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偏愛的プレミアリーグ見聞録

マンチェスター・ユナイテッドファンですが、アーセナル、チェルシー、トッテナム、リヴァプール、エヴァートンなどなど何でも見てしまう雑食系プレミアリーグファンです。プレミアリーグ観戦記、スタジアム、チーム情報からロンドンやリヴァプールのカルチャーまで、幅広く紹介しています。

幸運、トラブル、珍記録…事件だらけのコヴェントリーVSマンチェスター・ユナイテッドを振り返る。

PK戦に臨むマンチェスター・ユナイテッドは、異様な雰囲気でした。醒めた面持ちで最初にスポットに立ったカゼミーロは、失敗しても全く表情を変えずにセンターサークルへ。ダロトとエリクセンも、小さくガッツポーズをしただけで、険しい顔で戻っていきます。4人めのブルーノ・フェルナンデスはうつむき加減で、悲しそうにボールを見つめ、右隅に収めました。

去り際にうなずいたキャプテンは、GKコリンズに何かを語りかけ、敗者のような背中で仲間の元へ歩いていきました。気合いが入っていたのはオナナだけで、勝利が決まった瞬間、歓喜していたのはホイルンドだけです。スタンドに駆け寄って吠えたストライカーの元に足を運んだのは、エリクセンひとり。マグワイアは敗れた対戦相手をねぎらい、握手を求めています。

ファイナル進出を決めた勝者は、自らが失敗者であると認識していたのでしょう。FAカップ準決勝、コヴァントリーVSマンチェスター・ユナイテッド。プレミアリーグのクラブは、残り20分まで0-3でリードしながら、チャンピオンシップ8位のチームに追いつかれてしまい、30分の延長戦で崖っぷちをさまよいました

116分のシムズのシュートはクロスバーに助けられ、120分のトープのスライディングシュートはVARがオフサイドを取ってくれました。あれほど意気消沈した集団が、よくぞPK戦を制したものだと感服します。あらためて振り返ると、この2チームの対戦は、フットボールのトーナメントで稀に起こることが凝縮された奇妙なバトルでした。

そもそもコヴェントリーとマンチェスター・ユナイテッドは、「幸運かつ劇的なセミファイナリスト」です。コヴェントリーの足跡を辿ると、3回戦はリーグ1(3部相当)のオックスフォードに6-2の圧勝で、4回戦はチャンピオンシップで残留争いを続けるシェフィールド・ユナイテッド。アウェイを1-1で終えた後、リプレイを4-1で勝って次のラウンドに駒を進めています。

5回戦はナショナルリーグ・サウス(6部相当)のメイドストーンに5-0で勝ち、ベスト8進出。クジ運のよさなら、マンチェスター・ユナイテッドも負けていません。3回戦はリーグ1のウィガンに0-3、4回戦はリーグ2(4部相当)のニューポートに0-2から追いつかれた後、2-4でフィニッシュ。コヴェントリー戦をおもしろくする予行演習のような勝利です。

5回戦のノッティンガム・フォレストは、プレミアリーグの降格候補ですが、0-0からカゼミーロがゲットした決勝ゴールは89分でした。相手に恵まれながら、のらりくらりと勝ってきたチームにフットボールの女神が喝を入れようとしたのか、次の相手は格上のリヴァプールです。コヴェントリーも、プレミアリーグのウルヴス。ベスト8は、両者ともにドラマティックな一戦でした。

敵地モリニューに乗り込んだコヴェントリーは、残り10分まで0-1でリードしていたのですが、終盤の2発で逆転されてしまいました。終わりかと思いきや、97分にシムズ、100分にハジ・ライトが決めて劇的な再逆転。マン・ユナイテッドも、1-2から87分にアントニーのゴールで追いつき、再度リードされた延長戦も、後半のラシュフォードとアマド・ディアロでひっくり返しました。

下部リーグ相手に圧勝連発のコヴェントリーは、大会最多ゴール。幸運なチーム同士が激突したウェンブリーの一戦は、マン・ユナイテッドにとっては、とてつもなくバッドタイミングでした。直前にメイソン・マウント、カンブワラ、アムラバトが負傷し、欠場は総勢10人。シニアのCBがマグワイアのみで、センターにまわせるフルバックもいない非常事態は前代未聞です。

0-3からラスト20分で3-3というジェットコースターのような展開も、そうそうあるものではありません。絶妙すぎるディフレクションと不可避なハンドで2失点に絡んだワン=ビサカは「Not his day」。追加タイムが終わる1分前にPKを決められ、延長後半が終わる40秒前のゴールがVARで取り消されるドラマティックは、シナリオ作家や漫画家なら、あざとすぎて敬遠するでしょう。

そしてもうひとつ、「オナナがイエロー2枚」も稀有な事件です。85分に1枚もらっていた守護神は、PK戦に入ってからレフェリーのロバート・ジョーンズさんに抗議して2枚めをもらいました。レッドカードにならなかったのは、「試合中のイエローカードはペナルティに持ち越されない」というルールがあるからで、先日のECLのエミ・マルティネスもこれで助かっています。

アクロバティックなイベントだらけだった一戦によって、テン・ハフ監督と選手たちに非難の声が集まっているようですが、「CBがひとりというアクシデントは、フツーは起こりえない」「10番が冴えなかったのは、負傷していたから」といったあたりは、考慮してあげたいと思います。嘲笑は甘んじて受けましょう。見返す方法は明確です。次のウェンブリーで…!


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