偏愛的プレミアリーグ見聞録

2000年以降に招聘されたプレミアリーグのビッグ6の監督を見ると、成功といえる人物は、ビッグクラブで指導した経験かリーグ制覇の実績があります。ベニテスはバレンシアでラ・リーガ制覇2回、マンチーニはインテルでセリエA優勝3回。2011-12シーズンのCLを制したディ・マッテオは、前任のヴィラス・ボアスの下でコーチを務めており、内部昇格でした。

なぜ、こんな話を始めたかというと、マンチェスター・ユナイテッドの次期監督候補としてブライトンを欧州に導いたデ・ゼルビ、ウルヴスをTOP10に押し上げたガリー・オニール、ブレントフォードのトーマス・フランクの名前があったからです。サー・ジム・ラトクリフは、モイーズやヌーノ・エスピーリト・サント、グレアム・ポッターの戦績をご存じないのでしょうか。

2018年にナポリからチェルシーに乗り込んできたマウリツィオ・サッリは、ELで頂点に立ったものの、1年でイタリアに帰ってしまいました。中小クラブからのジャンプアップでまずまずだったのは、プレミアリーグ2013-14シーズンに準優勝のブレンダン・ロジャースと、CLファイナリストのマウリシオ・ポチェッティーノですが、両者ともに無冠で任務を終えています。

ましてやマンチェスター・ユナイテッドのような難しいクラブとなると、ますます経験値が重要となるでしょう。サー・アレックス・ファーガソンが勇退した後の指揮官で、タイトルを手にしたファン・ハール、モウリーニョ、テン・ハフは、全員リーグ優勝の経験がありました。アヤックスでリーグタイトル3回の監督を代えるなら、後任には相当の説得力が必要です。

中小クラブで評価を高めた3人に加え、イングランド代表のガレス・サウスゲート監督も候補のひとりといわれています。クラブレベルではミドルズブラしか経験がなく、プレミアリーグの月間最優秀監督以外にタイトルも表彰もない指揮官の招聘もまた、ギャンブルでしょう。今、いえるのは、ユーロ2024が終わるまで、この話は封印しておいたほうがいいということです。

経験値より求心力やクラブへの理解度を重視して、アルテタやランパードのようなOB活用という手もありますが、近年のスカッドの刷新と今回の組織リニューアルを鑑みると、OBならではの影響力を行使できる環境ではないと見ます。スールシャールですら、必要のない補強に口を出せなかったクラブは、ヘッドコーチとディレクターのタッグのあり方を確立するほうが先でしょう。

テン・ハフの続投と解任を天秤にかける際に、マンチェスター・ユナイテッドが考慮すべきことが2つあります。ひとつは、クラブ運営の母体とCEO、SDがすべて入れ替わった新しい組織であること。もうひとつは、PSRです。新進気鋭の監督に契約書を差し出す前に、クラブを買収した直後に指揮官を代えなかった事例を引っ張り出してみてはいかがでしょうか。

2003年7月にチェルシーを手に入れたロマン・アブラモヴィッチは、ラニエリに1年任せた後、2004-05シーズンからジョゼ・モウリーニョ。2008年9月にマン・シティを買収したアブダビ・ユナイテッド・グループ・フォー・デベロップメント・アンド・インベストメント（ADUG）がマーク・ヒューズを解任したのは、2シーズンめの12月です。

ここまでの話をまとめると、こうなります。クラブ運営の安定化や組織の整備を優先するなら、指揮官もディレクターも新人という状況を避けるべく、テン・ハフ続投。新たなヘッドコーチを招き入れるなら、ビッグクラブでのチーム作りの経験がある人物に絞るべきです。PSRの縛りがあるなかで、それでも指揮官に投資するのかという議論もありながら。