偏愛的プレミアリーグ見聞録

ヨーロッパリーグ予選3回戦に、プレミアリーグの2チームが登場しました。セント・メアリーズにフィテッセを迎えたのは、今季初の公式戦となるサウサンプトン。そしてアップトンパークでは、予選1回戦から苦戦を続けて何とか競り勝ってきたウェストハムが、ルーマニアのアストラと対戦します。セインツには吉田麻也、アストラの瀬戸貴幸と、両方のピッチに日本人選手がひとりずつスタメンで登場しています。セインツは36分にマネの見事なスルーパスに抜け出したグラツィアーノ・ペッレが先制ゴール。前半終了間際には、サイドから2人抜きを成功させたマネが倒され、PKをタディッチが沈めて2点め。ビリッチ新監督のウェストハムは、23分にエネル・バレンシアのヘッド、後半開始5分にはサラテが追加点を決め、2-0。残り20分までは、プレミアリーグの2チームは、2点差のままクリーンシートで試合を畳んで大きなアドバンテージを手に入れられる流れのなかにいました。

ところが、時を同じくした70分過ぎ、ホームチームの優位を脅かす出来事が、2つのピッチで起こります。ウェストハム暗転の予兆は、55分、59分と立て続けにカードをもらったコリンズの退場でした。1人少なくなって10分が過ぎたこの時間に、彼らはフェルナンド・ボルドリンにアウェイゴールを決められてしまいます。一方のサウサンプトンは、パンティッチに右から突破を許してしまい、GKと1対1となる大ピンチ。しかしこちらは、フォースターの負傷を受けてこの夏呼ばれたステケレンブルクがビッグセーブ！このゲームのターニングポイントは、まさにここだったと思います。セインツが2-1とされていれば、15分ほど早くタイムアップとなったウェストハムが辿った悪夢を、彼らもトレースしていたかもしれません。

アップトンパークは2-１、セント・メアリーズは2-0。それぞれの未来を大きく動かす「もう1点」は、ロンドンではアウェイのアストラに入り、クーマン監督のサウサンプトンは見事なカウンターからダメ押しの3点めを決めました。スタジアムがため息に包まれた新戦力オグボンナのオウンゴール。ホームで2-2という厳しい結果に終わったウェストハムは、ルーマニアで勝たなければプレミアリーグの開幕前に欧州戦線を終えることになります。85分のセインツは、こちらも新戦力が勝負に絡みました。最前線で相手のパスミスを拾ったシェーン・ロングのドリブルは、焦ったのか長くなり過ぎてGKがブロック。このこぼれ球を拾ってGKをかわし、右に流れて完璧な浮き球を上げたのは、62分にクラーシに代わって入っていたフェンミでした。GKと絡んだ後、すかさずゴール前に走り込んでいたシェーン・ロングは、ヘッドに当てるだけ。セインツ、3-0快勝！攻撃に決め手を欠くフィテッセは、堅守セインツ相手にセカンドレグでは2点すら奪えないでしょう。

ヨーロッパリーグ初出場となった吉田麻也は、抑えるべきエリアから突破を許すシーンはあったものの、落ち着いてプレイできていたと思います。いちばんよかったのは、相手の攻撃をカットした直後のフィードです。麻也からのボールが的確に中盤につながることで、セインツは守勢にまわる時間を相当圧縮できたのではないでしょうか。オランダでの次戦も先発でしょう。コーカー合流後の激しいポジション争いを制したい吉田麻也の奮闘に期待しましょう。

それにしても、クーマン監督は見事ですね。相次ぐビッグクラブからのオファーで主力を抜かれ、空いてしまったポジションを7月の早いタイミングで埋めきったのは、この試合に勝つためでしょう。昨季プレミアリーグでクラブを7位に導き、欧州へのチケットを獲得した指揮官は、この夏最初の重要なミッションをクリアしました。セインツの守備は、相変わらずワニャマが効いており、昨季の強度をしっかりキープ。攻撃ではマネのドリブルとラストパスが素晴らしく、タディッチともども脅威です。プレミアリーグのトップクラブは、今季もセインツにサイドで苦労させられそうです。

最後に、私が選んだ今夜のサウサンプトンのMVPを発表させてください。間違いなく、サポーターです。心が揺さぶられる熱い応援でした。彼らのヨーロッパに賭ける思いと、クラブへの愛が伝わってきます。サウサンプトンの選手とサポーターのみなさんには、ヨーロッパリーグ本大会出場を勝ち取っていただき、プレミアリーグのクラブの強さを、さまざまな形で欧州にアピールしてもらえればと思います。素晴らしい！