偏愛的プレミアリーグ見聞録

「I always dreamed of playing for this club」。アーセナルの公式サイトには、子どもの頃からこのクラブでプレイすることを夢見ていたと語るアレクサンドル・ラカゼットの姿が大きく映し出されています。彼のアイドルは、ティエリ・アンリ。グーナーが期待するのも、2003-04シーズンのプレミアリーグで無敗優勝を達成した「ザ・インヴィンシブルズ」のストライカーのようなゴールラッシュでしょう。

「歴史あるクラブが好きだ。マネージャーがしばらくここにいるという事実が、私の好きな安定感のあるクラブであることを示している」。オリンピック・リヨンの公式戦で275試合129ゴール、2014-15シーズンのリーグアンでは33試合27ゴールで得点王。昨季の30試合28ゴールという数字にはPKが10本含まれていますが、ボックス内の攻防でレフェリーがスポットを指差したら、彼にまかせればよいということです。「ゴールを決めるのはもちろんだけど、チームメイトとうまくリンクしたい。全員が連携した流れるようなサッカーが好きなんだ」。プレミアリーグ20発超えが期待できるストライカーが、エジル、アレクシス・サンチェス、ベジェリン、ジャカらと絡んでゴールに迫る姿を観るのが今から楽しみです。

移籍金は非公表ですが、「BBC」は推定4650万ポンド（68億4000万円）と報道。610万ポンドのインセンティブを含めると、最大5260万ポンド（約77億3000万円）といわれる契約は、メスト・エジルの4240万ポンドを軽く超えるクラブレコードです。「いい補強だと思う。スカウトのジレス・グリマンディが初めて彼を観に行ったのは10年前で、ヴェンゲルはその頃から興味を示していた」。フランス・フットボールのジャーナリストであるジュリアン・ローレンス氏はBBCラジオでストライカーを絶賛。「ラカゼット獲得は、アーセナルとヴェンゲルがチャンピオンズリーグがなくてもトッププレーヤーを惹きつけることができると証明した」と語った「BBC Sports」のデヴィッド・アーンステイン記者は、クラブが獲得を切望したラカゼットの加入はトップフライトに戻りたいという彼らが発した深刻なシグナルでもあると述べています。アレクシス・サンチェス、エジル、チェンバレン、ウィルシャー…。この夏のアーセナルの新戦力獲得は、主力が何人クラブを離れるかによって大きく変わってきます。

期待感に満ちたストライカーの獲得は、クラブに残ってほしい選手たちに移籍を思いとどまらせるきっかけになるでしょうか。ジャカが中盤をコントロールし、アレクシス・サンチェス、エジル、ラカゼットが前線をかきまわす布陣が実現すれば、アーセナルはプレミアリーグNo.1の破壊力を手に入れることができるでしょう。リーグアン得点王という勲章を引っ提げてプレミアリーグにやってきた同郷の先輩オリヴィエ・ジルーは、フィットするのに時間がかかり、初年度は10ゴールに留まりましたが、ラカゼットはアレクシス・サンチェスのように最初から飛ばしてくれるのではないでしょうか。その根拠は、獲得に動いた指揮官の言葉のなかにあります。

「彼はここ数年、ゴールを決め続けており、とても効率的なフィニッシャーであることを示してきた。テクニックの質が高く、キャラクターも強い。チームに大きな付加価値をも加え、トップレベルへのチャレンジを手助けしてくれるだろう」（アーセン・ヴェンゲル）

テクニックとキャラクター。デビューシーズンの最初の5試合で8ゴールを叩き込んだセルヒオ・アグエロなど、プレミアリーグで成功したアタッカーたちに共通する素養です。「いつだってシュートを打つ。決められると信じてるから」。アーセナルの公式サイトのインタビュアーに、「What is your secret to good finishing?」と問われて事もなげに答えたストライカーもまた、プレミアリーグとアーセナルの歴史を語るうえで、なくてはならないパーツになるはずと期待しております。最初のゴールは、いきなりシドニー遠征か、あるいは7月末のエミレーツカップか。フランス生まれのゴールマシンがチームにフィットしていくプロセスを、しっかり追いかけたいと思います。