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偏愛的プレミアリーグ見聞録

マンチェスター・ユナイテッドファンですが、アーセナル、チェルシー、トッテナム、リヴァプール、エヴァートンなどなど何でも見てしまう雑食系プレミアリーグファンです。プレミアリーグ観戦記、スタジアム、チーム情報からロンドンやリヴァプールのカルチャーまで、幅広く紹介しています。

史上最悪!?イングランドで指揮を執る監督は「年間70人以上が解任」「賞味期限は1年2ヵ月」…!

プレミアリーグ2016-17シーズンにおいて、開幕以降の監督交代は5クラブ6人。グイドリン監督解任の後、ボブ・ブラッドリー招聘がうまくいかなかったスウォンジーがシーズン3人めとなるポール・クレメントを連れてきており、プレミアリーグ優勝監督のラニエリを切ったレスター、パーデューからビッグ・サムのクリスタル・パレス、マルコ・シウヴァに託したハル・シティ、功労者カランカを追い出したミドルズブラが、トップを変えることで苦境を乗り越えようとしています。

クラブ数ベースで2割5分という数字は、最近プレミアリーグを見始めた方にとっては、例年よりおとなしいという以上の感想はないかもしれません。しかし、「スカイスポーツ」には、こんなセンセーショナルな見出しが踊っています。「Football manager job security at all-time low(フットボールの監督の雇用保障は史上最低)」。彼らの調査によると、プレミアリーグ、チャンピオンシップ、リーグ1、リーグ2の92クラブにおいて、2015-16シーズンに「Sacked(解任)」の憂き目に遭ったのは75人。クラブを去った監督たちの平均在籍期間は、わずか423日です。2016-17シーズンの数字に目を移してみると、解任監督は51人、在籍477日。イギリスメディアは、「7月1日までの3ヵ月で監督交代は増える見通しで、新記録となるかもしれない」と報じています。

私は、今季からチャンピオンシップのコラムを依頼されることが増えたために、ニューカッスルやブライトン・アンド・ホーブ・アルビオン、ハダースフィールド、ダービー・カウンティなどを中心に試合を観るようになったのですが、このリーグの監督交代の多さには驚かされます。2015-16シーズンは期中に15人、今季は今のところ14人。チャンピオンズリーグ優勝監督のディ・マッテオを筆頭に、ワルテル・ゼンガ、ジミー・フロイド・ハッセルバインクといった往年の名選手や、ナイジェル・ピアソン、アレックス・ニールなどプレミアリーグ経験者が容赦なく出口の扉を示されています。3月にもノリッジやウィガンなど3つのクラブが監督を解任しており、2月から1勝3分6敗と突如勝てなくなってプレーオフ出場が遠のいたダービー・カウンティは、元イングランド代表監督のスティーブ・マクラーレンを切って、ローフェット監督を招聘しました。

以下に、「スカイスポーツ」が紹介していたグラフを引用させていただきます。赤い折れ線が各シーズンの監督解任人数、青い線が辞任監督の平均在籍日数です。第二次世界大戦後の最初の年は、監督の平均在籍期間は7年。プレミアリーグが創設された1992-93シーズンは、解任監督は現在の1/3の25人、在籍期間は3年ありました。ガリー・ネビルさんが「シーズン中の監督交代はできないというルールにしてはどうか」と提言した背景には、賞味期限が2年を切った監督の労働環境悪化があります。


24/3/17,Skysports「Football manager job security at all-time low, Sky Sports study finds」より

最近5年のプレミアリーグ優勝監督で、翌シーズンも最後まで指揮を執ったのはマヌエル・ペジェグリーニ監督のみですが、彼とて期中に翌シーズンのペップ・グアルディオラ監督就任が発表され、降板前提のラストシーズンでした。同じ5年で、プレミアリーグ昇格を果たしたチャンピオンシップの監督15人を見ると、トップリーグで2シーズンめに入れたのは、ウェストハムのサム・アラダイス、ハル・シティに4シーズン在籍したスティーブ・ブルース(ただし2年めで降格)、ボーンマスのエディ・ハウ、バーンリーを率いるショーン・ダイチェのみ。首位で上がった監督は、ショーン・ダイチェだけです。クラブをリーグ優勝に導いた功労者でさえ、その1年後は幸せとはいえないのが、現在のイングランドサッカーなのであります。

監督のクビが軽くなった理由として、選手は年に2回しか代えられないのに対して監督はいつでもオッケーというルールと、クリスタル・パレスをプレミアリーグに残したトニー・ピューリスやアラン・パーデュー、スウォンジーを変えたグイドリンなど、「残留請負人たちの成功」があるのではないかと思われます。レスターを最強クラブに仕上げてラニエリに渡したナイジェル・ピアソンなど、「代えずに成功」の事例もあるのですが、変化がなかったチームは話題になりにくいため、経営者たちは「代えたほうがうまくいく」という見方に傾くのでしょう。監督と選手がもめたチームや、監督の方針に選手がついていけなくなったチームは、頭をすげ替えれば見違えるように強くなるのも事実で、この状況に対して必ずしも悪とはいえません。ただし、「現状が続けば、世界に名を轟かせるイングランド人の名将は出て来なくなる」とはいえそうです。ネビルさんが大胆なルール変更の必要を唱えたのは、そんな問題意識もあったからではないでしょうか。

こんな時代に、20年間アーセナルを率いたヴェンゲル監督の存在は貴重です。この稿、長くなりました。「スカイスポーツ」は、イングランドのクラブにおける監督の在籍日数ランキング、クラブ別の監督人数ランキングなど、おもしろいデータをいくつかまとめてくれているのですが、そちらは次稿「短命監督が激増のイングランド…ポチェッティーノ&クーマンに長期政権を期待します!」で紹介させていただきます。

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