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偏愛的プレミアリーグ見聞録

マンチェスター・ユナイテッドファンですが、アーセナル、チェルシー、トッテナム、リヴァプール、エヴァートンなどなど何でも見てしまう雑食系プレミアリーグファンです。プレミアリーグ観戦記、スタジアム、チーム情報からロンドンやリヴァプールのカルチャーまで、幅広く紹介しています。

「欧州激闘レポート(2) キーワードは「サイド」「カウンター」「セットプレー」~CL&EL雑感

「欧州激闘レポート(1) なかなか勝てないプレミアリーグ勢に足りないこと~CL&EL雑感」より続きます。ここ数年、欧州で勝てなくなっているプレミアリーグ勢ですが、バイエルン・ミュンヘンとセビージャという難敵を下したアーセナルとマンチェスター・シティのサッカーのなかに、これからの巻き返しにつながるエッセンスがあったように思います。とりわけ印象的だったのが、優勝候補に2-0と完勝したアーセナルのカウンターサッカーでした。

本題に入る前に、ひとつだけ前置きをしたいのですが、「プレミアリーグ流ポゼッションサッカーではベスト8にすら入れない」というのが、近年のチャンピオンズリーグにおける事実なのだと思っています。マンチェスター・シティとアーセナルはバルセロナやバイエルンに2試合トータルで勝てず、最近5シーズンでベスト4以上に食い込んだのは、速攻型だったサー・アレックス・ファーガソンのマンチェスター・ユナイテッドと専守防衛で優勝したディ・マッテオのチェルシー、そして2013-14シーズンに堅い守備陣を構築して戦ったモウリーニョ監督だけです。

いわゆるポゼッションサッカーは、シャビとイニエスタという稀有な才能が同居したスペイン代表と、さらにメッシまで加わって一世を風靡したバルセロナだけがクオリティの高い形を実現できたのであり、一貫性のある育成システムとコンセプチュアルなフォーメーション・戦術、それを体現できる選手の獲得と、すべてがかみ合わないとリスクが高い戦略なのだと思います。プレミアリーグ勢に足りないのは、中央を崩す連携、ボールを失った直後に囲い込んで奪う戦術、このシステムに適合するセントラルMFとCBの獲得あるいは育成あたりでしょうか。メルテザッカーやデミチェリスで高いラインを敷いて無事に過ごすのは、国内のクラブ相手ならいいかもしれませんが、クリスティアーノ・ロナウド、レヴァンドフスキ、メッシ、ネイマール、スアレスらが相手となると俄然難易度が上がります。

バイエルンと当たったヴェンゲル監督は、引いてスペースをつぶしつつカウンターで勝負する戦術を採用しました。トマス・ミュラーに自由を与えず、シャビ・アロンソからのパスの出しどころをケアしてドイツ王者の攻撃を封じると、セットプレーを活かして先制。最終的にはサイドでの駆け引きに勝利し、カウンターからダメ押しゴールを決めて勝利を手繰り寄せました。この試合には、「サイドで裏を取られない」「相手の嫌なことをやる」「攻撃に変化をもたらす」「的確なカウンター」といった勝てないチームが学ぶべき要素がふんだんに盛り込まれていたと思います。

先にゴールを奪われなかったのは、感動的なチェフのセービングのおかげだったのは確かですが、それはひとます置いておきましょう。最前線をハーフラインまで下げてライン間を緊密にし、コクラン、カソルラがスペースを消しながら前線へのパスに素早く詰め、奪ったら長く速いパスでウォルコットを走らせるサッカーは、ポゼッション30%台ながら決定機の数で劣っていませんでした。脅威だったのはレヴァンドフスキの瞬発力とドゥグラス・コスタの突破力でしたが、前者はコシールニーがしつこくチェックし、後者はグアルディオラ監督が後半になってベジェリンのサイドからモンレアルとのマッチアップに移したため、冴えを失いベジェリンの逆襲を呼び込むことになりました。

グアルディオラ監督にとっては、ウォルコットとCBが駆けっこを強いられ、うるさいアレクシス・サンチェスに走り回られる展開は嫌だったでしょう。ドゥグラス・コスタを右にまわした理由が、モンレアルのほうがスピード面で与しやすいと考えたのか、アレクシスを守備に戻らせたかったのかはわかりませんが、名将はことごとく展開を読み違えました。相手を嫌だと思っていたのは、守り通しだったアーセナルよりもバイエルンのほうだったのではないかと思います。

そしてもうひとつ、大きかったのは、攻撃に変化をもたらしてくれるエジルの存在です。左サイドを上がったときのエジルは、ひとつの試合で同じラストパスを2回出すことはないのではないかと思うくらい、ボールの質が多彩です。「ヘッドで中に落としてね」と要求するようなふわっとしたファーへのクロス、触れば絶対1点の高速クロス、ニアに走ったストライカーの裏で打たせようとするグラウンダー。相手からすれば、守りにくいことこのうえなしです。

終盤にハイクロス一辺倒になりやすいマンチェスター・ユナイテッドや、どうしても1点がほしいときに単調になりがちなリヴァプールにも、変化をもたらすことができるコウチーニョやマタという選手がいます。中、外いずれにも偏らないようにさまざまな仕掛けをかまし、ボールの質をコントロールして対応を難しくさせるエジルのようなプレイを意識づければ、引いた相手を攻略できるゲームが増えるのではないかと思いました。カウンター・ポゼッションの両方をうまく操れて、パスが多彩なMFという観点では、エジル、デブライネ、ダヴィド・シルヴァ(おや、同じところに2人もいますね)がプレミアリーグのTOP3ではないでしょうか。

そのデブライネをFW起用してセビージャとの激戦を勝ちきったマンチェスター・シティは、サイド攻撃のクオリティが高い相手に対して、左でやられていたサニャを右に移してコラロフの攻撃力でサイドを制圧するという采配が当たりました。コンディションが悪そうだったヤヤ・トゥレがここぞというところで驚異的なドリブルを2発かました、個人力が光るゴールシーンではありましたが、サイドを抑えきったことと、デブライネをゴールに近い位置で機能させて素晴らしいカウンターを実らせたことがポイントだったと思います。決勝ゴールは、ヤヤ・トゥレとデブライネがひとつ判断を間違えたら決まらないぐらいの状況でしたが、プレイ選択、キックのタイミング、質、すべてが完璧でした。

カウンターやサイドでの攻防に加え、「互いのいいとこつぶし」の応酬となりやすい舞台で重要なのは、セットプレーです。ノイアーのミスがあったとはいえ、アーセナルはカソルラのFKで風穴を開け、リヴァプールはコウチーニョのFKで窮地を脱しました。CKのマークがずれて先に点をやり、途中出場の選手にトリッピアーのサイドの裏を一発で取られて決められたトッテナムは、マンチェスター・シティやアーセナルの真逆の結末となってしまいました。試合後、自軍の出来に激怒していたポチェッティーノ監督は、「欧州で絶対やってはいけないこと」をわかっているのだと思います。次戦ホームのアンデルレヒト戦では修正していただき、直接のライバルとなる彼らとの対戦成績で上回るクリーンシートの完勝をおさめれば、グループステージ突破にリーチがかかります。

長くなりましたが、最後にひとつだけ。バイエルンの攻撃を見ていてなるほどと思ったのは、シャビ・アロンソが前線に通す高速の縦パスの効果です。このボールには2つ、いいことがあります。ひとつは、通ればセントラルMFを無力化でき、寄せられる前にストライカーとCBの1対1の勝負に持ち込めること。もうひとつは、縦に長いボールなので奪われてもカウンターを喰らいにくいことです。プレミアリーグで、前線への縦パスの名手といえばキャリックです。私が、「マンチェスター・ユナイテッドはマルシアルがトップ、ルーニーがその下という形がいい」といっているのは、前線にキープ力があるポイントが2つあれば、キャリックとシュヴァインシュタイガーというセンスあるセントラルMFからのボールを入れやすく、クロス一辺倒にならずに攻められるからです。

「セットプレーの攻守のクオリティ」「カウンターの切れ味」「サイド制圧」…昨秋のチェルシーは、これらをすべて持ち合わせたプレミアリーグ最強のチームであり、モウリーニョ監督と選手たちが自信を取り戻せば、欧州にいちばん近い存在であることは変わらないと思っています。さらに、アーセナルとマンチェスター・シティが、モウリーニョ監督のお株を奪うようなカウンターサッカーを意図的に仕掛けられるようになれば、欧州のベスト4までなら充分狙えて、「あわよくば」も見えてくるのではないでしょうか。そしてまた、クロップ監督の狙いも、さほど遠くないところにあるような気がします。苦戦続きのプレミアリーグ勢ですが、欧州で勝つための光も見えてきたというのは、楽観的に過ぎるでしょうか。次戦、今回勝った2チームに加えて、「次に勝てば突破が見えてくる」チームの素晴らしい結果も期待しています。

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“「欧州激闘レポート(2) キーワードは「サイド」「カウンター」「セットプレー」~CL&EL雑感” への2件のフィードバック

  1. 実はグーナー より:

    全くその通りだと思います
    特に中央での崩しですね
    そこをもっとうまく使わないと守備も進化しないですしね
    プレミアのCBやボランチが前や左右に食いつき軽い守備をしがちなのは中央への意識が低いからでしょう
    リトリートしても中央を空けちゃ何もないならですからね
    まずはそこのレベルを上げていってほしいです

  2. makoto より:

    実はグーナーさん>
    おっしゃるとおり、ロングボールやハイクロスで攻められることに慣れると、中央を締めることの大事さが忘れられがちになりますね。中を崩しにいく姿勢があると、ときどき外からいったときに効果が上がる、という面もあると思います。

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