偏愛的プレミアリーグ見聞録

ユルゲン・クロップ監督が動いたのは、残り20分を切ってからでした。72分にブラッドリーをクラークにスイッチすると、87分には3枚をチェンジ。ガクポ、ロバートソン、マック・アリスターをダンズ、マコーネル、ツィミカスという策は、勝利に向かうプランではなく、チームの限界を示しているように見えました。

ウェンブリーのカラバオカップ決勝は、90分を終えて0-0。ポチェッティーノ監督は3枚のカードを残しています。レッズの陣容を見ると、19歳のクラークは今季プレミアリーグで途中出場が4回、同い年のマコーネルは3回。18歳のジェイデン・ダンズは、ファーストチームでのプレイは2試合めです。フロントスリーの主力はルイス・ディアスのみ。明らかに緊急配備です。

ムドリクとノニ・マドゥエケを使えるチェルシーのほうが有利と見た人は、少なくなかったでしょう。しかし延長戦に入ってから、優位に立ったのはリヴァプールでした。30分のスタッツを見ると、シュート数は5対7、オンターゲットは3対5。ファイナルサードとミドルサードで8回のポゼッション獲得があったレッズに対して、ブルーズは1回しかありませんでした。

チェルシーの敗因のひとつは、チームの完成度でしょう。経験値が低いレッズのティーンエイジャーたちは、クロップ流のハイプレスとトランジションを徹底しており、ポジショニングに迷いはありませんでした。対してポチェッティーノのチームは、コール・パルマー、エンクンク、ノニ・マドゥエケらの個力への依存度が高く、ムドリクは30分でパス成功2本と空回りしました。

プレミアリーグで10位と苦しい展開を強いられているチェルシーですが、ビッグ6との直接対決ではポテンシャルの高さを示しています。開幕のリヴァプール戦は1-1、9節のアーセナル戦は2点先行してドロー。マンチェスター・シティとは4-4、1-1と互角に渡り合っています。しかし、勝てない…。トータル1勝4分2敗で、唯一の勝利は9人になったトッテナムを1-4で撃破した一戦です。

もしかしたらカラバオカップの延長戦は、高額の移籍金で加わった選手たちにプレッシャーがかかっていたのかもしれません。ユース上がりの若手だらけの相手に勝っても当たり前とされ、負けたら何をいわれるかは容易に想像できます。今の彼らに必要なのは、成功体験と自信なのではないかと思われます。

カラバオカップで敗れたため、来季の欧州へのチケット獲得は、プレミアリーグとFAカップの戦績次第となりました。ELやECLの出場権を得られなければ、指揮官の立場が危うくなると報じられていますが、「テレグラフ」のマット・ロー記者は、「監督解任は、トッド・ベーリーとベハダ・エグバリにプロジェクトが存在しないと証明するだけ」と主張しています。

トゥヘルを解任した後、グレアム・ポッターとフランク・ランパードも切ったクラブがポチェッティーノまで放り出したら、ビッグクラブの椅子を狙う監督たちからリスキーな仕事と評価されるでしょう。オーナー交代以来、新戦力獲得に10億ポンド以上を注ぎ込んできたクラブは、PSR違反を回避するために1億ポンド以上の調達が必要とささやかれています。

ニューカッスルに貸し出したルイス・ホールは買い取り義務があり、2800万ポンド。ドルトムントにローン移籍し、レギュラーに定着したマートセンは、3500万ポンドの買い取りオプションが発動する可能性が高いと見られています。さらにルカクを6月末までに手離せば、3人合わせて1億ポンドに到達し、PSRが設定している3年間の赤字の上限を超えずにすみそうです。

チャンピオンズリーグとヨーロッパリーグを2年連続で逃せば、夏に補強する際に現有戦力の売却が必要となる見通しです。赤字を抑えるなら、獲得時の移籍金の減価償却がないユース出身を売ったほうがベターですが、コナー・ギャラガー、リース・ジェームズ、トレヴォ・チャロバーらを手離すという選択肢はあるのでしょうか。

彼らを売っても、3度めの夏は堅実な補強しかできないのではないでしょうか。であればなおさら、ポチェッティーノ監督を信頼してチームの完成度を高めるべきでしょう。カイセド、エンソ・フェルナンデス、ムドリク、エンクンクらが持てる力を発揮できるようになれば、欧州で戦う権利を手に入れられるはずです。指揮官も経営ボードも、今こそが踏ん張りどころです。