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偏愛的プレミアリーグ見聞録

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出演者反発、「BBC」が謝罪・撤回…「Match of the Day」のガリー・リネカー降板騒動の顛末。

「シュールな数日の後、われわれが事態を乗り切ったことを喜んでいる。『BBCスポーツ』の仲間たちによる驚くべき連帯感に感謝したい。サッカーはチームプレーだけど、彼らのサポートは圧倒的だった」

発言の主はガリー・リネカー。「1986年のワールドカップメキシコ大会得点王」「名古屋グランパスでもプレイしたストライカー」といっても、若いプレミアリーグファンはピンとこないかもしれません。今は、「BBC」の人気番組「Match of the Day」のプレゼンターと紹介するのが妥当でしょう。

冒頭のコメントは、愛する番組を降板するという事件が一段落したリネカーさんが、ともに番組を盛り上げてきた評論家やスタッフに送ったメッセージです。3月11日の番組から締め出された大物プレゼンターは、たった3日で復帰することになりました。今回は、この騒動の顛末をレポートさせていただきます。

最初に「Match of the Day」について、簡単に紹介しておきましょう。プレミアリーグのハイライトやゲーム解説、監督や選手の生の声を伝える最長寿のフットボール番組。1999年からプレゼンターとして番組を仕切るリネカーさんは、今やなくてはならない存在です。日本でいえば…古い例えになりますが、「笑っていいとものタモリさん」でしょうか。

リネカーさんといえば、思い出すのは2015-16シーズン。若き日々を過ごしたレスターの快進撃に興奮し、「プレミアリーグを制覇したらパンツ一丁で出演する」と宣言すると、現地メディアが「ホントにやるんだな?」と一斉に記事にしました。古巣が頂点に立つと、翌シーズンの開幕日にホワイトのボクサーパンツで登場。真顔で伝えたその日の第一声を紹介しましょう。

「新しいシーズンが始まりました。新たなタイトル、監督、選手たち…しかし、それ以外は特段変わりはありません」

レスターのエンブレムが入ったボクサーを選んだリネカーさんに対して、Twitterから「なんでブリーフじゃないんだ!」と総ツッコミが入ったのも、今や懐かしい思い出です。

さて、長年にわたってプレミアリーグファンに愛されたリネカーさんが、降板となったきっかけは、イギリス政府が発表した「小型ボートで英仏海峡を渡ってくる移民の入国を禁止する新法案」に対する批判でした。

第一報を聞いたイングランド代表OBは、「Good heavens, this is beyond awful.(なんてこった。ひどすぎる」とツイート。怒りはさめやらず、「計り知れないほど残酷な政策」「1930年代のドイツと変わらない」と連発しました。

これらの発言が、政治的な公平性を担保する「BBC」のソーシャルメディアガイドラインに抵触したというのが、「Match of the Day」降板の理由です。プレゼンターが去って話は終わりかと思いきや、この件を聞いた評論家や選手たちが一斉に反発。「ジャーナリストではない人間の番組外の発言まで封殺するのか」という声が挙がったのです。

「11日の番組をキャンセルする」と宣言したのは、出演する予定だったイアン・ライトとアラン・シアラー。ジャーメイン・ジェナスとマイカ・リチャーズも、もし呼ばれていたら断っただろうとコメントしています。フットボール番組のMCとして評価が高い元イングランド女子代表DFのアレックス・スコットも、リネカーの代役はNGと示唆しました。

プロによるゲーム分析と熱いディスカッションが盛り上がる「Match of the Day」は、突如リネカー、イアン・ライト、シアラーの3トップを失い、11日の放映は通常の90分を20分に短縮。日本のニュース番組にあるJリーグコーナーのような「ハイライトまとめ」になってしまいました。

この事態に慌てた「BBC」のティム・デイヴィ局長は、月曜日に降板の撤回を発表。「スタッフ、解説者、プレゼンター、そして最も重要な視聴者にとって、困難な状況を招いたと認識している。申し訳ありませんでした」と謝罪し、ガイドラインを見直すとしています。

政治的公平性というテーマは極めて難しく、「BBC」でガイドライン管理を担当していたリチャード・エアーさんは、「悪夢のような仕事」「誰がどう作っても誰かが納得しない」とコメントしています。本件がどうなるかはさておき、プレミアリーグファンとしては、リネカーさんの復帰と現地のフットボール関係者の毅然とした姿勢を心に留めておきたいと思います。

ちなみに、リネカー復帰は「BBC」のトップニュース。スポーツやフットボールのコーナーではなく、全体のトップです。しかも記事には、リシ・スナク首相が「問題の解決方法について”正しかった”と語った」と記されています。

政治的公平性や言論の自由という話が絡んでいたとはいえ、本題は経済でも外交でもなく「リネカー降板の是非」です。彼らにとって、フットボールがいかに重要なテーマなのかを思い知った次第であります。(ガリー・リネカー 写真著作者/David Woolfall)


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