偏愛的プレミアリーグ見聞録

プレミアリーグ出場は182試合。アーセナル時代の輝きを知るファンにとっては意外ですが、ゴールは8、アシストは18しかありません。29歳になったジャック・ウィルシャーは、昨季の終了とともにボーンマスを放出され、次のクラブを見つけられずに苦しんでいます。

プレミアリーグからも、チャンピオンシップのクラブからもオファーはなし。現在は、古巣のアーセナルで孤独なトレーニングを続けながら、アカデミーのチーフであるペア・メルテザッカーの仕事を手伝っています。

「今はコーチングバッジを取得している。クラブに助けてもらいながらね。アカデミーの子供たちがうまくなるように手を差し伸べている」

「確かに楽しいし、将来の道として検討すべきだと思う。でも、今はまだプレイしていたいんだ。チームに与えられること、証明できることがまだまだあると感じている。だから、選手を終えてコーチとしてのキャリアを始めたくない」

「スカイスポーツニュース」の取材に対して、現役へのこだわりを熱く語ったミッドフィールダーは、プレミアリーグをはじめとするトップリーグから声がかからない理由について「負傷が多いというイメージ」があるからと考えているようです。「Under The Surface Podcast」に出演した際に、ネガティブなレッテルを払拭できない苛立ちを率直に表現しています。

「先入観があるようだ。いくつかのクラブから、素晴らしい選手だけどケガをするじゃないかといわれた。でも実際は、ロックダウンの前から重いケガを負ったことはない。毎日トレーニングできている。ボーンマスでもすべての試合に出ていた。いい加減なアンサーだね。だって、プレイできるんだから」

「Give me a chance, let me prove myself to you then, show you that I’m fit.（チャンスがほしい。証明させてほしい。フィットしていると示したい）」

本人がいうように、負傷しがちという見立てで敬遠しているクラブもあるでしょう。しかし、多くのクラブは、「負傷によって類まれなる才能が削がれてしまった」と考えているのではないでしょうか。アーセン・ヴェンゲルは「ボックス・トゥ・ボックス」と評しておりましたが、多才ゆえにさまざまな役割をまかせられたからか、今や強みがわかりづらくなった感があります。

アンカーに置くとなると、フィジカルと運動量が不安。ドリブルが多く、軽快にパスをまわすイメージがないため、セントラルやインサイドに配するのもためらわれます。アウトサイドのMFとしてはスピードに欠け、トップ下をまかされたいならもっとゴールに絡んでほしい…。彼の獲得を阻むのは、「スローかつオールドファッションなイメージ」なのではないかと思います。

2010-11シーズンはプレミアリーグ35試合1ゴール2アシスト。あまりにも眩しかった18歳の頃の自分を超えられていない早熟の天才は、メルテザッカーの脇でスパイクを脱ぐのでしょうか。「ここに戻ってきて、人生の多くの時間をともに過ごした懐かしい顔ぶれを見られてうれしい」と語った元イングランド代表は、冬のマーケットに期待しているといっています。しかし…。

「It’s true what they say ‘once a Gooner, always a Gooner（ひとたびグーナーになったら、ずっとグーナーだってみんないうけど、本当にそうだね）」

2022年1月1日、彼は30歳になります。ノースロンドンで節目となるバースデーを迎え、厳しい寒さが過ぎる頃、新たなキャリアを選んだという発表があるような気がしてなりません。最も情熱的なグーナーとして、次世代のウィルシャーを育てたいのだ、と。