偏愛的プレミアリーグ見聞録

チームバスと公共交通機関は利用禁止。トレーニングを行う選手たちは、定期的にクリーニングを施された自らのクルマで現地入りし、アンケートと体温のチェックを実施します。週に2回のドライブスルーテストも必須。18日のセッション再開からしばらくは、最長75分に限定され、一緒にプレイできるのは5人までと決められています。ソーシャルディスタンシングが遵守されるという見慣れた表現は、スルーしてしまいそうになりますが、「タックル禁止」は衝撃的です。コーナーフラッグ、ボール、コーン、ゴールポスト、プレーイングサーフェスはセッション終了後にすべて消毒。プレミアリーグ再開まで1ヵ月、その道のりはどれだけ長いことか。ピッチに22人の選手を揃えようとしているプレミアリーグ、医療のエキスパート、PFAとLMA、クラブ関係者、メディアルスタッフなど裏方のみなさんの取り組みには頭が下がります。

クラブが取り組まなければならないのは、ルールを守るための運用体制の確立や環境の整備ばかりではありません。現在、最も重要なのは選手たちのメンタルケアとコンディションの把握です。イギリスの統計局のリサーチによると、黒人の致死率は白人の2倍とされており、とりわけ喘息などの基礎疾患がある選手は要注意です。重症化のリスクが高い層に対して、より手厚いサポートができるようにすること。ピッチで他者と近づくことに対する恐怖心を取り除くこと。機械的な作業や事務的な手続きで解決できないことが多く、1ヵ月という期間は決して長くはありません。

現場が日常を取り戻そうとしている一方で、プレミアリーグとクラブの代表者たちは、イレギュラーなシーズンを完了させるためのレギュレーションについて検討を続けています。選手たちの移動の負荷や、熱狂的なサポーターの来場を防ぐべく検討されていたニュートラル会場での開催案は、残留争いを繰り広げている6クラブとアーセナル、トッテナム、チェルシーが反対。多くのクラブがひしめくロンドンに本拠地を構えるクラブは、マージーサイドやマンチェスターのクラブよりも移動が少なくなるホーム＆アウェイルールをアドバンテージと認識していたことが浮き彫りになりました。

イギリス政府は、安全の確保が難しくなるホーム＆アウェイでの開催を許可するといわれています。試合当日にスタジアム周辺にいたことがわかったファンは、数年に及ぶ来場禁止などのペナルティを受けるといった厳しいルールの導入が検討されています。プレミアリーグは再開の目処は立てたものの、完了の目処は未だついていません。「多くの選手がプレイを拒否」「複数の選手がコロナウイルスに感染」「スタジアム周辺でトラブル発生」といったネガティブな状況に陥った際は、即時中止に追い込まれる可能性があります。最下位に沈むノリッジは「シーズンを完了させられなかった場合は、降格はアンフェアである」と主張しています。今後の会議で、再中断もしくは中止という判断がなされたときの規定についても、決めておかなければなりません。

本日は、プレミアリーグとPFA（プロサッカー選手協会）、LMA（リーグ監督協会）が、医療のプロトコル（取り決め・手順）について話し合うことになっています。6月になれば、プレミアリーグは戻ってくるのか。われわれが目撃する22人の戦いは、今までのプレミアリーグと同じものなのか。その輪郭は、再開第1戦のキックオフを告げる笛が鳴るまではっきりしないのかもしれません。むやみに期待せず、不安を抱えず、現地から届く情報をフラットに受け取ろうと思います。あの熱狂が帰ってくる日がいずれ訪れるとだけ信じて。


【プレミアリーグ2019-20シーズンの再開計画における基本スケジュール】
5月14日（木）医療プロトコルに関するプレミアリーグとPFA /LMAの協議
　　　　　　 オリヴァー・ダウデン文化長官とサッカー当局の会議
5月18日（月）プレミアリーグとクラブ代表者の会議
　　　　　　 ソーシャルディスタンシングの条件下でグループトレーニング開始
5月25日（月）UEFAにおけるシーズン再開計画のデッドライン
6月1日（月）イギリス政府がクローズドドアによるスポーツ開催を許可予定
6月12日（金）プレミアリーグ再開予定日