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偏愛的プレミアリーグ見聞録

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インタビューと現地記事から考察!「コンテ監督は、なぜ短期間でチームを変えられたのか?」【前篇】

「The Weekend Interview」。こんな企画を待っていました!チェルシーの公式サイトが、アントニオ・コンテ監督のロングインタビューを2回にわたって掲載しています。プレミアリーグファンにとって、チェルシーの指揮官こそが「今、話を聞いてみたい監督ランキング」の第1位なのではないでしょうか。モウリーニョ監督が試行錯誤を続け、ペップ・グアルディオラでさえも基本コンセプトの浸透に時間をかけていたなかで、フォーメーションを2度3度と変えながら、プレミアリーグ開幕から2ヵ月もかけずに最適な答えを出してしまったマジシャンが何を考えているのか…。「チェルシーに来てから初めてとなるまとまった休暇」に行われた一問一答から、イタリア人監督のチーム作りのエッセンスを抽出してみましょう。

「この4ヵ月、私は選手たちとハードワークをこなしてきたけど、楽しいね。新しいクラブ、そして新しい国とリーグを知るのは簡単なことではない。ましてやこちらからは、新しい哲学やメソッドを持ち込まなければならないのだから。でも、私はここまでの4ヵ月については満足している。選手たちは、素晴らしい姿勢を示してくれた。試合やトレーニングにおいても効果的な仕事ぶりを見せてくれている」

コンテ監督が語る「working very hard」という言葉には実感がこもっています。プレミアリーグ開幕から3連勝と最高のスタートを切ったものの、それが真の強さではなかったことをマンチェスター・ユナイテッドと同じタイミングで露呈。4節のスウォンジー戦はドローに終わり、リヴァプールに競り負け、アーセナルには3-0の完敗を喫しました。一部のタブロイド紙は、お約束の解任報道にシフト。このときには、名将が既に答えを出していたことには誰も気がついていませんでした。現在の3-4-3を初めて試した「アーセナル戦の最後の25分」で、コンテ監督は手ごたえを感じていたそうです。

「当初の私のアイデアは4-2-4だったが、その後4-3-3に切り替え、昨シーズンまでの4-2-3-1でもプレイした。ところが、これらの形では適切なバランスを得られないことに気づいたんだ。相手にチャンスを与え、失点も増えていた。だから3-4-3にスイッチしたんだ。チームにはこのシステムにぴったりのストライカーがいるから、見事にフィットした」
「攻守ともよくなったね。攻撃時にボールを失わなくなった。より多くのチャンスを創れるようになり、ゴールも増え、クリーンシートを続けている。これが正解だ」

コンテ監督が語る「3トップに適したプレイヤー」は、アザールとペドロを指しているのではないかと思われます。昨季は沈黙したベルギー代表FWは、プレミアリーグ11試合7ゴールと完全復活。ペドロのストップ・アンド・ゴーには迷いが感じられません。「バーリを率いていたときに4-2-4を採用し、セリエBで下から3番めだったチームを2年めにトップリーグに昇格させた」と語る指揮官は、早い時期から2つのフォーメーションをイメージしていたと語っています。

「プレシーズンというのは、チームのコンセプトを構築し、その原則に基づいてプレイするシステムを開発する時期だ。私はずっと、このチームは3-4-3で戦えると思っていた。選手の特徴を理解し、クラブに伝えてシーズンのプランを練るなかで、このシステムは4-2-4の次の策だった」

指揮官の言葉からわかるのは、数字で示されるフォーメーションはあくまでも手法であり、その源流に「できるだけ前でボールを奪い、素早く前線に送ってゴールを決める。そのためには前に多くの選手が必要」という揺るぎないコンセプトがあることです。明快かつ良質なコンセプトが選手にしっかり浸透していれば、クイックにやり方を変えることは可能だと証明したのが、プレミアリーグ5連勝、得点16失点ゼロという圧倒的な強さでした。

監督には、自らのスタイルに選手をあてはめるタイプと、選手の特性に合ったフォーメーションを選ぶタイプがいますが、この指揮官は間違いなく後者です。ヴィクター・モーゼス、マルコス・アロンソをウイングバックに抜擢し、プレミアリーグファンをうならせたのは、4ヵ月の間にコンテ監督がほぼ完璧に彼らを理解していたからこそ実現したことなのでしょう。この監督には、それぞれの選手がビッグネームか無名かは、取るに足らないことなのだと思われます。

「マネージャーは、選手をよりよくしてあげなければならない。チームを全体的に指導するのも重要なことだけど、個々の選手の才能を引き出し、弱点を克服させ、強くしていくためにワン・トゥー・ワンで向き合わなければならない」

そして、監督本人だけでなく、アシスタントマネージャー、フィジカルコーチと選手とのコミュニケーションについても重視しており、「スタッフに裁量を与え、直接会話させることが大事」と語っています。

「チームには多くのスタッフがいるが、彼らには責任を持たせ、まかせている。選手たちと直接コミュニケーションを取るのは大事なことだ。なぜこのトレーニングをするのかと選手が知りたがったとき、きちんと説明する必要があるからね」「現在クラブには2名のフィジカルコーチがいる。代謝を見る者と、強化を担う役割だ。アシスタントコーチも2人いて、私たちのゲームを研究・分析して試合に備える仕事を兄弟のようにサポートしてくれている」「クラブをよく知るカルロ・クディチーニの存在は本当に大きい。彼が選手といい関係を作ってくれているんだ」

2000年代にゴールマウスに君臨したクディチーニさんの名前が出たとき、サー・アレックス・ファーガソンの後を継いでマンチェスター・ユナイテッドの監督に就任したモイーズさんが、クラブのスタッフを自分の息がかかったメンバーに入れ替えてしまっったために、主力選手との軋轢に悩まされたことを思い出しました。ペップ・グアルディオラ監督が、クラブを知るブライアン・キッドとプレミアリーグの経験豊富なミケル・アルテタを揃えたように、新監督の弱点となりやすい「過去からの継続性」を担保できるスタッフの存在は重要なのでしょう。

「コミュニケーションは重要だ。マネージャーだけでなく、スタッフが責任感をもつことが大事なんだ。マネージャーはボスとして、スタッフに知識やノウハウを吸収する機会を創らないといけない」

これぞ、トップに立つ人間の言葉。コンテ監督が、一介のコーチやトレーナーに留まらず、マネージャーとして優秀な人物なのがわかります。この稿、長くなりました。「インタビューと現地記事から考察!コンテ監督は、なぜ短期間でチームを変えられたのか?【後篇】」では、現地メディアが報じた「アブラモヴィッチオーナーとの重要なランチミーティング」について紹介します。(青字部分のコメントは「チェルシー公式サイト」英語版より引用。翻訳は筆者による)

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“インタビューと現地記事から考察!「コンテ監督は、なぜ短期間でチームを変えられたのか?」【前篇】” への1件のコメント

  1. makoto より:

    ファンとしては胸熱な記事をありがとうございます。
    本当にこういうリーダー、会社での上司の行動、言葉、感情で
    動かなかった、動けなかった人間を劇的に変化させますよね。
    あとは、ロフタス=チーク、チャロバー、アイナなどの若手英国産と
    ボルシアで武者修行中のクリステンセンなど、5年10年を見据えたスカッド構築へ向けて
    どこでどうやって成長を促せるかではないでしょうか。

    —–
    ワルテルFCさん>
    ベイカーやアブラハムも戻ってきて活躍してくれるといいですね。「レギュラーの過半がイングランド人で、大して移籍金を使わず欧州制覇」などというシーズンがあれば、ミラクルです。

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