イングランドのプレミアリーグ(ときどきチャンピオンズリーグ)専門ブログ。マンチェスター・ユナイテッド、アーセナル、リヴァプールetc.

偏愛的プレミアリーグ見聞録

マンチェスター・ユナイテッドファンですが、アーセナル、チェルシー、トッテナム、リヴァプール、エヴァートンなどなど何でも見てしまう雑食系プレミアリーグファンです。プレミアリーグ観戦記、スタジアム、チーム情報からロンドンやリヴァプールのカルチャーまで、幅広く紹介しています。

誤算~リヴァプールとアーセナルはなぜ崩れたのか。

プレミアリーグ2016-17シーズンは、リヴァプールとアーセナルのどちらかが頂点に立つかもしれない…。開幕前、私はこの2チームに大いに期待していました。ヨーロッパリーグのファイナリストになったクロップ監督が、初めてオフシーズンからチームづくりを始めるシーズン。終盤の追い込みでプレミアリーグ2位に食い込んだヴェンゲル監督が、ジャカ、ムスタフィ、ルーカス・ぺレスと要所に適切な補強を施したシーズン。片やはベンテケ、ジョーダン・アイブ、ジョー・アレンを惜しげもなく放出し、もう一方は中核だったはずのジャック・ウィルシャーを出番がなさそうという理由でボーンマスに貸し出しています。多少のケガ人なら耐えうる戦力は整いました。スパーズ以外のライバルは新監督を招聘しており、手探りの序盤は勝ち点を落とすはず。両者ともSBが手薄なのは心配でしたが、継続性というアドバンテージは想像以上に大きいのではないかと考えていたのです。

マンチェスター・シティの6連勝スタートとチェルシーの怒涛の13連勝は予想外でしたが、前半戦終了時にはリヴァプールは首位と6差の2位、アーセナルは9差の3位。コンテ監督のチームが19戦16勝という信じられない快進撃を見せたために差は開いたものの、彼らが最後まで勢いをキープできるとは思えません。リヴァプールとアーセナルは最後まで優勝争いに絡み、逆転もあるかもしれないと、シーズン前と変わらず期待していました。

ところが1月、まずはリヴァプールが崩れました。すべてを獲りにいくクロップ監督が2年連続でリーグカップのセミファイナルに残り、プリマスとのFAカップで再試合を戦ったため、年明けの1ヵ月は今季も9試合となりました。前半戦でチームを支えていたヘンダーソン、コウチーニョらが負傷でつまずき、戻ってきてから復調に手間取ったうえに、マネのアフリカネーションズカップ行きが重なり、2月頭までのプレミアリーグを3分2敗と大クラッシュ。クロップ監督の「走るサッカー」は、TOP6との5勝5分が示すようにベストメンバーが全力を出せばプレミアリーグの頂点を狙える強さなのですが、いかんせんオプションに乏しく、引いた弱者や劣勢のゲームを打開するBプランがありません。ダニー・イングスの長期離脱とスタリッジの大スランプも、誤算だったでしょう。クラヴァンとオリギは調子に波があり、プレシーズンマッチで期待させたグルイッチも負傷に苦しみました。

3月の頭にアーセナルに勝ち、ようやくスランプからは脱したものの、その後もボーンマス戦のドローやクリスタル・パレス戦の完敗があり、追い上げるよりも下からの突き上げを気にする時間が続きました。足りなかったのは選手層の厚みと、ここぞというときにゴールを決めてくれる存在です。今季のレッズを指揮官の古巣になぞらえていえば、ゲッツェ、マルコ・ロイス、香川真司はいたものの、レヴァンドフスキがいなかったチームだったのではないかと思います。新シーズンは、自力で局面を打開できるサイドアタッカーと点取り屋タイプの獲得は必須でしょう。ミルナーとアルベルト・モレノでは心もとない左SBも補強ポイント。グルイッチ、ジョー・ゴメス、ロリス・カリウスの覚醒に期待できなければ、背骨となる中央のラインにも新たなタレントを連れてくる必要があると思われます。

リヴァプールの転落スタートから3週間後に、アーセナルが苦しみ始めました。前半戦はアレクシス・サンチェスのワントップという新機軸が見事にはまり、エジルやウォルコットがフィニッシャーとして活躍する試合が目立ちました。ムスタフィは入団してすぐにプレミアリーグになじみ、2016年は彼の出場試合は無敗です。欠場したエヴァートン戦とマン・シティ戦を落としたものの、年明け早々には復帰してきました。カソルラの離脱とエルネニーのアフリカ行きが懸念でしたが、2月には2人とも揃うでしょう。22節終了時は2位で、チェルシーとの差は8。ラムジー、ジャカ、コクランが彼らの留守をしっかり預かり、首位とのシックスポインターで勝利を奪えば青い背中はすぐ目の前です。

ヴェンゲル監督のチームに漂い始めた陰気な暗雲は、アレクシス・サンチェスとエジルの契約延長報道でした。時を同じくして前者はチームメイトに激怒するシーンが増え、後者はコンディション不良による欠場をきっかけにスランプに陥ります。最初のショックはバーンリー戦でのジャカのレッドカード。98分(!)のアレクシスのPKでこの試合は切り抜けたものの、直後、エミレーツで敗れたワトフォード戦が激震でした。ラムジーが負傷でリタイア、ジルーはハーフタイムでチェンジ。首位攻防戦となるはずだったチェルシー戦の前につまずいたチームは、大事な試合の序盤から明らかにローテンションでした。スタンフォード・ブリッジでもベジェリンが早々に負傷し、1月に足を痛めて休んでいたコクランはトップフォームではなく、アザールにあっさり抜かれてゴールを許します。勝ち点差を12とされ、4位に落ちて優勝争いから脱落したガナーズは、心身ともに最悪の状態でドイツ王者との対決に向かうことになりました。

2試合トータル10対2という惨敗が衝撃的だったため、ヴェンゲル監督のサッカーは限界だという声が高まりましたが、CLの2試合はメンタルの問題がより大きかったと思います。最初の試合はコシールニーが負傷リタイア、2試合めはレッドカード。守備の要を50分前後に失う直前まで、いずれの試合もガナーズは1-1で踏ん張っていました。チームがポジティブな雰囲気をキープし、勝利を求める強い気持ちと集中力を失わなければ強豪相手でも互角に戦えることは、アトレティコ・マドリードに惜敗したレスターが証明しています。2月のアリアンツ・アレナでクラッシュした後は、ヴェンゲル監督の退任を要求するプラカードやデモが見られるようになり、チームが開き直るまでに3ヵ月を要しました。

ワトフォード戦に敗れてからのプレミアリーグ8試合は、2勝1分5敗。最大の誤算はエジルの絶不調、さらには中盤センターの混乱による最終ラインの負担増加。コンテ監督が隔月でイタリアンや日本食のレストランにチームで出かけて結束を強めたように、アレクシス・サンチェスのガス抜きや若手のリラックスを促す試みがあれば、不振の時期を短くすることはできたかもしれません。厳しい後半戦となりましたが、ヴェンゲル監督の3バック導入は秀逸な打開策だったと思います。勝てなくなったチームに変化を起こし、課題だった中盤センターの脆弱さを後ろを増やすことによって解決しようとした新フォーメーションによって、ジャカが落ち着きを取り戻して輝き始め、やがてエジルが復活しました。昨季プレミアリーグで19アシストを記録した司令塔が普通にプレイすれば、それだけでアーセナルが強いのは、最近の4試合を観た方ならおわかりでしょう。カソルラの不在よりも、むしろ11番がピッチの上で不在化していたことのほうが、ジャカが加わった今季のガナーズにとっては、より痛かったのではないかと思います。

「あのとき、決まっていれば…」「あの試合で勝ち点を奪っていれば…」。チャンピオンズリーグ出場権を争っている両チームのサポーターは、最終節を前に悔しさと不安がないまぜになった時間を過ごしていることと思います。椅子を取りそこなったとき、より影響が大きいのはノースロンドンのクラブでしょう。「FAカップ決勝後の会議が終われば、去就を発表する」と語ったヴェンゲル監督は20年7ヵ月の歴史にピリオドを打つのか。「チャンピオンズリーグ出場が条件」と自らの居場所について語ったアレクシス・サンチェスは、明日の結果で未来が変わるのか。アーセナルとリヴァプール、それぞれに思い入れがあった私としては、どちらが4位になっても悔しさと安堵が押し寄せてくる微妙な感覚に襲われるような気がします。

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“誤算~リヴァプールとアーセナルはなぜ崩れたのか。” への7件のフィードバック

  1. nyonsuke より:

    更新お疲れ様です。

    レッズファンとして、CL権獲得の天王山であり、勝利が全ては変わりませんが、レッズの次にヴェンゲルのファンでもあったので、レッズがヴェンゲルに引導を渡すかもしれない現実にちょっと複雑な感情を持っています。
    しかし、ここでCL権を逃せば、有望な若手を獲得するしかない補強策になる可能性が高く、いくらクロップでもタイトル獲得に数シーズン必要となるかもしれません。
    世界の巨匠、メガクラブと渡り合うために、アーセナルの一時代を踏台にするかもしれないとは…。
    明日はとにかくレッズの勝利、他の感情は封印しなければなりません。

  2. プレミアリーグ大好き! より:

    11月ぐらいからのコウチの怪我、マネの離脱、ヘンド、スタリッジ、ララーナ、マネの怪我と誰かが戻れば誰かが怪我をし、といった苦しいシーズンでした。走るサッカーは強いのでしょうがその分肉体を酷使しますからね。補強を重ねて来期はより負担を分散し怪我の少ないシーズンを送ってほしいものです。
    アーセナルに関して言えるのはやはりリヴァプールではなく同じロンドンのスパーズを見据えて戦っていくべきだったのでしょうね。

  3. Macki より:

    更新ご苦労様です。
    1月の失速からここまでよく持ち直してくれたと思います。やはり層の薄さは最後まで響いてますね。国内だけの戦いとはいえ、主力不在時のベンチを見るとよくここまで順位をキープできているなと思ってます。後はプランBの問題ですね。この2つが解消されれば、来季はもっと上に行けると信じてます。そのためにも最終戦ボロには勝たなくてはいけないです。

  4. アイク より:

    シーズン総括ありがとうございます!
    そうだったそうだったと思い返すことで、最終節がますます楽しみになりました。
    レッズは好きですが、ヴェンゲル監督に失意の退任は相応しくないので、アーセナルに気持ちが傾いています。

  5. makoto より:

    nyonsukeさん>
    相手が引く前の早い時間にゴールがほしいですね。イーブンで後半に向かう展開になると、焦るのではないかと心配になります。

    プレミアリーグ大好き!さん>
    前半戦のマンチェスター・シティ戦のように、うまく時間を使う戦い方を意図的にできるとなおいいですね。アーセナルは、サポーターの抗議があまりに厳しく、勝ち点に影響したのではないかと思います。

    Mackiさん>
    まずはストライカー問題を解決したいですね。スタリッジ、どうなるのでしょうか。

    アイクさん>
    私も、ときどきそうなのですが、クロップ監督のチームをCLで観たいと思ってまた傾き…。

  6. K より:

    レッズの問題は守備と選手層です。引かれた相手でもメンバーが揃えばストーク、サンダーランド、WBAらを粉砕してます
    CFの得点力もフィルミーノが走りすぎているので彼の負担を減らせば得点力は上がります
    彼はスアレスと同じ年齢の頃の成績をなぞっており、来季には20得点するはずで点取り屋問題は彼が収束させるでしょう
    スタリッジが万全ならば控えもいいのですが、オリギは正直今後も厳しそうで補強すべきか悩みどころです

    今季に関しては夏のダフードとプリシッチとチルウェル、冬のドラクスラーのオファー失敗で3・4枚戦力が足りなかったのが厳しかったですね
    下位クラブのレギュラー争うレベルの若手が10人くらい居ても、良い控え選手が不足してました
    マルコヴィッチなど下位クラブなら主力になれる選手をローンに出して市場価値を高めるあたりクロップは今季も土台作りと見ていたように思います
    レッズが大量に抱える下位クラブでは使える若手選手は給料も安く、英国籍なので今年も高く売れそうで何よりです。スチュアートが£10m超えるそうですし

    冬の補強がないと最後まで走りきれない事は明白だったので、CL権を取るという今年の目標が最後に達成出来れば満点です
    主力選手は能力が落ちるような大怪我もせず、契約延長にも成功してますから

    エコーを見る限りご指摘のサイドアタッカーと左SBは補強候補が多数で絶対に獲得の方針
    ご指摘の中央には左CBにファンダイク、インサイドハーフにネイビーケイタで4枚
    あとは万能なチェンバレンとスタリッジ次第でCFが増えて最大6枚になりそうですが、
    CL権を取れなければ誰も来ない可能性もあり今日の試合がとても大事です。私は4位以上なら今季はとても満足ですよ
    ここ数シーズンの平均順位が6位のチームがここまで進歩したのですから

  7. makoto より:

    Kさん>
    トッテナムやチェルシーと数字を比較すると守備力が課題に見えるのですが、失点数がほぼ同じレアル・マドリードのように破壊力を上げるという選択肢もあり、クロップ監督のサッカーならそちらのほうが早いのではないかと思ったりします。フィルミーノの運動量は貴重だったので、つまるところは彼やマネがいなくてもクオリティが下がらないような選手層を保持すべし、というところに落ち着くのかもしれません。

    守備面では、セットピースとGKの安定感UP(ミニョレが後半戦のプレイを通年でできるなら、それもあり)は必須だと思います。

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