2026.05.26 アーセナルの話題
アルテタとペップは、弱者のローブロックにどう対応したのか?2025-26シーズン総括①
「プレミアリーグ史上最悪のチャンピオン」とバッサリ切り捨てたのは、ポール・スコールズ。1997-98シーズンの2冠のメンバーだったエマニュエル・プティさえも、「ときどき退屈」とこぼしています。ミケル・アルテタのチームは守備が強固なのであって、決して守備的ではないのですが、「攻撃的なペップのライバル」というヒール役にはめられてしまったのでしょうか。
今季のアーセナルが批判されるもうひとつの理由は、セットピースからのゴールが多く、CKがダーティーというイメージが広がってしまったからです。3月に0-1で敗れたブライトンのファビアン・ヒュルツェラー監督は、「アーセナルがやっていたのはフットボールではない」と声を荒げ、ピーター・シュマイケルは「ずっとGKを封じてきた。醜い」と非難しています。
「セットピースFC」と揶揄する声が増えてから、「CKやFKからのゴールの何がアカンの?」とモヤモヤしていました。それをいわれると、ブルーノ・フェルナンデスとカゼミーロで決めまくってきたわれわれも、もらい事故を避けられなくなります。「ダークアーツ」「ラグビーみたい」という攻撃には、「よく見てみましょう」というしかありません。
アーセナルのセットピースの強化を語るうえで、2025-26シーズンを総括したほうがいいと考えていたところに、優勝が決まった後のこの言葉を聞いてスイッチが入りました。「イングランドで優勝するのは簡単なことではないが、彼らは素晴らしい仕事をした。ゴールの40%はセットピースからだ。フットボールは変化し、進化してきた」。いじってきたのはアルネ・スロットです。
「アンタがいっちゃダメでしょ!」とツッコミを入れたくなるコメントですが、冷静に反論しましょう。それをいっていいのは、オープンプレーからのゴールでアーセナルを上回るマンチェスター勢だけでしょう。ペップ・グアルディオラは51ゴール、アモリムとキャリックは38ゴール。リヴァプールは、3位のアーセナルよりひとつ少ない35ゴールです。
セットピースからのゴール数を見ても、ガナーズの23ゴール、マン・ユナイテッドとスパーズの19ゴールに続いて、レッズは18ゴールをゲットしています。ショボスライのFKが4つ入っていますが、ファン・ダイクのヘッダーに救われた試合もあったでしょう。プレスルームで嘆く試合が多かったレッズの指揮官は、「ローブロック」という自らの口ぐせを忘れたのでしょうか。
そうです。プレミアリーグ2025-26シーズンでビッグ6が苦戦を強いられたのは、ゴール前に人数を揃えてコンパクトな陣形を敷く「ローブロック」が浸透したからです。クリスタル・パレス、サンダーランド、ブレントフォードなど、ビッグ6を苦しめたチームの多くが採用しており、2年前と今シーズンを比べると、上位のクラブがいかに苦戦したかがよくわかります。
96ゴールのマン・シティと91ゴールのアーセナルのデッドヒートとなった2023-24シーズンは、ビッグ6が1ゴール以下に終わったゲームが少ないシーズンでした。マン・シティは10試合、アーセナルは12試合、リヴァプールは11試合、チェルシーは14試合。ポステコグルーがロケットスタートを決めたスパーズも、11試合しかありません。
マン・ユナイテッドが20試合と多かったのは、テン・ハフの戦術がはまらないシーズンだったからです。対して今季はアーセナルが17試合、マン・シティは15試合、マン・ユナイテッドは16試合。リヴァプールはシーズンの半分が1ゴール以下で、ラスト8試合で5ゴールしか決められなかったチェルシーは21試合で、残留争いのスパーズに至っては24試合が苦しい展開でした。
つまりライバルも、以前より退屈だったのです。ゴール前をバスで埋め尽くす相手をどう崩すのか。ペップの対策は、この3つでしょう。「ハーランド、ドク、セメンヨ、シェルキら個人力で勝負できるタレントを揃える」「意図的に相手を自陣に呼び込み、カウンターを仕掛ける」「前線からのプレスでパスコースを切り、シンプルなアタックを繰り出す」。いずれも合理的な考え方です。
これに対してアルテタは、「ゴールを決めるのが難しくなるなら、徹底的に守備を強化する」「セットピースを磨く」を選択しました。彼らの前線からのプレスは、ショートカウンターを狙うクロップの囲い込みとは異なり、最終ラインが対応しなければならないシーンを減らすためです。セットピーズは秀逸で、「ゴール前で相手を妨害」というイメージは現実とは異なります。
CKからの19発を見てみると、ショートコーナーから3発で、ガナーズの選手が競っていないオウンゴールが3発。ズビメンディの2発は、クリアからのボレーと二次攻撃でした。厳しくチェックしたとしても、ファールの可能性を問えるのは、サリバがGKの進路にいたニューカッスル戦のガブリエウのゴールと、バウンディルがサリバに押された開幕戦ぐらいでしょう。
アーセナルがCKで密集を作るのは、「同じエリアに複数の選手がいるとボールのズレに対応しやすい」「自分たちが集まると相手も寄ってくるので、クリアミスを誘発しやすい」「一気に集まると、別なエリアが空きやすい」からです。デクラン・ライス、ブカヨ・サカ、ノニ・マドゥエケのキックの精度と、守備のミスを抜きにして批判するのはアンフェアです。
ローブロックといえば、アーセナルはこんな記録もあります。相手チームがボックス内に9人以上を揃えている状況で、112本のシュートと12ゴールはいずれもリーグNo.1。ローブロックに対して真摯に向き合ったのは、ペップ、アルテタと、ダイレクトアタックとセットピースを重視したキャリックで、厳しい展開を強固な守備で乗り切ったチームが勝ったシーズンでした。
サカ、ギョケレス、トロサールが揃って先発したのはわずか14試合で、ウーデゴーアが45試合以上プレイしたのは12試合。昨シーズンに続き、負傷者が多かったシーズンを頂点で終えたミケル・アルテタとスタッフ、選手たちにあらためて拍手を送りたいと思います。彼らの戦い方を絶賛し続けたウェイン・ルーニーとともに。
「セットピースはフットボールの一部だ。なぜ活用しないのか?相手はボックス内に選手を詰め込んできてるけど、うまく対処できる知恵や選手を欠いているなら、アーセナルが続けるのは当然だろう。もし私がミケル・アルテタなら、もっとやってるだろう。これはゲームの一部だ。大好きだね。何も変える必要はない」
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