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偏愛的プレミアリーグ見聞録

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「野心を失った」…激動の1年を過ごしたサム・アラダイスがクリスタル・パレスの指揮官を辞任!

イングランド代表監督を就任2ヵ月で辞任することになったときには、情熱は冷めかけていたのでしょうか。クリスタル・パレスのサム・アラダイス監督が辞任を発表したのですが、「新しい仕事を引き受ける野心はない」という気になる発言がありました。パーデュー監督解任の後を受け、クリスタル・パレスにやってきたのは昨年の12月23日。10月以降の10試合で1勝しかできず、プレミアリーグ17位に沈んでいたチームの立て直しを求められたベテラン指揮官は、苦しい半年を過ごしました。

最初の2ヵ月は1勝1分6敗と結果を出せず。2月25日の「直接対決」ミドルズブラ戦に1-0で競り勝ったのを皮切りに、次の2ヵ月は別なチームに生まれ変わったかのように6勝1分1敗。プレミアリーグ首位のチェルシー相手にスタンフォード・ブリッジで逆転勝ちをおさめ、アーセナルに3-0完勝。さらにリヴァプール戦もベンテケの2発で2-1と逆転しており、クリスタル・パレス最強説まで飛び出すほどの豹変ぶりでした。ところが、トッテナムに0-1と敗れると、これを含む最後の5試合は1勝4敗と逆戻り。ハル・シティとのシックスポインターを4-0で制して降格を免れ、最終的には14位に順位を上げたものの、前シーズン率いたサンダーランド同様にきわどい残留でした。

プレミアリーグ8勝2分11敗という数字を見ると、前任者パーデューの4勝3分10敗からは明らかに改善しており、残留請負人の面目躍如といえなくはないのですが、中身を見ていくと「指揮官として成功した」とはいい難い半年でした。6勝1分1敗の快進撃の季節は、「ママドゥ・サコがいた時期」です。ファン・アーンホルト、シュルップとともに1月にやってきたリヴァプールのCBは、ミドルズブラ戦で新天地デビューを果たすと、即座に最終ラインを統率。彼が出場した8試合のうち4試合でクリーンシートを達成しており、失点は試合数より少ない7。TOP6との3試合を2失点で切り抜けています。一方、それ以外の13試合は24失点。サコが負傷リタイアしてからの5試合は上位対決ばかりではあったのですが、強豪を次々と破っていたチームの面影はありませんでした。

アラダイス監督の守備的な戦い方は、ベンテケ、ザハ、パンチュン、タウンゼント、キャバイェを擁する攻撃陣のポテンシャルを犠牲にした戦術でもありました。パーデュー時代は17試合28ゴール、ビッグ・サムは21試合22ゴール。そのうちの半分は、7ゴールのベンテケと4ゴールのザハで、彼らの個人力への依存度が高かったことは否めません。最前線の屈強なストライカーにロングボールを当ててサイドに展開するクラシックなアタック以外にアイデアはなく、前半戦に見られた中盤の押し上げとセットピースの強さを失いました。最後はハル・シティの失速に助けられた面もあり、ビッグ・サムが留任しても2季めは厳しかったかもしれません。守備はサコ頼み、攻撃はリーグ屈指のドリブラーとベルギー代表のストライカー次第。ビッグネームなしでTOP10に食い込んだボーンマスのエディ・ハウ監督や、WBAのピューリス監督と比べると、もの足りないといわざるをえません。

1999年から2007年まで8シーズンの長きに渡って指揮したボルトン時代が、ビッグ・サムの全盛期でした。プレミアリーグとディヴィジョン1(現在のチャンピオンシップ)を行ったり来たりしていたエレベータークラブをTOP10の常連に引き上げ、最高位6位でUEFAカップ出場という実績を残した手腕は素晴らしいと思います。しかしその後は、ニューカッスルで12位と振るわず1シーズンで解任の憂き目に遭い、ブラックバーンも15位と10位。ウェストハムをプレミアリーグに昇格させたのはお手柄でしたが、プレミアリーグでは中位をキープするに留まり、守備的な戦術を嫌うサポーターも少なくありませんでした。

そして近年は、まかされたチームをプレミアリーグに残留させるのが精一杯でした。「デイリー・テレグラフ」のおとり取材に引っかかり、FIFAが禁じている「第三者による選手保有」規定を裏ワザで回避するアドバイザーとして40万ポンド(当時のレートで約5800万円)を受け取ったことを咎められたのは昨年9月。長く夢見ていたイングランド代表監督の座をたった1試合で追われた後は、未来が見えなくなっていたのでしょうか。野心はないという寂しいコメントを聞くと、思うように各国代表のタレントを動かせなかったこの半年は相当しんどく、自分との戦いでもあったのかもしれません。

引退示唆と報じているメディアもありますが、ビッグ・サムは戻ってくるような気がしてなりません。ボルトン時代のような輝きを、もう一度手に入れるために。しかし今は、これ以上将来について語るのはやめておきましょう。理由はどうあれ、彼にとって激動の1年だったことは間違いありません。発言の裏にあるのは、心身を癒さないことには次について考えられないという心持ちでしょう。おつかれさまでした。来シーズンもプレミアリーグでクラブを応援できるのは、サポーターにとっては貴重なことだと思います。サム・アラダイスによって、クリスタル・パレスは残留した。そして彼は去った。今はただ、その事実を心に留めるだけにしておこうと思います。

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