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偏愛的プレミアリーグ見聞録

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ヴェンゲル監督がホーム・グロウンルール変更に猛反対!論点は「イングランドは強くなるのか?」

ヴェンゲル監督が、FA(イングランドサッカー協会)が提唱するホーム・グロウンルール変更に、真っ向から反対の声を挙げました。先日、本ブログでも紹介したルール変更案は、「登録選手25人中、ホーム・グロウン選手枠を現行の8人から12人に増加させる」「ホーム・グロウン選手の対象年齢引き下げ」「12人のうち、2名は自クラブ育成選手とする」「EU外選手の労働許可証発行基準の厳格化」の4点。ヴェンゲル監督は、もしかすると全面的に反対なのかもしれませんが、今回、槍玉に挙げたのは12人への増加について。「数多くのイングランド人を入れないといけないと機械的にルール化すると、二流の選手しかいなくても獲ることになる。それではクラブは弱体化するし、そもそも競争原理に反するではないか」という趣旨です。

「私は2つの事例を紹介したい。以前に、ユーゴスラビアが登録メンバーに21歳以下を3人入れなければならないというルールを作った。そこで起きたのは、彼らは全員サブにすぎなかったという結果。 フランスでは、21歳以下の3選手を先発させなければいけないというレギュレーションにしたが、試合が始まると5分でその3選手はベンチに下げられた。今後、プレミアリーグに高い価値を付与したいなら、世界最高レベルなのだから買ってほしいと主張しなければならない。クオリティは競争社会の肝だ」

私は、ホーム・グロウンルール変更については「イングランド人選手の全体的な地盤沈下に危機感をもった今回のFAの改革には、基本賛成。覚悟をもって選手をレベルアップさせる施策とセットで進めるなら、やったほうがいいのではないか」と書きましたが、一方でヴェンゲル監督の反対意見も理解できます。御大がおっしゃっていることは、「失敗した場合の姿」そのものだからです。レベルが低くてもより多くのイングランド人選手を獲らなければならなくなったトップクラブが、二流の選手の獲得を争い、移籍金の額がその実力に見合わない値段になってしまう可能性はないとはいえません。「間違ったルールで二流選手を守るよりも、いい選手になれそうなスーパーな人材に投資したほうが全体のクオリティは上がる」というヴェンゲルさんの主張は、これはこれでひとつの見識でしょう。

チームを強くしなければいけない監督という立場で、近い将来をみて考えれば、ヴェンゲルさんと同意見の指揮官も多いのではないでしょうか。私も、現状のイングランド人選手のレベルと層の厚さが変わらないなら、ルール変更は「ひどい改悪」になってしまうと思います。まず取り組むべきは自国選手の強化。これからもプレミアリーグが魅力的であってほしいファンとしては、イングランド30都市に150ヵ所のサッカーの拠点を作り、人口芝グラウンドの導入、ユースアカデミー強化、コーチの層の拡大に400億円からのお金を注ぎ込むと発表したFAの本気に期待したいところです。

そんななかで、このたび、もうひとつビッグニュースが入ってきました。26日、プレミアリーグのクラブは、2016年から総額9300億円以上になるテレビ放映権料のうち、10億ポンド(約1770億円)以上を下部リーグやアマチュアのクラブに振り分けることで合意したそうです。これは、素晴らしいですね。

最近、イングランドで問題になっていたのが、下部リーグ所属クラブの育成予算縮小。資金のあるトップクラブが外国人選手獲得と育成施設強化にシフトしたため、下部リーグのクラブが選手を売れなくなり、強化への投資を断念するケースが出てきていました。昨秋、サウサンプトンが発表した新トレーニング施設「マークス・リーブヘール・パヴィリオン」は、建設費4000万ポンド(約73億1000万円)。ピッチ9面、最新鋭の設備&ソフトウェアを導入し、ユースの選手のデータをさまざまな角度から集積して育成プランを作成する画期的なもの。さらに上をいくのはマンチェスター・シティで、2億ポンド(約376憶円)を費やしたトレーニング施設はピッチ16.5面、ビデオ研究用のTVホール、アカデミーと女子チームが使う7000人収容のスタジアム、5.5面の人工芝ピッチ。プレミアリーグのクラブがこれだけお金をかけて次世代の選手育成に力を入れれば、下部リーグのクラブのアゴが上がるのも仕方がありません。

しかし、テレビ放映権料の20%がチャンピオンシップ(2部相当)やリーグ1(3部)、リーグ2(4部)などのクラブに渡されれば、ユースアカデミーの充実化による若手育成にも投資がしやすくなり、イングランド全体の底上げが進む可能性が広がります。プレミアリーグのクラブが育成した若い選手が下部リーグにレンタルされて修業することになったとき、よりレベルが高いサッカーがそこにあれば、今以上に早期の成長が促進されるでしょう。数年後に起こり得るネガティブな状況に懸念を表明するヴェンゲル説に対して、ポジティブな青写真で対抗するとすれば、

「ホームグロウンルールの変更によって、プレミアリーグのクラブはより育成を強化。下部リーグのクラブが育てた見どころのある選手も上位クラブに買われるようになり、多くのイングランド人選手が選択肢となることで、少数の選手の奪い合いによる移籍金高騰化はおさまる。生え抜きのスター選手、イングランド人の人気選手が増え、スタジアムはさらに盛況。外国人選手獲得は、数多く獲るのではなくイングランド人選手でまかなえない大物特化となり、超一流が揃ったトップクラブはチャンピオンズリーグを何度も制覇。強くなったイングランドは、FAが目標としている2022年のワールドカップで…

といったところでしょうか。この議論は、ヴェンゲルさんとFAのどちらが正しいかに今すぐ軍配を上げるような話ではなく、遠い未来の輝かしい成功のために、それぞれにメリットもリスクもあるいくつかの方法のなかからどれを選び取るのかという難しい判断。順調にいってもそれなりに時間がかかりそうなイングランド人選手のレベルアップと、段階的に行われるホーム・グロウンルール変更の時間軸に整合性を取らないといけないデリケートなプロジェクトです。私は、リスクは重々承知の上で、あらためてFAの覚悟ある決断と壮大なプランに期待し続けていこうと思います。

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“ヴェンゲル監督がホーム・グロウンルール変更に猛反対!論点は「イングランドは強くなるのか?」” への1件のコメント

  1. ゆうま より:

    監督からすれば今後のチーム作りに大きな制約を課されるのですから
    現在イングランドでプロリーグの監督をしている人なら全員が反対しても
    おかしくないと思います。

    個人的に気になるのは現在HG資格を有している選手及び将来HG資格を
    取得することを前提に獲得した選手地の扱いです。

    アーセナルのトップチームですとGKシュチェスニー、SBベジェリン、DMコクランらの
    HG資格が揺らぎますし、WGナブリ、DMゼラレム、DMビエリク等HG制度を活用してきた
    アーセナルにはアンダープレイヤーにも多数いますから大問題です。

    いきなり資格を剥奪とか将来HG取得権利を奪うとなったら裁判でエラい事に
    なりそうなので、今シーズン終了時にFA配下のクラブに所属している選手は今後
    10年間HG資格をキープ出来るといった過渡期を設けるなどをして頂けたらと思います。

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