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偏愛的プレミアリーグ見聞録

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リヴァプール紀行 (3)マシュー・ストリートとリヴァプール最後の夜 

香川の復帰に興奮し、マンチェスター・ユナイテッドの勝利の余韻に浸りながら、すっかり夜の景色になったマンチェスター・ピカデリー駅からライムストリートに戻ります。リヴァプール最後の夜、ビートルズを生んだこの街のまだ見ぬ活気を感じたい。クリスマスセールの季節、街が買い物客でごった返しているロンドンからやってきたということもあるでしょうし、港町、労働者でにぎわっている街、というイメージに期待していたところもあるかもしれません。静けさは、もはや息苦しさになっていました。もう、あそこしかない。希望はひとつです。その夜、「マシュー・ストリート」に足を運んだのでした。

ライム・ストリート駅からとにかく繁華街の匂いがするほうへ7~8分ほど歩くと、その細い通りにたどり着きます。マシュー・ストリートには、若き日のビートルズが300回近くも演奏したという伝説のキャバーン・クラブがあります。実際にライヴをしたお店は、1973年に取り壊されたのですが、1999年に移転・復活。今のクラブがオープンしたとき、ポール・マッカートニーが駆けつけ、歌ったそうです。


Mathew Street Festival 2011 Liverpool

通りに少し入るだけで、「ここだ」とすぐわかります。それまで歩いてきた道とは明らかに異質な、猥雑な匂いがします。ここはまさに、ビートルズマニアの聖地。ビートルズショップがあり、キャバーン・クラブのすぐ向かいにはキャバーン・パブ。そして、ビートルズが楽屋代わりに利用したといわれるパブ・グレープスやパブ・ホワイト・スターなど、この界隈にはビートルズの軌跡と4人の足跡がたっぷり残されています。ショーをやっているようなクラブもあり、この寒さのなか、肩の出たドレスを着て大声ではしゃぎながら歩いている女性もいます。人通りは多いとはいえず、5分も歩かないうちに終わりを迎えてしまうくらいの「The short and winding road」です。真っ白なキャンバスに、紫色の絵の具で小さく点を打ったような、静かな街のちょっとしたアクセントでしかないのかもしれませんが、しかし濃密ではあります。

そういえば、空腹だったことに気がつきました。どこか、お店に入ろうか。キャバーン・クラブの中をのぞいたり、パブのメニューを眺めたりしたものの、相当パワーがないと入れないような気がして、躊躇します。もしかしたら、ここを愉しむには疲れすぎているかもしれない。緑のピッチに赤いユニフォームが舞い踊った、夕刻のあの興奮が頭の中をちらつきます。いいじゃないか、ここに来られたんだから。今日はおとなしく、どこかで軽く食事をして、帰ろう。

ホテルのすぐ裏手、St Johns shopping centre近くの「Bella Italia」というロンドンにもあるイタリアンチェーンでパスタを食べ、ビールを飲みます。ビールはエールではなく、モレッティです。10年前の自分なら、きっとキャバーン・クラブで地元のエールを大いに呷って、ライヴを楽しんでいただろうな、と先ほどの光景に後ろ髪をひかれるような気分を断ち切るように。この「食事するならパブに行きなさいよ」といわれているような街で、イタリアンチェーンはバントだよな。バット振ってないよな…。いやいや、いいじゃないか。マンチェスター・ユナイテッドの快勝に歓喜したのだから。香川の復活を目の前で観たのだから。そんなことをつらつら想いながら、モレッティをお代わりします。ホテルに戻ったら、「マッチ・オブ・ザ・デイ」でも観て寝ようか。

店を出ると、やはり街は静かです。遠くからささやかに、ストリート・ミュージシャンが歌う声が聞こえてきます。頭のなかではAcross The Universeがリフレインしています。いい街じゃないか、リヴァプール。何しろ、ビートルズの街なんだから。ほろ酔いで、鷹揚になっているだけかもしれませんが、この街に何を期待して、だからいいとか悪いとか、そういうことはどうでもよくなっていました。Nothing’s gonna change my world…よかった。マシュー・ストリート。ビートルズ。そしてリヴァプールの夜。

翌日は、グディソン・パーク。そしてロンドンに戻ります。もう一度、来てみたい。そのときもまた、マシュー・ストリートへ。

(4)体の芯まで温まるパブのアイリッシュ・シチュー に続く

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