偏愛的プレミアリーグ見聞録

いつものように「BBC」をチェックしていると、彼が7月にチームを離れるというニュースを目にしました。思い出すのは、あの試合です。2021年6月17日、プレミアリーグ28節のマンチェスター・シティ戦。パブロ・マリの負傷で24分にピッチに入った彼は、前半終了間際にデブライネが右から出したパスをトラップミスしてしまいます。インターセプトしたスターリングが豪快なシュートを左隅に決めて1-0。後半開始4分、今度はドリブルでカットインしたマフレズを後ろから引っ張ってしまいました。出場時間は25分。「失点に直結するミス、1発レッド、PK献上」のハットトリックは、カール・ジェンキンソン以来5年ぶりの記録でした。

34歳になったダヴィド・ルイスとクラブの経営ボードが合意に至ったミーティングは、友好的な雰囲気だったと報じられています。2019年の夏にチェルシーから移籍したCBにとって、アーセナルで過ごした2年はどんな季節だったのでしょうか。公式戦73試合4ゴール、プレミアリーグ53試合3ゴール。アルテタ監督の信頼を得て、契約を延長する可能性が高いといわれていたベテランは、4月に受けた膝の検査で手術が必要と診断され、長期離脱となる見通しといわれていました。契約を結んでもしばらくはチームに貢献できないということが、クラブにとってリスクとわかっていたからこそ、笑顔で去ると伝えたのでしょう。

2011年1月に入団したチェルシーで7シーズン、アーセナルで2シーズン。とにかく浮き沈みの激しい8年半でした。アンチェロッティ、ヴィラス・ボアス、ディ・マッテオ、ベニテスと目まぐるしく監督が変わった最初の3シーズンは、精度の高いロングフィードと統率力を評価され、最終ラインの軸として活躍。2012-13シーズンには、クラブに初めてのビッグイヤーをもたらしています。ところが、2013年の夏にジョゼ・モウリーニョがやってくると立場は一変。時折不安定になる守備を嫌われて出場機会を減らし、シーズンが終わるとパリ・サンジェルマンへの移籍が発表されました。

プレミアリーグに戻ってきたのは、ジョゼが去った直後の2016年8月。アントニオ・コンテの3-4-3にうまくはまり、最初のシーズンはプレミアリーグの年間ベストイレブンに選出されるパフォーマンスを見せたのですが、2年めの秋にイタリア人指揮官との確執が報じられました。2017-18シーズンのプレミアリーグ出場は、わずか10試合。シーズンオフに去ったのは、監督のほうでした。

マウリツィオ・サッリのチームではレギュラーに復帰し、ヨーロッパリーグを制覇。しかし2019年の夏に就任したフランク・ランパードは、シーズンが始まる前にジョゼと同じジャッジを下しました。居場所を失ったダヴィド・ルイスは、ウィリアンと共同でレストランをオープンしたロンドンから離れがたかったようで、ライバルクラブへの移籍を選択しました。

アーセナルでは、真価を発揮したとはいえないのではないでしょうか。2019-20シーズンの最終節で、ダニー・ウェルベックに対してファールを犯したCBは、ジョゼ・フォンテの記録を塗り替えるシーズン5回のPK献上というワーストレコードを打ち立ててしまいました。ウェルベックとダヴィド・ルイスは、プレミアリーグでの通算タックル数が252回で並んでいます。15シーズンのキャリアのうち、過半をサブとして過ごしたストライカーとタックル数が同じという事実が、彼のプレースタイルとベンチで費やした時間の長さを物語っています。

ホールディング、ガブリエウ、チャンバース、パブロ・マリといった発展途上の選手が多いチームでは、ダヴィド・ルイスの経験値と影響力は貴重だったのだと思われますが、復帰時期未定では契約満了もやむをえません。彼は、プレミアリーグに残るのでしょうか。ロンドン近郊なら、クリスタル・パレス、ワトフォード、昇格を賭けたプレーオフ進出のブレントフォード…。美しいロングフィードとFK、稀有なキャラクターに後継者はおらず、もうしばらくプレミアリーグで見ていたい存在です。負傷が癒えた後の決断に注目しましょう。