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偏愛的プレミアリーグ見聞録

マンチェスター・ユナイテッドファンですが、アーセナル、チェルシー、トッテナム、リヴァプール、エヴァートンなどなど何でも見てしまう雑食系プレミアリーグファンです。プレミアリーグ観戦記、スタジアム、チーム情報からロンドンやリヴァプールのカルチャーまで、幅広く紹介しています。

目的は悪玉の征伐!?マンチェスター・ユナイテッドのサポータートラストの公開レターに異議あり!

「多くのファンは、抗議する権利を行使して平和的に意見を表明しようとしていたのですが、一部のファンはチームの準備や試合そのものの妨害を目的としていました。ロウリーホテルやスタジアムでの活動が、それを証明しています。主要メディアやSNSが流した『抗議する人々はクラブスタッフが開けたゲートを通ってスタジアムやピッチに入ることができた』というレポートは、完全な誤りです。

一部の抗議者は正面のエリアのバリアとセキュリティを突破し、ミュンヘントンネルの端にあるゲートを登ると、スタンドのサイドドアを開け、さらに外部のドアを開けてコンコースとピッチに侵入したのです。2つめの違反は、抗議する者が障害者用エレベーターのドアを壊してスタンドに入れるようにしたことです。

大多数のファンは、現在もこれからも、クラブスタッフ、警官、他のファンへの暴力と犯罪となるダメージを与える行為を非難し続けます。これらは、警察沙汰になっています。クラブは、平和な抗議者の処罰を望みません。しかし、犯罪行為に関与した者は警察と協力したうえで特定し、シーズンチケットホルダーや会員については公表されているポリシーに基づいて独自の制裁を科す予定です」(2021年5月3日、マンチェスター・ユナイテッド公式サイト「CLUB STATEMENT ABOUT FAN PROTEST AT OLD TRAFFORD」より)

プレミアリーグ34節のマンチェスター・ユナイテッドVSリヴァプールは、リーグ創設以来初めて心ないアタックによって中止・延期に追い込まれました。ボトルやバリアを警官に投げつけ、12人の負傷者を出した一部サポーターの暴挙に対して、クラブは厳しい姿勢で対処すると明言しています。

一方で、マンチェスター・ユナイテッド・サポーターズトラストは、「オールド・トラフォードで起きたことが恒例になるのを誰も望んではいない」「われわれはフットボールファンであり、チームをサポートしたい」と前置きしつつ、「この16年の集大成」とオーナーファミリーを非難。「暴力は容認しない」「ファンが合法的に抗議する権利を支持する」としたうえで、公開レターというスタイルで5つの要求を突き付けています。

「政府が推進するファン主導のフットボールという改善策に積極的かつオープンに取り組み、現在のオーナーシップ構造をサポーターが好むものに変えていくこと」
「株主ではなく、フットボールクラブとしての利益を守ることを唯一の目的とする独立ディレクターを、直ちに経営ボードの一員として任命すること」
「マンチェスター・ユナイテッド・サポーターズトラストやサポーターたちと協力して、誰もがアクセスできる株式スキームを導入し、グレイザー・ファミリーが保有する株式と同じ議決権を持たせること」
「ファンが要求した際には、グレイザー・ファミリーの持ち株が過半数を割ったり完全に買い取られたるすることを歓迎し、反対しないこと」
「われわれがプレイするコンペティションをはじめ、クラブの将来に対するいかなる重要な変更についても、シーズンチケットホルダーとの充分な協議にフルコミットすること」

いや、これは…。16年前、グレイザー一族がマンチェスター・ユナイテッドの資産を担保として資金調達するレバレッジバイアウトを仕掛け、無借金経営だったクラブに5億ポンドを超える高利子ローンを背負わせたときに激怒した者として、彼らの気持ちはわかります。「20億ポンド以上も負債の返済に費やした」という批判は事実です。しかし、その見方は一方的といわざるをえません。グレイザーを擁護するわけではなく、もうひとつの事実として「彼らのもとで、マンチェスター・ユナイテッドの収益力は飛躍的に上がった」ともいえるからです。

2005-06シーズンは3年連続の売上減少となり、今では考えられない総売上2億ポンド以下という決算で終わった年でした。グレイザーの買収が完了した翌年、売上は2億5000万ポンドに届き、2011-12シーズンには3億ポンドを突破。テレビ放映権料の高騰というプラス材料もありましたが、最も伸びたのはコマーシャル収入です。2013-14シーズンにはシボレーとの巨額な胸スポンサー契約を締結し、コマーシャルのみで1億ポンド超え。2015年の夏にはアディダスと年間7500万ポンドというサプライヤー契約を結び、グッズの収益を3倍にストレッチさせています。

コロナショックでマッチデー収入とテレビ放映権料が激減した昨季は、コマーシャル収入比率が55%まで上がりました。ジェイドン・サンチョを買うや否やと盛り上がれたのは、高額スポンサーとの長期契約と新規スポンサー開拓があったからです。2億8000万ポンドのコマーシャルフィーは、バイエルンに次ぐ世界2位。過去5年で、手元のキャッシュは2倍となっています。

クラブの成長を証明する材料を並べたのは、「グレイザーでいいじゃん」といいたいからではありません。大事なことは、現オーナーを追い出すことではなく、「彼らとウッドワード以上にマンチェスター・ユナイテッドを成長させる手腕があり、しかも愛が感じられる最高の王子様を見つけること」なのです。

サポータートラストがイメージしているのは、ブンデスリーガの「50+1」のように、パトロンではなくクラブが決定権(51%の出資比率)を有し、サポーターが意見をいいやすい体制でしょう。しかしこれは、「経営に関しては素人のメンバーが束になって口出しする体制」「旧態依然としたルールや施策でも、歴史や伝統、ノスタルジーといった非論理的な理由で変えづらい環境」となるリスクを孕んでいます。ドイツをよく知る往年の名守護神オリヴァー・カーンが、システムの限界について語った言葉を紹介しましょう。

「50+1ルールはドイツにしかない取り決めで、極めてドイツらしい。私がいいたいのは、50+1ルールによる縛りと運用は、根本的にヨーロッパやドイツの独占禁止法に抵触しているので、無効とされる可能性があるということ。そのときのために、準備をしておかなければならない」

「ドイツで50+1ルールの話題になると、ルールの保護者が善玉で敵対者は悪玉という作り話が呪いのように湧き上がる。しかし実際は、強固な伝統と出資者の関心や利益をフットボールの中で結びつけることもできるはずだ」

「マンチェスター・ユナイテッド、チェルシー、ローマ、マンチェスター・シティ、パリ・サンジェルマンといったクラブは、資本家の支援によってグローバルなフットボール企業に成長を遂げた。彼らは、投資家たちを有効な形でクラブに組み込むために、新たな権限を追加している。競争力を維持したければ、何かといえばすぐに伝統という棍棒を振りかざすのはやめたほうがいい」(2019年5月6日 オリヴァー・カーン 「Goal.com」インタビューより)

グレイザー買収時には、7億9000万ポンド(=当時のレートで約1580億円)だったマンチェスター・ユナイテッドの資産価値は、30億5000万ポンド(約4626億円)に膨れ上がっています。「ガーディアン」によると、不人気のファミリーは70億ポンド(約1兆616億円)に引き上げる長期的ヴィジョンを持っているとのこと。サポーターが彼にレッドカードを突き付けたければ、新たなパトロンを探し出してグレーザーに売却を迫るしかありません。しかし、4000億円を超える資金を投入して、議決権は要らないという奇特な資産家は存在するのでしょうか?

既に株式を公開している企業が、50+1のようなルールを導入するためには政府の介入が必要ですが、それが実現したとしても、素人集団が重要な議決に参加するというアナーキーな世界は混乱しか生まないのではないでしょうか。フットボールファイナンスの専門家であるキース・ハリスさんは、「スカイスポーツ」のインタビューに応え、オーナーを追い出す方法は2つしかないと明言しています。

「チケットの購入を止めて、スタジアムを空にすること。もうひとつは、ひたすら抗議すること。反対運動よりもフットボールそのもののほうが重要とサインを送っている敷地内には入らずに」

これだけの騒動があっても、マンチェスター・ユナイテッドの株価は1週間前より高値をキープしています。グレイザーが経営権を放り出したというニュースが流れたら、マーケットは…!?(オールド・トラフォード 写真著作者/Ardfern)


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