偏愛的プレミアリーグ見聞録

プレミアリーグ12シーズンで415試合出場。クリーンシート147回は歴代4位。ダヴィド・デ・ヘアは、マンチェスター・ユナイテッドの苦しい季節を支えてきた功労者です。しかし、今後も彼が必要かと問われれば、それはまた別の話。「スカイスポーツ」は、クラブと本人の双方が別な選択肢を検討していると報じています。

サー・アレックス・ファーガソンにゴールマウスを任された頃から、ハイボールにバンザイする姿が目立ち、守備範囲は広いとはいえませんでした。それでも、ショットストップの技術はワールドクラス。モイーズ、ファン・ハール、モウリーニョ、スールシャールは、エキサイティングなビッグセーブに何度も救われ、彼以外の選択肢を検討する必要はありませんでした。

プレミアリーグ屈指のショットストッパーから、好不調の波があるGKに評価が変わったターニングポイントは、2018年のワールドカップロシア大会でした。7本のオンターゲットのうち、セーブしたのは1本のみ。その後はイージーなシュートを後逸するシーンが増え、2020-21シーズンの最終盤はディーン・ヘンダーソンにポジションを奪われています。

2021年の夏に退団が噂された守護神は、総合力で勝負する若きGKとのレギュラー争いを制し、オールド・トラフォードの定位置に君臨しました。過去5シーズンのうち、4シーズンはプレミアリーグでフルタイム出場。絶対的な存在ではありながら、ビルドアップのクオリティを重視するテン・ハフ監督の下では、キックもセービングもミスが増えていました。

マンチェスター・ユナイテッドの契約は今月末まで。クラブNo.1の高額サラリーを得ていたベテランGKは、残留となっても大幅な減額は必至です。失点に直結するミスがあるたびに、彼をかばっていたテン・ハフ監督は、新たなエースGKの獲得を検討し始めています。アンドレ・オナナ、ダヴィド・ラヤ、ディオゴ・コスタ。誰が来ても、デ・ヘアは国内カップ要員となりそうです。

昨季プレミアリーグでセーブ率No.1のダヴィド・ラヤは、ブレントフォードが4000万ポンドを主張しています。マン・シティとのCL決勝で冷静なセービングを披露したオナナは、ラヤの上をいく5500万ポンド（約100億円）。ポルトで33試合中16試合という驚異のクリーンシート率を誇るディオゴ・コスタは、バイアウト条項に6500万ポンド（約119億円）と記載されています。

3人とも、ビルドアップの安定感はデ・ヘアより上。インテルのGKとは、既に交渉が行われたようです。メイソン・マウントの移籍金を値切って、ストライカー獲得の費用を確保したいクラブにとって、GKに4000万以上は悩ましい出費です。とはいえ、デ・ヘアの是非については早急に結論を出さなければなりません。

2016年にマンチェスターにやってきたペップ・グアルディオラは、ジョー・ハートを試すことなくブラボにゴールマウスを託し、翌年にはエデルソンを獲得。ユルゲン・クロップは4年めにアリソン・ベッカーを引き入れ、ミケル・アルテタはベルント・レノをラムズデールにスイッチしています。

2年めを迎えるテン・ハフ監督も、先人たちと同じジャッジをするのではないでしょうか。われわれサポーターは、複雑な思いを抱きながらも、「その時」を受け入れるしかありません。