偏愛的プレミアリーグ見聞録

負けました。完敗です。「やっぱりペップは凄い…」。今まで散々つぶやいてきた言葉を、繰り返すしかありません。スールシャール就任以降、ショッキングな負け方をした後に歯車が狂うという流れを何度も経験してきたチームだけに、「オールド・トラフォード」「ベストメンバー」「ノーゴール」「完敗」という4枚のカードが揃うのを回避したかったのですが…。カラバオカップ準決勝のマンチェスターダービーは、プレミアリーグで10戦無敗VS7戦無敗という好調対決でしたが、マンチェスター・シティが0-2で勝ち、トッテナムが待つファイナルに駒を進めました。

「惜しいシーンもあったじゃないか」と、慰めてくれる人もいるかもしれません。開始2分にラシュフォードがラインの裏を取り、左足のシュートをGKステッフェンが足でブロックすると、ジョン・ストーンズの足に当たったボールがネットを揺らすも、ジャッジはオフサイド。9分にマクトミネイがボックス手前に侵入し、左に流したボールに走り込んだブルーノ・フェルナンデスのコントロールショットは、エデルソンの代役のビッグセーブに阻まれました。冷静に振り返ってみると、惜しい！と叫べるシーンは、このぐらいでしょう。マン・シティの守備陣は、クロスへの対応が完璧で、ラシュフォードやブルーノ・フェルナンデスのシュートコースは常に消されていました。

ペップの何が凄いかといえば、決めたことをやり切る執念と徹底度です。今季は、何としても守備を改善すると決めて臨んだのではないでしょうか。開幕当初は不安定だった最終ラインは、試合を重ねるごとに強固になりました。プレミアリーグ9節のトッテナム戦を2-0で落とした後の、CLや国内カップを含む12試合のスタッツを見ると、背筋がぞくぞくします。9勝3分で、たったの3失点。圧巻なのは、許したオンターゲットの本数です。3本打たれたセインツ戦以外はすべて2本以内で、1試合あたり1.58！ジョン・ストーンズが復活し、ルベン・ディアスと連携しながらスペースをケアする4バックは、エデルソンが活躍するチャンスを58分で1回に限定しています。

やると決めれば何でも実現してしまうペップによって、堅守のチームに生まれ変わったマン・シティ。レスターに5発決められたプレミアリーグ3節以降、22試合で2失点を喫したのはスパーズ戦のみです。目下の課題は本職のストライカーが不在の攻撃で、今回のマンチェスターダービーは2発ともセットピースでした。

50分にフォーデンのFKを体で押し込んだのはジョン・ストーンズ。83分の2点めは、右からのCKに対応したワン＝ビサカのヘディングを拾ったフェルナンジーニョのコントロールショットです。デブライネが右足を振り抜いた強烈な一撃がポストにヒットし、スターリングのヘッドやジョアン・カンセロのミドルが枠をかすめるシーンはあったのですが、オープンプレーから決められないまま、タイムアップとなりました。

ラシュフォード、マルシアル、ブルーノ・フェルナンデス、ポグバ、マクトミネイ、フレッジというベストの布陣で戦い、後半はグリーンウッドとファン・デ・ベークも継ぎ込んで敗れたマンチェスター・ユナイテッドは、2年連続でペップにファイナル進出を阻まれました。2019-20シーズンは、ヨーロッパリーグ、FAカップ、カラバオカップがすべて準決勝敗退で、プレミアリーグは3番手フィニッシュ。昨夜の敗戦で、4大会連続の4強止まりです。

トロフィーを獲得するには攻撃も守備も戦術も足りず、強者の足をすくうほどの勝負強さや勢いもないということなのでしょう。スールシャールさんは、選手たちに慕われるよき指導者なのでしょうが、あまりに天然で、勝負師にはなれないのでしょう。劣勢のとき、ベンチに深々と沈んで寂しそうな顔をしているのを見ると、背中を押してタッチライン沿いに立たせてあげたくなります。

気持ちを切り替え、FAカップのワトフォード戦とプレミアリーグのバーンリー戦をきっちり勝ち切り、いい状態でリヴァプール戦を迎えられるよう祈るのみです。開幕からの8戦で3勝と出遅れたマンチェスター・シティが、混戦となって上位を捉えた今、優勝候補の筆頭なのだと思い知らされた完敗でした。いやー、強い…。