偏愛的プレミアリーグ見聞録

「われわれ全員が難問を抱えることになった。この驚異的な人物が、グループにとってどれほど重要だったか。彼は長い間、われわれの人生のなかで大きな位置を占めていた。いなくなるなんて、考えもしなかった。コーチとして指揮を執ってきたなかで、最高のクオリティであり、最も賢い選手のひとりだった。狂おしいほど、寂しくなるね。桁外れの貢献。監督にとっては夢のような存在だった」

「ひとりの人間としても、大きな穴を残すことになる。こんな個性は、もう望めない。ジニはとても強い男で、自分の意見を持っているけど、モチベーションは常にチームを助けることだけだった。チームメイトは、誰もが等しく彼を慕い、尊敬していた。その笑顔は、いつも仕事場を盛り上げてくれた。大きな心の支えになっていた」

「もちろん、彼はもういない。チームを代表していいたい。フランスで、パリ・サンジェルマンで大きな成功を手に入れることを祈っている。彼が、このような素晴らしいクラブに移籍したことは驚きではない。彼のことだから、あの街とチームをすぐに愛するだろうね。そしてチームも、彼を好きになる」

「さらば、ジニ。君はここに来て、さまざまなことに出会い、多くの勝利を得た。今でも、そしていつまでもリヴァプールのレジェンドだ」

レッズで過ごした5シーズンで公式戦237試合22ゴール16アシスト、プレミアリーグ179試合16ゴール11アシスト。2015-16シーズンのニューカッスルで、38試合11ゴール5アシストという秀逸なスタッツを残したプレーメイカーが、これほどのハードワーカーに変貌するとは思いませんでした。ジョルジニオ・ワイナルドゥム。2016年にアンフィールドで初めての夏を迎えたユルゲン・クロップが、最後に獲得した新戦力でした。

どこをどう見ても、突出したスタッツはありません。最も素晴らしい記録は、「プレミアリーグにおける2試合連続の欠場は、2018年3月の病欠のみ」でしょうか。スケジュールがタイトなプレミアリーグでは、ゲーゲンプレッシングは通用しないといわれた指揮官は、彼に足を向けて寝られないでしょう。守備はダーヴィッツ、攻撃はセードルフと母国のレジェンドに例えられたオールラウンダーは、豊富な運動量と戦術理解の深さによってクロップがめざすフットボールを実現しました。

記録には残らなくても、彼が過ごした濃密な5年の記憶と、クラブにもたらした栄誉は語り続けられるはずです。2018-19シーズンのチャンピオンズリーグ準決勝、アウェイゲームを3-0で落とした後のバルセロナとのセカンドレグ。スタメンから外され、ベンチで激怒していた5番は、ハーフタイムにロバートソンと代わって10分も経たないうちに奇跡に辿り着く扉を開きました。54分、アーノルドのグラウンダーに走り込んで右足でボレー。シュテーゲンが弾いたボールがネットに届き、トータル3-2になったのを見たジニは、猛然とダッシュしてGKからボールを奪い、自陣に戻りました。

その2分後、左からクロスを入れたのはシェルダン・シャキリ。ピケに競り勝ち、打点の高いヘッドを左隅に収めると、今度はスタンドに駆け寄って胸を張り、サポーターを煽り続けます。バルサ守備陣が集中力を切らしたのを見たアーノルドがCKをクイックに蹴り、オリギが決めて4-0。ミラクルの主役となったオランダ人が、勝利が決まった瞬間、両手で顔を覆って天を仰いでいたのが印象的でした。14年ぶりとなるビッグイヤーの翌シーズンは、プレミアリーグ創設以来初となる30年ぶりのリーグ制覇。37試合4ゴールのMFが、4年をかけて完成されたチームに欠かせない存在だったのはいうまでもありません。

コロナウイルスの蔓延によって、クラブがダメージを受けなかったら。ヴィルジル・ファン・ダイクのアクシデントによって、チームがバランスを崩さなかったら。ジニはこの夏も、カークビーのトレーニングセンターに戻ってきていたかもしれません。ユルゲン・クロップの惜別のメッセージを読んでいると、シュテーゲンからボールをもぎ取り味方を鼓舞する精悍な表情が脳裏をよぎります。（ジョルジニオ・ワイナルドゥム　写真著作者/Эдгар Брещанов）