偏愛的プレミアリーグ見聞録

プレミアリーグの開幕目前を告げる「コミュニティシールド」の組み合わせは、昨季のプレミアリーグチャンピオン、マンチェスター・ユナイテッドと、ジャイアントキリングの連続でFAカップを制したウィガンです。プレシーズンマッチで2勝2分け3敗。なかなかチームが仕上がらないマンチェスター・ユナイテッドですが、果たして開幕からの過酷な対戦相手をさばけるのか、2シーズンめとなる香川真司は存在感を発揮できるのか、ルーニーはチームに戻ってくるのか、何かと興味は尽きません。

会場は、聖地ウェンブリー。入場者8万、うちマンチェスター・ユナイテッドサポーターが47,000人というホームにも似た空気のなかでのキックオフ。昨季王者は、このゲームでもピリッとしません。7分にエヴラのクロスからエース、ファン・ペルシのヘディング一発で先制しますが、前半のチャンスはこのシーンとウエルベックの反転シュート、右MFザハのグラウンダークロスをゴール前ニアサイドでカットされたプレイだけ。

最大の問題は、DFラインの低さです。サッカーは、4-3-3とか4-4-2など、システムの形を云々する前に、「どのスペースでどんなプレイをするのか」が重要です。たとえば元日本代表監督のイビチャ・オシムさんとサー・アレックス・ファーガソンさんには共通項があり、「サイドを突破したときはニアサイドに最低2人、入らせる」のを徹底していたりします。モウリーニョ監督やヒディンク監督のどこが素晴らしいかといえば、彼らはピッチのどこでどんなプレイをしないといけないかを、コンセプチュアルに選手に理解させる力に長けているのです。これができれば、DFの人数をゲーム中に変えても、チームが破たんすることはありません。

この日のマン・ユナイテッドは、前任者の時代より、明らかに最終ラインが下がり過ぎ、全体的に間延びしていました。ボールの獲りどころが不明確なまま、いたずらにラインが下がるので、プレスをかけにいってかわされてもさほどリスクのないウィガンFWに思い切り詰められ、ボールの受け手が苦しい体勢になります。この状態から無理して前に出しても、コースが少なく簡単に読まれるので、攻めにつながるボールがなかなか入りません。キャリックやクレヴァリーが窮屈なプレイに終始したまま、前半終了。残り45分の時点では、次のゴールの可能性が感じられるのは、FAカップ覇者のほうでした。

後半になって、プレミアリーグチャンピオンは自分たちの形でボールキープできるようにはなりましたが、いいパスを前線に供給できないのは相変わらず。試合は膠着し、退屈な時間が流れます。まだ30分以上残っているのに、このまま終わるのではないかと思わせる試合展開に喝を入れたのは、またしてもエースの一発。ペナルティエリア外、中央で久しぶりにパスが回り、ギグスの落としを受けた20番は、中に軽く持ち出すと左足でコントロールシュート。これが相手DFに当たってGK逆を突き、2-0。ゲームの勝ち負けはここで決まりました。

この後、ラスト10分となり、香川真司とヤヌザイ（という表記が妥当なようですね）が登場。香川が前線に入ると、ダイレクトパスや短い落としなど、攻めの形が多彩になります。決定的なチャンスまでは作れなかったものの、存在感は示せたのではないでしょうか。マンチェスター・ユナイテッドは優勢を保ったまま、4分の追加タイムを危なげなく過ごし、タイムアップ。結果的には無事に、今季最初のタイトルを獲得しました。

ここにきても調子が上がらず、来週のスウォンジー戦に勝てるかどうか不安ですが、よかったことがあったとすれば、ヴィディッチの復帰、バレンシアとエヴラの好調、そしてキャリックの大事さを確認できたことでしょうか。そうそう、もうひとつ、「困った時の20番」は今季も機能しそうですね。モヤモヤは晴れないものの、プレシーズンを通じて1回もなかったクリーンシートを達成したことを前進と受け止め、開幕戦の快勝を期待しましょう。さあ、いよいよ、来週です。