偏愛的プレミアリーグ見聞録

ラヒム・スターリングは、ライアン・ギグスのコメントを聞いたのでしょうか。もし、既に耳にしていれば、相当うれしかったのではないかと思います。19歳の若いサイドアタッカーにとって、40歳のギグスはプレミアリーグの大先輩であり、同じポジションで23年も現役を続けた、いわば目標となる存在。ましてや、ライバル国の元代表選手であり、ライバルクラブであるマンチェスター・ユナイテッドの現役コーチが自分のことを認め、かばってくれたのですから。

10月12日に行われたユーロ予選のエストニア戦直前に、疲労とコンディション不良をホジソン監督に訴えてスタメンを外れたとして非難を受けたスターリング。彼のツイッターには、「消えろ！」などという心ない言葉が飛び込み、スターリングは明らかに傷つき、意気消沈していました。イングランドには、彼を責める声ばかりでなく、ホジソン監督がプライベートなやりとりを公表したことに対する非難や、プレミアリーグやチャンピオンズリーグで体を張って戦っている大黒柱を擁護する意見もありましたが、厳しい言葉を直接目にするのはやはり痛むものです。レベル感は全然違いますが、私もブログをやっているので、自分のページに遠慮ない非難の声が入ってきたときの気持ちは少しわかります。

そこに入ってきたのが、イギリスメディア「スカイスポーツ」が紹介したギグスのコメントです。マンチェスター・ユナイテッドのレジェンドは、「残念なことに、彼はリヴァプールの選手なんだよね」と冗談をかましながらも、将来ある若手に対して、最大限の評価と今後に対する期待を語っています。

「若い選手は（コンディションについて）気をつけなくてはいけない。サッカー選手のキャリアは短いから、先のことを慎重に考えなければならない。私が若いときは、毎日トレーニングをしたかったし、毎日プレイしたかった。彼も同じだろう」
「彼は優秀なプレイヤー。爆発的なスピードがあり、観ているとワクワクしてくる。お金を払って観にいきたい選手だね」

「決してプレイしたくなかったわけではなく、スターリングはチームのために戦おうとしていたはず」と、ギグスは一部サポーターの批判から彼を守る姿勢をみせつつ、その才能を手離しでリスペクトしています。同じ日に、「マンチェスター・イブニング・ニュース」に応えてディ・マリアを称賛したときと、言葉がほとんど一緒なのが気になるところではありますが、他のスポーツにおいて、精神論と「あっぱれ」「喝！」ですべてを片付けてしまう方よりは、心のこもったコメントだと思います。

ピッチの上では敵ではあるものの、戦うステージを離れれば、お互いをリスペクトし合うというカルチャーはいいですね。特に今回のスターリングの件は、選手と監督の信頼関係にヒビが入りかねないシビアな状況となりつつあったので、タイムリーなギグスの発言は、スターリングにとってより心強かったのではないでしょうか。スターリングが、イングランド代表戦ですべてのサポーターから喝采を受けるような素晴らしいプレイを披露してくれることを期待すると同時に、ライアン・ギグスには、ヴェンゲル監督のように選手を理解し、尊敬を集めるマネージャーとして、オールド・トラフォードに戻ってきてもらえればと思います。