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ロジャース前監督が語った「移籍委員会という難しいシステム」は、クロップ体制で変わるのか?

プレミアリーグで3勝3分2敗という数字だけなら解任にまでは至らなかったのかもしれませんが、10月になる前に、経営陣は既にユルゲン・クロップを見ていたのかもしれません。10月7日に行われたエヴァートンとのマージ―サイドダービーをドローで終えたブレンダン・ロジャースは、リヴァプール監督を解任されました。それから3ヵ月が過ぎた今、ロジャースさんは「リヴァプールの指揮官時代には、ほしい選手を得られなかった」と、移籍委員会が介在するクラブの難しさを率直に語っています。イギリスメディア「テレグラフ」が、「Liverpool transfer committee’s lack of transparency revealed by former Anfield manager Brendan Rodgers(アンフィールドのマネージャー・ブレンダン・ロジャースによって明らかにされたリヴァプール移籍委員会の透明度の欠如)」など複数の記事で、前監督の回想を紹介しています。

リヴァプールには、他クラブにはない移籍委員会なる組織があり、オーナー企業であるフェンウェイ・スポーツ・グループ社長のマイク・ゴードン氏、イアン・エアーCEO、スカウト3人、監督といった顔ぶれの合議で獲得する選手を決めています。オーナーの鶴の一声で獲得する選手が決まるクラブや、スポーツディレクターがわがもの顔で編成を牛耳っているクラブと比べると、やり方自体は一長一短、どちらにもよさはあるでしょう。しかし、ルイス・スアレスを擁してプレミアリーグ2位に上り詰めた後の顛末を振り返れば、レッズの移籍委員会がいい形で機能していたとはいえません。ブレンダン・ロジャースは、こう語っています。

「クラブの獲得選手決定のモデルは他のクラブとは異なっていた。ほしかった選手は獲得リストに入らず、そうではない選手を獲得しなければいけなかった。私が左SBがほしいといっても、来なかった。”移籍委員会というグループにとっていい選手”を連れてこなければならなかった」

その具体的な事例を紹介しているのが、同じテレグラフに掲載された「Brendan Rodgers reveals how Liverpool missed out on deals for Dele Alli and Alexis Sanchez(ブレンダン・ロジャースは、アレクシス・サンチェスとデル・アリを獲り逃した経緯を語った)」という記事です。2014-15シーズン直前、クラブをプレミアリーグ制覇寸前まで獲れていってくれたルイス・スアレスがスペインに去ると、ロジャース監督が白羽の矢を立てたのは、アレクシス・サンチェスでした。

「彼を獲れていれば、ルイス・スアレスからの理想的なスイッチが可能だったと思う。プレス、アグレッシブなプレイスタイル、クオリティ。われわれにとって完璧だった。 スアレスを売る代わりにサンチェスを迎えられれば、チームはスムーズに移行できただろう」

しかし、アレクシス・サンチェスがアーセナルを選んだために新SAS(スタリッジ・アンド・サンチェス)結成プランは実現せず、リヴァプールの最前線は、セインツから獲得したリッキー・リー・ランバートだけになってしまいます。もちろんこの陣容ではプレミアリーグとチャンピオンズリーグを並行して戦うことはできず、秋になる直前、移籍委員会が獲得を決めたのはマリオ・バロテッリでした。こちらは「ロイター」が伝えているのですが、ロジャース前監督曰く、バロテッリは「私の手で成長させられると見做された」「移籍委員会が、5000万ポンドの価値があるのに1600万ポンドで獲得できるリーズナブルな選手だと考えた」選手だったそうです。鳴り物入りのイタリア代表ストライカーは、蓋を開けてみればプレミアリーグで1ゴールしか挙げられず、クラブは2年連続のチャンピオンズリーグ出場権獲得には届きませんでした。

さらにロジャース監督は、トッテナムのデル・アリもまた、取り損なった選手のひとりだと語っています。ミルトン・キーンズ・ドンズで頭角を現していた19歳MFは、子どもの頃からリヴァプールファンで移籍に乗り気だったにも関わらず、移籍委員会の承認を得ることができずにトッテナムに持っていかれたとのこと。かくして、プレミアリーグ準優勝監督は自分が思い描く布陣を実現させることができず、栄冠の一歩手前に迫ったシーズンから2年もしないうちにその座を追われることになった、というお話です。うーん。

私がこれらの記事を読んでまず思ったのは、移籍委員会という枠組み自体の問題というより(=合議制という手法はありでしょう)、委員会のメンバリングと、現場をよく知る人間に権限が与えられていない意志決定プロセスに問題があるということです。「オーナー会社の社長&CEO対監督」という2対1になりやすい構図で、かつ監督には何の権限もなければ、船が進む方向は定まらないでしょう。監督とスカウトが作成したリストに対してCEOが承認するという方法で、かつ監督に不要な選手に対する拒否権があれば、より健全な編成が実現するのではないかと思います。クロップ監督の就任で運用が見直されるという話もあるようなので、次の夏には監督の意向に沿った補強がなされればと思います。

そしてもうひとつは、「ロジャース監督にも読みの甘さがあったのではないか」。ブラジルワールドカップ直後の状況を思い出せば、移籍委員会がアレクシス・サンチェスでいこうと決めたとしても、スアレス移籍決定よりも早い2014年7月10日に入団発表に漕ぎ付けたアーセナルには勝てなかったのではないかと思われます。だとすれば、重要なのはその後のリカバリー、次善手としての補強戦略です。

実際にそうだったように「スアレス資金」で複数の選手を獲るのがよかったのか、大物ストライカーに特化した補強を仕掛けるのがよかったのか。ロジャース監督が、「スアレス中心のチームを作った」「彼は特別な存在だった」というなら、大物ストライカーを複数リストアップして、CL出場権をアピールしながら早期に決めることが最優先で、後釜としてのバロテッリを獲った8月25日というタイミングは遅かったと思います。前年、ガレス・ベイルを売ったお金で複数の選手を買ったトッテナムを引き合いに出し、「われわれには長期的な戦略があるので同じようにはならない」と胸を張っていた当時のロジャース監督にも、「自分の腕で若手を成長させれば、プレミアリーグを勝てるはず」という過信があったようにも思いました。実は移籍委員会が大物ストライカー獲得にNGを出しており、ロジャース監督は悩みながらも精一杯強がっただけなのかもしれませんが…。

とはいえ、いずれももはや昔話。好きだったロジャース監督がプレミアリーグにいないのは残念ですが、来季以降のクロップ監督には、それを覆って余りある期待感があります。この1年半は、いろいろありましたが、補強も失敗ばかりでもなく、エムレ・ジャン、ミルナー、アルベルト・モレノ、ナサニエル・クライン、ララナ、オリギは悪くないと思います。巻き返しはこれから、最初の勝負は2016-17シーズンです。リヴァプールが、いい意志決定プロセスの元に、夏の補強を的確に進められることを祈ります。クロップ監督らしい、新しいチームを。(デル・アリ 写真著作者/joshjdss)

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“ロジャース前監督が語った「移籍委員会という難しいシステム」は、クロップ体制で変わるのか?” への3件のフィードバック

  1. nyonsuke より:

    更新ご苦労さまです。

    おっしゃるとおり、移籍委員会はその組織ではなくメンバーとその方針が間違っていると思います。
    現場であるチームの中心は監督なのですから、監督中心に移籍リストは作成されるべきです。
    ロジャース時代はおそらく監督の意見はほとんど受け入れられず、経営優先だったのでしょう。
    クロップ監督は移籍の最終決定権は自分にあるとコメントされていますが、委員会が解散したという情報はないのでまだあるのでしょう。
    FSGはロジャース時代の方針の間違いを認めて、クロップ監督を中心とした補強を進めてほしいです。
    ですが、若手の育成を中心としたFSGの経営も間違ってはいないと思いますので、委員会を健全な状態に成長させることができれば、オーナー主導や強力なSDのやり方に一石を投じることができると思います。
    しかし、ロジャースさんは恨み節をいうのでなく、古巣やクロップ監督にエールを送るかのようにコメントされて、とても好感がもてますね。
    次にどこのチームにいっても応援したいと思う監督です。

  2. K より:

    ロジャース体制の1番の問題はエース選手の心のマネジメント、モチベート力で育った選手を留める能力が足りなかった事だけが不満です。戦力を上手くやりくりして下位チームを叩くのは上手でしたし、戦力があれば強いサッカーしてましたし。

    スアレスで50ゴール、スターリングで10ゴール失い、右ウィングとして必要なはずのスタリッジも消えると…ジェラード抜けて以降セットプレーが全く期待できないので来年も40ゴール前後の恐れが…

    とにかく前線の選手同士の相性が悪い所が致命的な所はロジャース以前からの問題で多分FSGの問題でしょう。ゲッツェ、レヴァを引き止められなかったクロップですからロジャースから改善されるか分かりませんが、クロップの直感を信じて相性考えて補強して貰いたいです。

    私個人はケントとロヴレンに期待してます。スピードもあり足元の技術が上手いケントには連携面が改善されれば近い未来にレギュラーも期待出来ます。左足の精度が致命的でミスを連発していたロヴレンは右CBに入ったら別人だったので、カバー力があって左足を苦にしない選手と組めば攻守に渡って大きな改善を期待できると思ってます。サコのカバー力にもシュクルテルの左足にも期待出来ないので、ここはGKの次に欲しいポジションです。バトランドとマルキーニョスが個人的には欲しいです。
    カンよりアレンの方が安定感あって今は上手いと思いますが、DFの展開力がロヴレン以外全くないのでカンを使わざるをえない状況ですから、カンにはこの経験とチャンスを活かして欲しいです。怪我がなければゴメスとイングスにも大きな未来を感じさせられましたし、一時期よりも個々の補強は悪くない印象です。ただただ相性が悪すぎます。ベンテケとフィルミーノ取ってマルコヴィッチ放出したスカッドからは戦うフォーメーションが全く想像出来ず、ゲームで50パターンくらい考えたんですが、いまだ答えが分かりません。誰か教えて欲しいです

  3. makoto より:

    nyonsukeさん>
    ロジャースさんは、ブレずに毅然とした態度で仕事をできる監督、という印象でした。中堅を強くする仕事に取り組んでいただければおもしろいのではないかと期待しています。

    Kさん>
    相性問題は、戦術でクリアできる部分も多々あるのではないかと思うのですが、どうなんでしょうね。アーセナルやマン・シティも、一見相性が悪そうな組み合わせが多いですし…。アレクシスとエジルは、当初は微妙でしたが今はかなり合ってきています。クロップさんの手綱さばきをウォッチしようと思ってます。

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