偏愛的プレミアリーグ見聞録

彼は、この日を待ち焦がれていたのかもしれません。半ば強引にアーセナルを退団したのは、2018年1月。プレミアリーグとチャンピオンズリーグのトロフィーを獲得するべく、マンチェスター・ユナイテッドを選んだアレクシス・サンチェスは、自らのフォームを忘れてしまったかのような長く苦しい季節を過ごしました。

ジョゼ・モウリーニョの戦術とチームの雰囲気になじめず、孤立してしまった1年半は、公式戦45試合でたったの5ゴール。インテルでセリエAとコッパ・イタリアを制したものの、3シーズンでリーグ戦の先発が28試合の選手を主力とはいえません。公式戦トータル109試合20ゴールは、25発をゲットしたアーセナルの初年度を下回っています。

インテルとの契約を解除し、オリンピック・マルセイユと単年契約を交わしたアレクシス・サンチェスは、33歳になっていました。リーグアンで復活を遂げたのは、新任だったイゴール・トゥドール監督の信頼を得られたからではないでしょうか。最前線に定着した2022-23シーズンは、公式戦44試合18ゴール、リーグアンで35試合14ゴールという素晴らしいスタッツを残しています。

マルセイユから新たな契約を提示されていたベテランストライカーは、チームメイトだったミケル・アルテタに直接電話したそうです。「アーセナルに戻りたい」と。彼はもっと早く、この思いを伝えかったのではないでしょうか。インテルの三番手ではいえなかったけれど、マルセイユのエースとしてゴールを量産した今なら…。

公式戦166試合80ゴール、プレミアリーグ122試合60ゴール。彼にとってアーセナルは、最も長く在籍し、最高の時を過ごしたクラブです。2022年10月31日、マルセイユの本拠地スタッド・ヴェロドロームにトッテナムを迎えるチャンピオンズリーグの前日に、ガナーズへの思いを熱く語っています。

「アーセナルには大きな愛情があり、素晴らしい思い出がある。スパーズを倒したときは、いつもスペシャルだった。あの頃の思い出はいつも心に留め、大切にしている」

電話を受けたアルテタ監督は、率直に答えたそうです。「タイトルにチャレンジするために、若い選手が好ましいと考えている。君はクラブのプランにフィットしない」。アーセン・ヴェンゲルなら、違う答えが返ってきたのでしょうか。今いえるのは、アーセナルにはマルティネッリ、ジェズス、トロサールがいるということだけです。

2012年の夏に同じ決断をしたロビン・ファン・ペルシは、サー・アレックスの最後のシーズンにプレミアリーグを制覇し、ファネルバフチェ、フェイエノールトでもゴールを決め続けてスパイクを脱いでいます。

マンチェスター・ユナイテッドやインテルで結果を出していれば、エミレーツを忘れることができたのか。どんなキャリアを積んだとしても、ノースロンドンに戻りたいという思いは膨らんでいたのか。彼の心情に思いを巡らせながらも、現在進行形でプレミアリーグを楽しむファンのひとりとしては、そっけないひとことしか思い浮かびません。

「アレクシス・サンチェスは素晴らしい選手だった。しかし、今のアーセナルには必要ない」