イングランドのプレミアリーグ(ときどきチャンピオンズリーグ)専門ブログ。マンチェスター・ユナイテッド、アーセナル、リヴァプールetc.

偏愛的プレミアリーグ見聞録

マンチェスター・ユナイテッドファンですが、アーセナル、チェルシー、トッテナム、リヴァプール、エヴァートンなどなど何でも見てしまう雑食系プレミアリーグファンです。プレミアリーグ観戦記、スタジアム、チーム情報からロンドンやリヴァプールのカルチャーまで、幅広く紹介しています。

ヴェンゲル監督は、どこで間違えたのか…アーセナルの停滞への軌跡を辿る。

3バックにシフトして7勝1敗でフィニッシュした昨季プレミアリーグの終盤戦を、ポジティブに捉えてはいけなかったのでしょう。最終的にはプレミアリーグ5位に終わったアーセナルは、ELにまわったことを失敗と受け止めて、監督を代えるかスカッドを大きく変えるか、何らかの策を講じるべきだったのだと思います。ラカゼットとコラシナツを獲得する一方で、3バックで重要な役割をこなしていたチェンバレン、CBの一角をまかせたかったガブリエウを放出し、ギブスも売るというトランスファーマーケットでの動きは常勝チームの微調整のようです。3位だったマンチェスター・シティは、39失点のシーズンに失敗というハンコをがっつり捺し、4人いたSBを全員放出して「GK+DF3人+マンガラ復帰」という思い切ったチームづくりを敢行しています。プレミアリーグ制覇を目標としてリスクをとって強化したクラブと、5位だったけれど最後は悪くなかったとして弱点を放置したクラブの差は、7か月後には30ポイントという大差となりました。

ウェンブリーで0-3、エミレーツでも0-3。ペップに対して2試合ともまったく歯が立たず、プレミアリーグのホームゲームでは選手交代ゼロと抗う姿勢まで放棄してしまったようなアーセナルについて、現地メディアはさまざまな視点で論じています。彼らが声を揃えるのは、「ヴェンゲル監督にとって、これが最後のシーズンになるのではないか」。ヨーロッパリーグを制してCL復帰を果たしたとしても、プレミアリーグで2シーズン連続5位以下となれば、その失敗は重く受け止めないといけないでしょう。エミレーツの建設費返済に伴う緊縮財政の季節を終えた後、ビッグタイトルをめざして強化を進めていたはずのアーセナルは、どこで間違えてしまったのでしょうか。時計の針を2012-13シーズンまで戻して、いま一度、その足跡を辿ってみたいと思います。

ファン・ペルシのマンチェスター・ユナイテッド移籍という衝撃はあったものの、オリヴィエ・ジルー、サンティ・カソルラ、ナチョ・モンレアルというその後のキーマンを迎え入れたのが2012-13シーズンでした。ジルーがプレミアリーグにフィットするのに時間がかかり、15節まで5勝6分4敗と完全に出遅れたアーセナルは、2月から怒涛の追い込みを見せて4位フィニッシュ。メスト・エジルとフラミニを加えた翌シーズンは、忘れもしない「ラムジー大ブレイク」があった年でしたが、前半戦8ゴールのMFが年末に負傷リタイアしたのは激痛でした。24節まで首位だったチームは、SASのリヴァプールに5-1で大敗した後、エジルが戦列から離れて完全に失速。2季続けて4位に終わったクラブは、シーズンオフに近年最大の補強を敢行します。

2014年の夏、アレクシス・サンチェス、オスピナ、ドビュッシー、チャンバース、ウェルベックが入団。1月にはガブリエウ・パウリスタまで獲得したこのシーズンは、2勝5分1敗というスロースタートが祟って3位に終わりましたが、25節以降を10勝3分1敗で飛ばしたチームに次の年の戴冠を夢見たグーナーは多かったのではないでしょうか。私は、2015-16シーズンこそが2010年以降のアーセナルにおける最大のターニングポイントだったと思っています。モウリーニョ監督のチェルシーが崩れ、マンチェスター勢が停滞したこのシーズンを、アーセナルは勝たなければいけませんでした。夏にチェフしか獲得しなかったことが話題となったのは、いわば熟成完了のサイン。22節まで首位にいたアーセナルは、チェルシーに敗れて首位に明け渡したものの、レスターとの直接対決を逆転で制したときは優勝を狙えるポジションにいました。しかし…。

アーセナルの直近2年の失速を呼んだ最大のポイントは、「サンティ・カソルラの後継者を育てられなかったこと」だと思います。マラガからやってきたウインガーが、セントラルMFにポジションを移してチームの心臓となってから初めて長期間リタイアしたのが2015-16シーズンでした。前年はプレミアリーグ37試合出場という記録を残していたカソルラが、同じようなシーズンを過ごしていれば、レスターの独走を許さず得意の追い込みでまくっていたかもしれません。ヴェンゲル監督は何もしなかったわけではなく、1月にエルネニーを獲得していたのですが、彼で埋めるにはその穴は大きすぎました。

ここでプレミアリーグを制していれば、翌シーズンのアレクシス・サンチェスの焦燥とストレスはあれほど溜らず、いいメンタルコンディションでCLを戦えた…すなわちバイエルン戦の1-5連発のようなことは起こらなかったのではないかと想像します。アーセナルは2位に終わり、2012年から4年がかりで創り上げていったチームはピークを過ぎてしまいました。アレクシス・サンチェスのセロトップで快調に飛ばした2016-17シーズンも、カソルラは最初の7試合でシーズンを終え、アーセナルは15節まで首位に立ちながらも後半戦の長いスランプで4位以内を外してしまいました。ヴェンゲル監督がグラニト・ジャカに多くを期待しすぎたこと。エヴァートンとマンチェスター・シティに連敗した後、アレクシスを最前線に置くのをやめてジルーに戻すなど戦略・戦術にブレが生じたこと。アレクシス・サンチェスがチームから浮いてしまったことなどが、立て直しを難しくした理由だと思われます。

そして、2017-18シーズン。カソルラがいないシーズン。メルテザッカーのキャプテンシーを頼りにできなくなったチーム。ビッグマッチにはフラミニの闘争心が必要だと学ばなかった主力たち。チェルシーの3バック、マン・シティの4-3-3、リヴァプールのゲーゲン・プレッシング、トッテナムの走るサッカーがプレミアリーグを席巻。ボールを奪う位置は前にシフトし、ゴールに至るまでの手数は少なくなっています。アーセナルは、これまでの中心選手が持っていたエッセンスを失っただけでなく、「前で奪えず、WBが孤立しがちで不安定な3バック」と戦術的にも遅れをとってしまいました。

6位という現在のポジションは必然。ヴェンゲル監督の持ち物から「速く直線的なフットボール」というトレンドに抗えるものを探すなら、アンリのスピードを活かしたザ・インヴィンシブルズの4-4-2回帰というギャンブルしかないように思いますが、いかがでしょうか。それを実現するための素材は、1月に2枚調達しました。未来を指し示すことなくこのまま6位に終われば、現地メディアがいうとおり、アーセナルブランドを創り上げた功労者でも任を解かれるという結末を迎えることになると思われます。

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“ヴェンゲル監督は、どこで間違えたのか…アーセナルの停滞への軌跡を辿る。” への5件のフィードバック

  1. ルニキ より:

    管理人さんが書かれているように、最大のターニングポイントは15/16シーズンだと思います。熟成と言えば聞こえはいいですが、ツェフの他に補強が必要だったポジションがなかったとは思えません。このシーズンに限らず、アーセナルの移籍市場の動きは、補強というより補充と言った方がいいケースが多すぎると思います。

    ただ、根本的なことを言えばクラブの姿勢や雰囲気がぬるま湯すぎるのも原因でしょう。「本気で」タイトルが欲しいと移籍したファンペルシの頃から何も変わってないんだなと、サンチェスが移籍した時に感じました。

  2. プレミアリーグ大好き! より:

    ここ数年のアーセナルの動きがきれいにまとまっていて、色々な記憶がよみがえりつつ読ませていただきました。
    管理人さまの意見に概ね同意しつつも、ルニキさまのコメントにも大きく首を縦に振らざるを得ません。
    しばしば「我スカ」と揶揄されていますが、あれは結構的を得ているのだと思います。チェフだけでなく、もう二人でも即戦力を獲得していたら、レスターの独走を阻止できたでしょうし、長期的に見ても自軍の戦力を微妙に過大評価しているように感じてなりません。

  3. ジルオ より:

    少し長文になります。
    管理人さんが書かれている意見はおおむね賛同できます。個人的には14/15シーズンがターニングポイントだったと思います。フラミニ、エジルの加入で久々のタイトルを獲得し、大型の補強をしました。補強ポイントを見据えた内容かと思われましたが、しかし、その時に補強した選手で今現在で真に戦力となっていません。(サンチェスは移籍しましたし)あの前後のシーズンで噂となった選手や獲得間際までいた選手で思い出されるのは、スアレスやグリーズマンといった一流のFWやガビの怪我で破談になったサウールなどがいますが、あの時補強が上手くいっていれば個人的に強く思います。もちろん次の15/16シーズンも大きなチャンスでしたが、チームは力強さを見せられませんでした。その後の低迷についてカソルラの後継者がいなかったことは強く同意します。カソルラだけでなくロシツキー、フラミニ、アルテタといった選手の後継がいないのは残念です。願わくばもう一度強く美しいアーセナルの復活がみたいところです。

    —–
    カソルラがいるといないで別のチームになるのは確かに。レスター戦に勝った時は、この勢いのままで優勝だと思ったものですが。

    あの後から、コンテ・ペップの到来、クロップ・ポチェッティーノの浸透と監督レベルも上がったような印象を持ちます。

    若手を使うことで成長させたベンゲル監督。もう、使うだけで成長する時代は終わり、チームとしての戦い・約束を徹底して戦術していくチームとの差が広がっているように思います。

    未来のブッフォンを育てるといっていたチームが、チェフを買い、シュチェスニーを出したのも、今となってみるとポリシーを曲げての失敗かと。確かに、この時に優勝できていれば違った道だったのでしょう。

    そして、シュチェスニー放出は、その後に、イタリアで成長したと言っている話があり、アーセナルの戦術・育成方法がもはやディスアドバンテージでしかないと認めざるを得ないのが悲しいところ。

    近年のアーセナルは、以前よりも、加入後に評価を高めた選手は、主観では減ったと思います。

    —–
    お疲れ様です。
    僕は、留学していた頃よりずっとアーセナルファンです。 そもそもアーセナルが好きになった理由はパスサッカー。 そして、それを上手くつないでいく選手たちがとてもかっこよかった。 ここ数年、前半戦は一位の時も何度かあり、草なぎ剛がでていたドラマでも、今年はアーセナルが調子いいな、、といわれていたほどでした。
    しかし、やはりカソルラの影響は大きすぎて、ジャックは戻ったものの、 ジャカに頼りきりの中盤はボロボロで、試合を見る度に、守備陣が相手プレッシャーに押しつぶされ、上手くボールをさばけないとこがあります。

    去年はチェンバレンという爆弾がはまり、右サイドはウキウキ出来ました。 そして、チームも最後に勝てました。 その男も移籍して、その先で最近はいい活躍をして、シティを倒してます。 さんちぇすも移籍。 やはり、泥船のような感じがしてしまいます。  立て直すにはジャカの放出、守備陣を強める事しかないのでは?
    監督がもし、続行ならば、守備陣を固めるということを最後に試すのもいいと思います。
    あれだけ面白いサッカーを作り上げた監督。オーナーのような監督は、攻めばかりではなくて、強かった頃のクリーンシートが続くバックを持たないと終わりでしょう。

  4. makoto より:

    ルニキさん>
    トランスファーマーケットで勝負に出たシーズンが極めて少ないのは、いいところまでいっても勝てない理由のひとつだったと思います。

    プレミアリーグ大好き!さん>
    そうですね。ブリティッシュコアは、特に。

    未来は僕等の手の中さん>
    2014-15の夏は、プレミアリーグの経験がある選手で見どころあるのを集めようというコンセプトは感じられたので、結果的には難しかったものの、トライしたことは評価できます。翌年のチェフのみは厳しかったですね…。

    だしまるさん>
    私もそれが気になっています。トッテナムやレッズは、獲ったときよりも評価を上げている選手が多いですよね。

    ジルオさん>
    アンカーとCBには、ワールドクラスを連れてこないと厳しいですね。ジャカは放出するのではなく、実力が上のセントラルMFと競争させるのがいいのではないかと思います。ポテンシャルは決して低くはないのではないでしょうか。

  5. プレミアリーグ大好き! より:

    15ー16シーズンのアーセナルはカソルラ離脱以降もプレミアでホームでシティに勝ち、年末までは好調でした。1月以降ジルーがプレミア15試合連続無得点で勝ち点を落とし、優勝を逃しました。
    ジルーは前シーズン14ー15、UCL モナコ戦1stlegで6回のチャンスを全て外し、負けました。この試合以降、アーセナルはワールドクラスのCFの獲得が絶対に必要と言われました。が、翌15ー16シーズンはツェフ1人だけの補強で終わりに。結局、ヴェンゲルとフロントがタイトルより節約を優先したのが優勝を逃した原因に。
    今でも悔やまれます。

    そしてカソルラ長期離脱以降、カソルラの後釜の補強はなく、エジルがビルドアップをしてます。昨シーズンまではエジルが下がるのは良くないと言われましたが、今シーズン、秋にドイツ代表でエジルは新たなオプションとして3列目で起用され、その後、エジルのビルドアップ能力が上がりました。
    特に最近のエバートン戦で後方から味方を上手く使い、複数得点に関わる。アウェーのスパーズ戦の後半の終盤やブライトン戦の前半の終盤に、エジルがビルドアップを開始してからチャンス増加と得点がありました。
    今のアーセナルはジャカやウィルシャーよりエジルの方がビルドアップ能力があります。アーセナルの困難な状況が元々トップ下のエジルのプレーの幅を拡げました。前線、後方でもエジルの能力が発揮されればチームの大きな力になる。残念なのはカンテを獲得しなかった事。カンテがいればエジルは常時3列目でも大丈夫。DMF必要なアーセナル。でも獲得したのはジャカでした。ヴェンゲル、スカウトのミスです。

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