偏愛的プレミアリーグ見聞録

「今季のアーセナルは、エキサイティングではなくなった」。こう語るのは、「テレグラフ」のサム・ディーン記者です。このひとことを見るやいなや、すぐに反論しようとしたグーナーもいるかもしれませんが、ちょっと待ってください。記事の見出しは、「しかしタイトル獲得の可能性は高まっている」と続きます。

プレミアリーグ史上最長の248日を首位で過ごしながら2位に終わったシーズンと、今季の12試合を比較したレポートは、ガナーズのゴールが減った理由と改善したポイントを指摘しています。2022-23シーズンは10勝1分1敗で、30ゴール11失点。今季は8勝3分1敗と4ポイントダウンで、ゴールは4つ減って26、失点はリヴァプールと並ぶリーグ最少の10に抑えています。

あらためてスタッツを見ると、記者がいう通り、得点力はトップクラスとはいえません。シュート174本とオンターゲット64本はいずれも7位。オープンプレーからの10発は10位で、ゴール期待値（xG）12.3はブレントフォード、エヴァートン、ウルヴスを下回る12位です。一方、ポゼッションは59.7%から61%に上がり、試合あたりのパス本数も459本から499本に増えています。

シュートとゴールに関する数字の減少について、レポートは2つの理由を挙げています。ひとつは、「最高のストライカーであり、カオス の創造主であるガブリエル・ジェズスが、負傷でシーズンの大半を欠場している」。もうひとつは、「相手が対策を講じている」。昨季はサプライズだったチームは、優勝候補として怖れられるようになったというわけです。

「多くのチームが、低いブロックで守るようになった」というアルテタ監督の言葉は、ファイナルサードにおけるパス本数と、10本以上パスがつながった回数の増加が裏付けています。ボールは譲ってもらえるが、シュートコースは空けてもらえない…オープンプレーから62ゴールでリーグTOPだったチームが、ブレントフォードより下の10位に留まっている理由です。

「彼らは昨季より楽しくなくなってしまった」と嘆くサム・ディーン記者は、守備については激賞しています。「被シュート数も許した決定機も、ボックス内で触られた回数も減っている。昨季は1試合あたりで約7回、自陣ゴールから40メートル以内でボールを失っていたが、ハイ・ターンオーバーの数字は5回に減っている」。キーマンはもちろん、サリバとデクラン・ライスです。

昨季のアーセナルは、クラブレコードの88ゴールと43失点でシーズンを終えています。過去20年のプレミアリーグを制覇したチームの平均を取ると、85ゴール29失点。攻撃は合格点で、守備は足りないという状態でした。今季はこのままいくと、82ゴール32失点。守備の強度をキープし、ジェズスやマルティネッリが量産体制に入れば、歴代の優勝チームの数字に届きます。

ただしこの数字には、ちょっとしたツッコミどころがありまして…。2022-23シーズンでサリバがいた27試合は、62ゴール25失点。負傷欠場したラスト11試合は26ゴール18失点です。それぞれ38試合にすると、サリバのチームは87ゴール35失点で、不在なら90ゴール62失点。プレミアリーグ屈指のCBがフル出場を果たせば、優勝した可能性が高いということが数字からもわかります。

話を戻しましょう。「タイトル獲得の可能性は高まっている」という記者は、その根拠となるスタッツをもうひとつ挙げています。リーグTOPのセットピースから8ゴール。残り26試合で、既に昨季の15発の過半に達しており、引いた相手に対する強力な武器になります。インヴィンシブルズ以来、最も平均身長が高いチームは、CKのクオリティが高いトロサールを大事にすべきです。

ティンバー、デクラン・ライス、ラヤと守備力強化の補強を進めたアルテタ監督とエドゥSDは、目論見通りのゴールに近づいているようです。サリバがフル出場なら、ペップと互角に渡り合えるのではないでしょうか。彼をベンチに置くことが多いフランス代表のデシャン監督には、ジブラルタル戦とギリシャ戦は消化試合ですので、いつも通りでとお願いしておきましょう。