけることだ」とコメントしています。

1年前は、5800万ポンドと評価されていたのですが、コロナ禍により相場が下落した現在は、買い値と同額で売るのも難しくなっています。移籍金3000万ポンドと週給25万ポンドを受け入れるクラブはあるのか。好調時の爆発力は捨てがたい存在ではあるものの、スールシャール監督はマルシアルの振る舞いを評価しておらず、残留となれば取り組み姿勢の変化をアピールしなければなりません。

2019-20シーズンの輝きを取り戻すのか。現地メディアが可能性ありと報じているトッテナムに向かうのか。左サイドからの軽快なカットインと、狭いスペースを苦にしない中央でのボールタッチを見せてほしいという思いはあるものの、ジェイドン・サンチョとグリーンウッドのゴールシーンを思い出すと、「彼を売ったお金で右SBやアンカーを」という気分に傾いてしまいます。残っても、出番は増えないでしょうね…。どうなるか、見てみましょう。