イングランドのプレミアリーグ(ときどきチャンピオンズリーグ)専門ブログ。マンチェスター・ユナイテッド、アーセナル、リヴァプールetc.

偏愛的プレミアリーグ見聞録

マンチェスター・ユナイテッドファンですが、アーセナル、チェルシー、トッテナム、リヴァプール、エヴァートンなどなど何でも見てしまう雑食系プレミアリーグファンです。プレミアリーグ観戦記、スタジアム、チーム情報からロンドンやリヴァプールのカルチャーまで、幅広く紹介しています。

今こそ引き際…売上ダウンと欧州スーパーリーグの混乱を招いたスタン・クリエンケの英断を期待。


「ニュースが世に出る少し前に知った。その時は完全に制御不能で、すぐに世界中が反応した。熟考する時間などなかった。既に大きな波が沸き起こっていた」「ヴィナイ(ヴェンカテシャムCEO)から、起きていることについて説明してもらった。彼はとても明確だった。われわれが知ることができなかった理由は心得ている。決定には関与していなかったからね」


欧州スーパーリーグ創設というニュースが世界を駆け巡った日について、ミケル・アルテタは淡々と振り返りました。発表するや否や、プレミアリーグのクラブを支える熱狂的なファンやジャーナリストの批判が沸き起こり、ほどなくアーセナルはグーナーたちに謝罪。オーナーのスタン・クロエンケは、アルテタ監督に対しても、「チームの邪魔をしてしまい、申し訳なかった」と詫びたそうです。「選手たちに、そのメッセージを伝えた。彼に求めることはそれしかない。私は受け入れた」。プレミアリーグで9位に停滞し、ヨーロッパリーグ出場権すら厳しくなっているチームは、2日で大半のクラブが撤退した無残なプランの影響で勝ち点を落としている場合ではありません。

欧州スーパーリーグ構想が頓挫したのは、創設15クラブが降格なしというクローズドなレギュレーション、テクニカルディレクターや監督までも寝耳に水だった密室コミュニケーション、中小クラブの利益にならない収益構造がフットボールファンやジャーナリストの怒りを買ったからでした。ビッグクラブのみが儲かるプランに問題があったのは事実です。しかし、強豪同士の対戦を増やしてフットボールシーンをより魅力的にするというアプローチ自体は、経済的な危機を迎えているクラブスポーツにとって、必ずしも間違いではないでしょう。

「パンデミックの後、レアル・マドリードは4億ユーロ(約520億円)の収入を失っている。われわれは、非常に悪い状況を迎えている」
「放映権以外の収入がなくなれば、収入を増やすにはゲームをより魅力的にするしかない。それがわれわれの仕事のスタートだった。チャンピオンズリーグに替えて、欧州スーパーリーグを開催すれば、失われた収入を補うことができるという結論に達したんだ」
「収益を独占しているUEFAには、透明性が必要だ。彼らは理解不能なCLの新たなフォーマットを2024年に開始する予定といっていたが、2024年にはわれわれは死んでいるだろう」
(フロレンティーノ・ペレス欧州スーパーリーグ会長)

レアル・マドリードを借金地獄から救った元会長の主張は、従来の国別クラブサッカーのスタイルが抱える本質的な問題の一端を突いています。スタジアムに通えなくなったサポーターがサッカーから離れたり、無観客で盛り上がりを欠く試合にNGを出すファンが他のコンテンツに浮気したりし始めているなかで、クラブの経営は深刻な状況に陥っています。彼の意見に最も賛同するプレミアリーグのクラブは、アーセナルなのではないでしょうか。スタジアム収入の比率が高いクラブほど、パンデミックの影響は大きくなります。

欧州のTOP20クラブの収益をレポートしている「フットボールマネーリーグ2021」を見ると、昨シーズンの決算が過去5年で最悪の数字となったのは、マンチェスター・ユナイテッド、アーセナル、シャルケ04の3クラブだけです。彼らの共通項は「スタジアムの収容力が高い」「CL出場権を逃した」「高値で売れる選手がいなかった」。なかでも最も厳しい数字だったのは、欧州のTOP10から陥落したガナーズです。

COVID-19のパンデミックの影響で、マッチデー収入は18%減、テレビ放映権料は36%減。今までさぼり気味だったスポンサー開拓が順調だったため、コマーシャル収入は29%UP(欧州TOP20で2番めの伸び率)となりましたが、総収入は13%ダウンでした。2015-16シーズンは、アーセナルの売上が4億6900万ポンドでトッテナムは2億8000万ポンドでしたが、2019-20シーズンはトッテナムの4億4600万ポンドに対してアーセナルは3億8800万ポンドと完全に逆転。「保証はないとわかっていても、アーセナルとその未来を守るために取り残されたくなかった」と言い訳をしたクラブは、欧州スーパーリーグの招待状に抗うことはできなかったのでしょう。

プレミアリーグのビッグ6のなかで、近年最も経営努力が足りなかったのはアーセナルでした。マンチェスター・ユナイテッドはスポンサー開拓に注力し、リヴァプールとマンチェスター・シティは敏腕ディレクターと名将の招聘によってプレミアリーグ&チャンピオンズリーグの上位に君臨。ユースを強化したチェルシーは、大勢の若手を国内外に貸し出すウェストロンドン人材派遣サービスを展開し、トッテナムは選手の売買とCLファイナル進出で高い収益を得ています。

これに対して、グーナーのシーズンチケットという「お布施」に頼っていたガナーズは、選手の売却もコマーシャル収入の改善もうまくいかず。CL出場権を逃しては補強資金が目減りし、さらに不振に陥る悪循環にはまっていました。今回の欧州スーパーリーグ騒動における失態は、これぞ「貧すれば鈍する」。プレミアリーグで最も高額なチケットを買ってくれるサポーターを大事にするべきだったクラブが、事もあろうにトップクライアントを激怒させてしまいました。

マンチェスター・ユナイテッドは、エド・ウッドワードCEOの年内辞任を発表しています。この件は欧州スーパーリーグとは無関係ですが、結果的には問題を収束させて新たな改革に着手する節目になりそうです。アーセナルのスタン・クリエンケにも、けじめが必要でしょう。売上の大幅ダウンと欧州スーパーリーグにおけるジャッジミスは、グローバル企業なら株主に社長交代を要求されるレベルの失政だと思います。


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