偏愛的プレミアリーグ見聞録

「クラブは、できるだけ早く発表したがっていた。われわれがコーチングスタッフとともにやっていること、チームの方向性について、大きな信頼と信念があることは明らかだった。そしてベストなタイミングは今ということになった。チームに最後のひと押しをしたかったんだ。この夏、あるいは将来、何をしなければならないかを明確にするために発表した」（アーセナル公式サイト「Arteta – This is where I want to be」より）

アーセナルが、ミケル・アルテタ監督との契約を延長するとアナウンスしました。新契約は、2025年6月まで。プレミアリーグのTOP4フィニッシュを実現するために、最も大事な4試合が残っている今、プロジェクトが続くという発表によって求心力を高めたかったようです。

就任は、2019年12月。ペップ・グアルディオラの下でアシスタントコーチを務めていたクラブOBは、エメリ解任後の混乱を収束するべく、ノースロンドンに招聘されました。年が明けると、コロナウイルスによるパンデミックが発生。2020年3月に感染したアルテタ監督は、プレミアリーグの中断決定のトリガーとなりました。

プレミアリーグで指揮を執った経験ゼロの若きマネージャーは、リーグこそウルヴスの後塵を拝する8位でしたが、マンチェスター・シティとチェルシーを撃破してFAカップ制覇。カオスに陥っていたチームに、ヨーロッパリーグ出場権をもたらしました。翌シーズンも8位と停滞したのに、解任される気配がなかったのは、ジョシュ・クロエンケの信頼と初年度のトロフィーがあったからではないでしょうか。

ウィリアン、エジル、ムスタフィ、グエンドゥジ、ウィリアム・サリバ、ダヴィド・ルイス…期待していた選手たちが、スランプやトラブルによって力を発揮できず、トーマス・パーティーやマルティネッリの長期離脱も苦戦の原因となりました。この苦い経験が、次の夏の補強コンセプトに色濃く反映されたのでしょう。

ベン・ホワイト、アーロン・ラムズデール、冨安健洋、サンビ・ロコンガ、マルティン・ウーデゴーア、ヌーノ・タヴァレス。リーダーシップや向上心がある若手に特化した補強は、3年めの躍進の原動力となりました。ブカヨ・サカとスミス・ロウは、両者ともにプレミアリーグで2ケタゴールとブレイク。信頼できる相棒を得たガブリエウは、最終ラインになくてはならない存在になっています。

トップフォームを取り戻すのに時間がかかったマルティネッリも、左サイドに定着。夏に移籍が噂されていたジャカは、頼れる兄貴として攻守のサスペンションの役割を果たしています。トーマス・パーティーを失った今、穴を埋めたエルネニーの残留も、「素晴らしい内野安打」と評価していいのではないでしょうか。

「ここは私の居場所。とてもシンプルな決断だった」。CL出場権獲得を目前にした指揮官は、未来に関する迷いはなかったといいます。プレミアリーグのTOP4という今季最大の目標を達成したら、前線と中盤にワールドクラスをめざせるヤングスターが加わるはずです。3年後、成長を遂げた選手たちと指揮官は、リヴァプールとマン・シティをどれほどの距離感で捉えているのでしょうか。

「困難な時間は、いずれ素晴らしい思い出になり、成功した瞬間は…オッケー、到達しなければならない最終的な目標につながっていく。この仕事は、常に準備し続けなくてはならない。すべてがまっすぐ、上向きに進んでいくわけではないからね」