偏愛的プレミアリーグ見聞録

ポゼッション41.1％はプレミアリーグ19位、パス成功率72.2%も19位、1試合あたりの空中戦勝利19.3回は3位、イエローカード9枚も3位。このスタッツ、どのクラブだと思いますか？バーンリー、ブレントフォード、ニューカッスル…手練れの指揮官が率いる下位の常連クラブや、プレミアリーグに昇格してきたばかりで手持ちの駒が足りないチームを想像するのではないでしょうか。

実はこのチームは、首位マンチェスター・ユナイテッドと同じ勝ち点で並んでいるのです。ラファエル・ベニテス率いるエヴァートン。過去3年で出した2億6500万ポンド（約400億円）の損失は、プレミアリーグワースト。パンデミックによるダメージが最も大きかったクラブは、新戦力獲得にお金をまわせず、夏のトランスファーマーケットで160万ポンドしか使っていません。こちらの数字も、もちろんプレミアリーグ最下位です。

サポーターから絶大な信頼を得ていたカルロ・アンチェロッティの後を継ぎ、マージーサイドに戻ってきた新監督は、「元リヴァプール」という十字架を背負っています。「エヴァートンはスモールクラブ」という発言を忘れてくれる優しいファンは少数派。連敗スタートとなれば、グディソンパークのスタンドには緊張感が漂っていたのではないでしょうか。

勝利を求めるならサポートしてほしいと望んでいたはずの名将に与えられたのは、所属クラブで構想外となった選手ばかりでした。クリスタル・パレスが契約延長のオファーを出さなかったアンドロス・タウンゼント。レスターからレヴァークーゼンに移籍し、振るわなかったデマライ・グレイ。大連プロフェッショナルでプレイしていたサロモン・ロンドンも、フリートランスファーです。

厳しい目線と制約条件を受け入れながら、開幕を迎えたエヴァートンのマネージャーにとって、唯一幸運だったのは、6節までビッグ6とのゲームなしというドローでした。サウサンプトン、リーズ、ブライトン、バーンリー。それぞれ、強いとはいえませんが、簡単に勝てるチームでもありません。優勝候補とぶつからなかったとはいえ、4節まで10ゴールで3勝1分、マンチェスター・シティを上回る4位というスタートダッシュは天晴れのひとことです。

新監督の最初の手柄は、2つです。ひとつめは、ボックス・トゥ・ボックスという表現がぴったりのアブドゥライエ・ドゥクレをプレーメイカーとして機能させ、シンプルなアタックに徹していること。もうひとつは、アウトサイドを持ち場とする新戦力のウインガー2人にゴールを意識させていることです。

ドゥクレはプレミアリーグ4試合で1ゴール3アシスト、デマライ・グレイは3ゴール、タウンゼントは1ゴール2アシスト。アンチェロッティの子飼いといわれたアランは、アンカーとしてトップフォームをキープしており、カルヴァート＝ルーウィンも3戦3発と役割を果たしています。

「スカイスポーツ」の独占インタビューを受けたベニテス監督は、チームを強化するためのマネジメントについて、率直に語っています。リアリティがある彼の言葉に触れると、今のエヴァートンにはこの人が最適だったのだと実感します。

「何かを達成したければ、達成できる目標、手が届く目標を自らに課す必要がある。順位について考えるのは早すぎる。私は『one game at a time（1試合ずつ）』といっている。選手にはひとつだけ、チーム全体には2つの改善ポイントを伝えるぐらいがいい。2ヵ月後には、5つか6つが改善され、強くなっているかもしれない」

「監督としては、適切な組み合わせが必要だろう。彼らはとてもよくやっているので、ほめているけど、同時に改善できることを説明している。選手たちはそれを理解し、学ぼうとしている」

「われわれは学び続け、改善し続けなければならない。今、修正しようとしていることは、半年後には修正できているかもしれない。そのときは、それらの改善をほめ称え、別なことにフォーカスする」

好調エヴァートンは、どこまで…いや、名将の奮闘に敬意を表し、順位の話をするのはやめましょう。今週は、敵地ヴィラ・パークでアストン・ヴィラ。カルヴァート＝ルーウィンを起用できないマネージャーが選ぶ布陣と戦術に注目しています。